過去からのラブレター①
翌朝。
オフィスフロアにはすでに社員たちが集まり、静かな活気が漂っている。
「おはようございます、社長」
「おはようございます」
夫は軽く頷きながら歩く。
「おはよう」
いつもの落ち着いた声。
社長室の扉が開く。
鞄を置き、椅子に腰を下ろす。
ほどなくして扉がノックされる。
コンコン。
「入れ」
扉が開く。
「おはようございます、社長」
相馬だった。
手にはタブレットと書類。
「おはよう、相馬」
相馬は軽く頭を下げる。
「昨日はお休みいかがでしたか」
「ああ」
夫はコーヒーを一口飲む。
「……休みを取らせてくれて助かった」
相馬は少し驚いた顔をする。
「お礼を言われることではありません」
「いや」
夫は静かに言う。
「ありがとな」
相馬はわずかに笑う。
「どういたしまして」
そしてタブレットを開く。
「本日のスケジュールをお伝えいたします」
「頼む」
「九時より役員会議」
「十時半より金融機関との打ち合わせ」
「十二時、昼食を挟みまして」
「十三時から新規事業の報告」
「十五時から海外支社とのオンライン会議」
「十七時から取引先との会食です」
夫は軽く眉を上げる。
「……今日も詰まってるな」
「いつも通りです」
相馬が淡々と答える。
夫は小さく息を吐く。
「まあいい」
「仕事があるのはありがたい」
「そうですね」
相馬がタブレットを閉じる。
少し間があく。
そして相馬が言った。
「社長」
「ん?」
「今週、夜に少しお時間いただけませんか」
夫が顔を上げる。
「夜?」
「はい」
夫は少し意地の悪い顔で言う。
「……まさか」
相馬が静かに待つ。
「独立か?」
相馬は一瞬ぽかんとした。
「……違います」
夫が少し笑う。
「そうか」
相馬は真顔で言う。
「私は社長に一生ついて行くつもりです」
夫は苦笑する。
「重いな」
「本気です」
「そうか」
相馬は続ける。
「今は詳しく話せませんが」
「社長にお話ししたいことがあります」
夫は相馬の顔を見る。
いつもの冷静な表情。
だが少しだけ真剣だった。
「……仕事の話か?」
「いえ」
相馬は首を横に振る。
「個人的な話です」
夫は少し考える。
「いつがいい」
相馬は答える。
「社長のご都合に合わせます」
夫はスケジュールを思い出す。
「……明日は無理だな」
「明後日」
少し考える。
「夜なら空いてる」
相馬が頷く。
「では明後日の夜で」
「ああ」
相馬はふと思い出したように言う。
「そういえば」
夫が顔を上げる。
「社長と飲むのは久しぶりですね」
夫は少し笑う。
「そうだな」
「ほとんどなかった」
「仕事の会食ばかりだ」
相馬もわずかに笑う。
「確かに」
夫は言う。
「店は任せる」
相馬はすぐに答える。
「個室を押さえておきます」
「ああ」
相馬は軽く頭を下げる。
「では明後日」
「よろしくお願いします」
夫は静かにうなずいた。
「楽しみにしてる」
相馬はそれを聞き、少しだけ意味深に目を細めた。
「……はい」
そして静かに社長室を後にした。




