思い出のクリームソーダ⑥
しばらく静かに食事が続く。
店内には他の客の話し声と食器の音。
結がふと顔を上げた。
「パパ」
「ん?」
「覚えてる?」
「何を」
結は少し考える。
「私の四歳の誕生日」
夫は手を止める。
「……動物園か」
結が驚く。
「覚えてるんだ」
「なんとなくな」
結は少し嬉しそうに笑う。
「私、あんまり覚えてないんだけど」
「ああ」
「でもね」
フォークを持ったまま話し始める。
「動物園行ったの、ちょっと覚えてる」
「ほう」
「キリン見た気がする」
夫は少し笑う。
「ああ」
「見たな」
「結がずっと動かなかった」
「ほんと?」
「キリンの前から離れなかった」
結は少し照れる。
「そんなだったんだ」
夫はうなずく。
「動物好きだったからな」
結は少し考えながら言う。
「たぶんね」
「そこからだと思う」
「何が」
「動物」
結はハンバーグをもう一口食べる。
「なんかね」
「小さい頃からずっと好き」
「犬とか猫も好きだけど」
「動物園の動物とか」
「テレビの動物とか」
「ずっと見てる」
夫は黙って聞いている。
結は少しだけ姿勢を正した。
「それでね」
「パパ」
「ああ」
結は少しだけ真剣な顔になる。
「私」
「将来、獣医になりたい」
夫は静かに結を見る。
結は少し緊張したように続ける。
「動物の病気治したり」
「怪我した動物助けたり」
「そういう仕事」
「やりたい」
少し間。
結が少し不安そうに聞く。
「……変かな」
夫は首を横に振る。
「いや」
静かな声。
「いい夢だ」
結の目が少し明るくなる。
「ほんと?」
「ああ」
夫はうなずく。
「応援する」
その言葉は短かったが、まっすぐだった。
結は少し嬉しそうに笑う。
「ありがとう」
夫はふと三つ目のクリームソーダを見る。
そして続ける。
「……きっと」
結が顔を上げる。
「ママも応援してる」
結は少しだけ視線をそのグラスに向ける。
赤いさくらんぼが揺れている。
結は静かにうなずいた。
「……うん」
そして少し笑う。
「そうだね」
テーブルの上には三つのクリームソーダ。
一つは結。
一つは父。
そして——
もう一つは、今も二人を見守っている人のための席だった。




