結4歳の誕生日③
夕方。
たくさん歩き、たくさん笑い、少しだけ眠そうな結。
車に乗り込むと、夫がバックミラー越しに見る。
「どうだ、満足したか」
結は大きくうなずく。
「うん!たのしかった!」
妻が微笑む。
「キリン、すごかったわね」
「おさるさんも!」
夫がハンドルを握りながら言う。
「……おもちゃ屋、行くか?」
一瞬の沈黙のあと――
「いく!!」
一気に目が覚める結。
「元気だな」
「だって、プレゼントまだだもん!」
⸻
ショッピングモール内のおもちゃ屋。
色とりどりの商品が並ぶ店内。
「一周して決めろ」
「はーい!」
結は小走りで歩き、ぴたりと足を止める。
「……これ!」
指差したのは、大きな箱。
動物園のブロックセット。
キリン、ゾウ、サル、ウサギまで作れる。
妻が目を細める。
「今日がよほど楽しかったのね」
「きりんつくる!」
夫は箱を手に取り、値札を見る。
そして、迷いなく言う。
「これにしよう」
「ほんと!?」
「ああ。四歳の誕生日だからな」
結は飛びつく。
「パパありがとう!」
「ちゃんと自分で片付けるんだぞ」
「うん!」
妻がくすっと笑う。
「約束よ」
レジを終え、袋を受け取る夫。
その横顔はどこか誇らしげだった。
⸻
帰宅。
玄関のドアが開くと、佐川がすぐに現れる。
「おかえりなさいませ」
「ただいま!」
「結お嬢様、本日はお疲れさまでございました」
「さがわ!キリンおっきかった!」
「まあ、それは何よりでございます」
夫が袋を掲げる。
「戦利品だ」
佐川が目を丸くする。
「まあ、素敵でございますね」
「どうぶつえんのブロック!」
「今夜はお祝いのご夕食をご用意しております」
「やったー!」
⸻
ダイニング。
ひな祭りらしい華やかな食卓。
小さなケーキも用意されている。
「改めまして」
妻がグラスを持つ。
「結、四歳のお誕生日おめでとう」
「おめでとう」
夫の低い声。
「おめでとうございます、結お嬢様」
「ありがとう!」
結は嬉しそうに笑う。
食事をしながら、今日の出来事を振り返る。
「うさぎ、ふわふわだった!」
「パパ、ちょっとこわごわ触ってたわね」
「そんなことはない」
「パパ、うさぎに“じっとしてろ”って言ってた!」
「言ってない」
佐川が口元を隠して笑う。
「仲睦まじいご様子が目に浮かびます」
「キリンね、こんなだった!」
結は立ち上がり、首をぐーっと伸ばす真似をする。
夫が静かに支える。
「椅子の上で立つな」
「はーい」
ケーキにろうそくを立てる。
「ふーってしていい?」
「どうぞ」
結は大きく息を吸い込む。
「ふーーー!」
拍手。
「おめでとう」
夫の声が、いつもより少し柔らかい。
結は満足そうに両親を見る。
「きょう、さいこうだった!」
妻の目が優しく細まる。
「ママもよ」
夫も静かに言う。
「俺もだ」
結はにこにこしながら言った。
「らいねんも、みんないっしょ!」
その言葉に、一瞬だけ空気が静かになる。
妻は微笑む。
「ええ、もちろん」
夫も迷いなく言う。
「当たり前だ」
佐川も深くうなずく。
「来年もお祝いできますように」
結は安心したように笑った。
四歳の誕生日。
笑い声に包まれた、あたたかな夜。
――ただその小さな願いが、
叶わぬことをまだ誰も、知らなかった。




