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雨のち晴れ  作者: ありり
267/311

結4歳の誕生日③

夕方。


たくさん歩き、たくさん笑い、少しだけ眠そうな結。


車に乗り込むと、夫がバックミラー越しに見る。


「どうだ、満足したか」


結は大きくうなずく。


「うん!たのしかった!」


妻が微笑む。


「キリン、すごかったわね」


「おさるさんも!」


夫がハンドルを握りながら言う。


「……おもちゃ屋、行くか?」


一瞬の沈黙のあと――


「いく!!」


一気に目が覚める結。


「元気だな」


「だって、プレゼントまだだもん!」



ショッピングモール内のおもちゃ屋。


色とりどりの商品が並ぶ店内。


「一周して決めろ」


「はーい!」


結は小走りで歩き、ぴたりと足を止める。


「……これ!」


指差したのは、大きな箱。


動物園のブロックセット。

キリン、ゾウ、サル、ウサギまで作れる。


妻が目を細める。


「今日がよほど楽しかったのね」


「きりんつくる!」


夫は箱を手に取り、値札を見る。


そして、迷いなく言う。


「これにしよう」


「ほんと!?」


「ああ。四歳の誕生日だからな」


結は飛びつく。


「パパありがとう!」


「ちゃんと自分で片付けるんだぞ」


「うん!」


妻がくすっと笑う。


「約束よ」


レジを終え、袋を受け取る夫。


その横顔はどこか誇らしげだった。



帰宅。


玄関のドアが開くと、佐川がすぐに現れる。


「おかえりなさいませ」


「ただいま!」


「結お嬢様、本日はお疲れさまでございました」


「さがわ!キリンおっきかった!」


「まあ、それは何よりでございます」


夫が袋を掲げる。


「戦利品だ」


佐川が目を丸くする。


「まあ、素敵でございますね」


「どうぶつえんのブロック!」


「今夜はお祝いのご夕食をご用意しております」


「やったー!」



ダイニング。


ひな祭りらしい華やかな食卓。


小さなケーキも用意されている。


「改めまして」


妻がグラスを持つ。


「結、四歳のお誕生日おめでとう」


「おめでとう」


夫の低い声。


「おめでとうございます、結お嬢様」


「ありがとう!」


結は嬉しそうに笑う。


食事をしながら、今日の出来事を振り返る。


「うさぎ、ふわふわだった!」


「パパ、ちょっとこわごわ触ってたわね」


「そんなことはない」


「パパ、うさぎに“じっとしてろ”って言ってた!」


「言ってない」


佐川が口元を隠して笑う。


「仲睦まじいご様子が目に浮かびます」


「キリンね、こんなだった!」


結は立ち上がり、首をぐーっと伸ばす真似をする。


夫が静かに支える。


「椅子の上で立つな」


「はーい」


ケーキにろうそくを立てる。


「ふーってしていい?」


「どうぞ」


結は大きく息を吸い込む。


「ふーーー!」


拍手。


「おめでとう」


夫の声が、いつもより少し柔らかい。


結は満足そうに両親を見る。


「きょう、さいこうだった!」


妻の目が優しく細まる。


「ママもよ」


夫も静かに言う。


「俺もだ」


結はにこにこしながら言った。


「らいねんも、みんないっしょ!」


その言葉に、一瞬だけ空気が静かになる。


妻は微笑む。


「ええ、もちろん」


夫も迷いなく言う。


「当たり前だ」


佐川も深くうなずく。


「来年もお祝いできますように」


結は安心したように笑った。


四歳の誕生日。


笑い声に包まれた、あたたかな夜。


――ただその小さな願いが、

叶わぬことをまだ誰も、知らなかった。

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