表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨のち晴れ  作者: ありり
266/311

結4歳の誕生日②

三月三日。ひな祭りの日。


まだ少し眠たい顔で、結が自室のドアを開ける。


その瞬間――


「結、お誕生日おめでとう」


低く穏やかな夫の声。


「おめでとう、結」


優しく微笑む妻。


「お誕生日おめでとうございます、結お嬢様」


佐川が丁寧に一礼する。


結は一瞬きょとんとして、それから思い出したように目を輝かせた。


「……今日、ゆいのおたんじょうび!」


夫がしゃがみ込む。


「そうだ。四歳だな」


結は両手をいっぱいに広げる。


「よんさい!」


「もう四歳なのね」


妻が目を細める。


「早いですね」


佐川が嬉しそうに言う。


「結お嬢様がいらしてから、毎日があっという間でございます」


結は夫に抱きつく。


「パパ、きょうどうぶつえん!」


「ああ。約束だからな」



朝食のテーブル。


ひな祭りらしく、彩りの良い朝食が並んでいる。


「わあ、ピンク!」


「今日は特別だから」


妻が言うと、結は嬉しそうに手を合わせる。


「いただきます!」


夫も静かに手を合わせる。


「今日はたくさん歩くぞ。ちゃんと食べろ」


「うん!」


佐川がコーヒーを置きながら言う。


「夕飯はわたくしがご用意してお待ちしております」


「ほんと?なに?」


「それは帰ってからのお楽しみです、結お嬢様」


「えー、きになる!」


夫がふっと笑う。


「帰る楽しみが増えたな」



玄関。


コートを着せてもらい、結がくるりと回る。


「佐川、いってきます!」


「いってらっしゃいませ。お気をつけて」


駐車場。

夫が車のキーを回しながら言う。


「じゃあ、行くぞ」



車内。


「パパ、はやくー!」


「安全運転だ」


「パパ、きりんってほんとにあんなに大きいの?」


「見ればわかる」


妻が後部座席を振り返る。


「ママも楽しみよ」


「ママも?」


「ええ」


結は満足そうにうなずいた。



動物園に到着。


平日ということもあり、人はまばら。


「すいてる!」


「ゆっくり見られるわね」


入り口を入ってすぐ、触れ合い体験コーナーの看板。


「うさぎ!やりたい!」


夫が少し眉を上げる。


「ちゃんと優しくできるか」


「できる!」



体験コーナー。


小さなウサギがかごの中で丸くなっている。


スタッフが説明する。


「優しく撫でてくださいね」


結は真剣な顔でそっと手を伸ばす。


「ふわふわ……」


夫も隣で膝をつく。


「軽いな」


「パパ、やさしく!」


「わかってる」


普段クールな夫が、慎重にウサギを抱いている。


その姿を、少し離れたところから妻がスマホで撮る。


「はい、こっち向いてください」


「ママみてー!」


カシャ。


画面には、ウサギを抱く夫と、その隣で嬉しそうに撫でる結。


妻は微笑む。


「素敵な写真よ」


夫がぼそり。


「そんなに撮るな」


「今日は特別だから」



キリンのエリア。


結は柵の前で立ち止まる。


「……おっきい」


首をぐっと上げる。


「パパより大きい?」


「当たり前だ」


妻が笑う。


「影も大きいわね」


キリンがゆっくりと葉を食べる。


夫も思わず見入る。


「近くで見ると迫力あるな」


「ママ、あんなに首ながかったらどうする?」


「洗濯物を干すのが大変ね」


結がきゃははと笑う。



猿山。


猿が元気に走り回る。


「みて!ジャンプした!」


「本当ですね」


一匹が変な顔をしてこちらを見る。


結が指さす。


「あのこ、パパにちょっとにてる!」


「誰がだ」


即座に返す夫。


妻がくすっと笑う。


「確かに少しだけ」


「お前まで言うのか」


結はお腹を抱えて笑う。


「うそだよ!」


春のやわらかい日差しの中。


結だけではない。


夫も、妻も。


三人とも、同じように笑っている。


四歳の誕生日。


その一日は、

穏やかで、あたたかく、確かに家族の時間だった。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ