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雨のち晴れ  作者: ありり
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手付かずの夕食⑩ 〜妻視点〜

私は、その日ずっと迷っていた。


民宿の部屋にいても落ち着かず、外を歩いても気持ちは晴れない。

少し離れれば冷静になれると思っていたのに、結局考えるのは夫のことばかりだった。


朝、無事だとだけ伝えた。

そして返ってきたのは、短い返信。


――わかった。無事で良かった。


その文を何度も見返した。


いつもの夫らしい、簡潔な言葉。

けれど、その中に責めるような響きがなかったことが、かえって胸に残った。


無事で良かった。


その一言に、少なくとも心配はしてくれていたのだと感じた。

でも、それが愛情なのか、夫としての責任感なのか、情なのか、そこまではわからない。


わからないまま、離れていても苦しいのなら。

逃げるように距離を置いたままでは、何も変わらないのではないか。


そう思い始めたのは、昼を過ぎた頃だった。


私は一度、家に帰ろうと決めた。


きちんと話をしよう。

自分がどう傷ついたのか。

それでも、夫のことが好きだということ。

だからこそ苦しかったのだということ。


全部、ちゃんと伝えようと思った。


怖かった。


言葉にしてしまえば、もう後戻りはできない。

もし夫が、そこまでの気持ちはない、ただ妻としてそこにいてくれればいいと思っているだけだとしたら。

もし私がひとりで期待していただけだと知ったら。


きっと傷つく。

たぶん、今度こそ本当に立ち直れないくらい。


それでも、知らないままではいられなかった。


夫に気持ちがないのなら、それも受け入れよう。

そう決めた。


好きだからこそ、曖昧なままでいたくなかった。

自分だけが想っているのかもしれない、その不安を抱えたまま、また何事もなかったように隣に立つことはできない。


だったら、一度帰って話そう。


逃げるのではなく、自分の足で戻って、自分の口で伝えよう。


そう決めたとき、胸の奥に小さな震えが走った。

不安もある。

怖さもある。

けれど、少しだけ気持ちが定まった気もした。


連絡はしなかった。


今夜帰ります、と送ろうかとも思った。

けれど、文字だけで済ませたくなかった。

話すと決めたのなら、ちゃんと顔を見て伝えたかった。


だから私は何も送らず、夕方まで民宿で静かに過ごした。

何度も深呼吸をして、頭の中で言いたいことをまとめようとした。

でも結局、きれいな言葉にはならなかった。


傷つきました。

悲しかったです。

でも、好きなんです。


たぶん、伝えたいのはそれだけなのだと思った。

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