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雨のち晴れ  作者: ありり
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始まる新しい年②

――元日・午後


食事を終え、少しだけソファで休んだあと。


夫が立ち上がる。


「そろそろ行くか」


「いくー!」


結はすでにコートを手にしている。


妻が微笑む。


「近くだから歩きましょうか」


「ああ。その方が正月らしい」


玄関でそれぞれコートを羽織る。


結が白いマフラーを首に巻く。


「ママ、やって!」


「はいはい」


ふわりと巻いてやると、結は鏡を見て満足そうに頷く。


「うさぎさん!」


夫も自分のマフラーを巻く。


妻がそっと見る。


黒いコートに、白。


やはり、よく似合っている。


夫が妻を見る。


「……似合ってる」


「どっちがですか?」


「二人ともだ」


結が嬉しそうに言う。


「パパも!」


夫は少しだけ照れたように目を逸らす。


「そうか?」


「うん! 3にんいっしょ!」


妻も頷く。


「ええ、よく似合ってます」


ほんの少し、夫の口元が緩む。



近所の神社


鳥居の前には、思っていたより多くの人。


「わあ……いっぱい」


結が目を丸くする。


「元日だからな」


手をつなぎ、人の流れに沿って進む。


境内には屋台の甘い匂い、鈴の音、子どもたちの笑い声。


「ちゃんと順番守るんだぞ」


「はーい」


賽銭箱の前。


結が小さな手でお金を入れる。


「なにお願いするの?」


妻が小声で聞く。


「ひみつ!」


夫が鈴を鳴らし、三人で手を合わせる。


静かな一瞬。


冬の空気が澄み切っている。


参拝を終え、境内を歩いていると。


「パパ!」


結が立ち止まる。


「おみくじ、やりたい!」


夫が妻を見る。


「どうする?」


妻は微笑む。


「せっかくですもの」


「よし。引いてみろ」


結が真剣な顔で箱を振る。


出てきた番号を巫女に渡し、紙を受け取る。


ゆっくり広げる。


「……」


「どうだ?」


結がぱっと顔を上げる。


「だいきち!」


「本当か?」


「ほんと!」


妻が覗き込む。


「すごいわ。元日から縁起がいいわね」


夫が小さく笑う。


「今年はいい年になるな」


結が得意げに胸を張る。


「ゆい、ついてる!」


「そうだな」


夫が結の頭を撫でる。



帰り道。


少し人通りが落ち着いた道を、3人並んで歩く。


夫がふと、妻に言う。


「……悪いな」


「何がですか?」


「今日しか休めない」


静かな声。


「正月ぐらい、もっと一緒にいたいんだが」


妻は少しだけ立ち止まり、夫を見る。


「今日、こうして3人で出かけられたこと。それだけで十分です」


「……本心か?」


「ええ」


白い息が重なる。


「あなたが忙しいのは知っています。でも、約束通り一緒にいてくれた。それが嬉しいんです」


夫は数秒、黙る。


そして小さく言う。


「ありがとう」


結が間に入る。


「パパ、ママ、なにこそこそしてるの?」


「なんでもない」


夫が前を向く。


「今年もよろしくな」


妻も並んで歩きながら答える。


「こちらこそ。今年もよろしくお願いします」


結が両手を上げる。


「ゆいも!」


夫と妻が同時に笑う。


「よろしく」


白いマフラーが、冬の風にふわりと揺れる。


小さな神社。

大きな願い。


家族三人で迎えた、新しい一年。


静かで、温かい始まりだった。


挿絵(By みてみん)

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