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雨のち晴れ  作者: ありり
236/311

始まる新しい年①

――1月1日 元日・朝


静かな冬の光が、タワマン最上階のリビングに差し込む。


キッチンから、出汁のやさしい香り。


妻が小さな鍋の蓋を開ける。


「……よし」


雑煮の湯気がふわりと立ちのぼる。

テーブルには、簡単ではあるが丁寧に詰めたおせち。


黒豆、伊達巻、かまぼこ、数の子。


「ママー、もうたべられる?」


結が寝ぐせのついたまま顔を出す。


「おはよう、結。あけましておめでとう」


「……あ!」


結はぱっと姿勢を正す。


「あけましておめでとうございます!」


「よく言えました」


そこへ、寝室から夫が出てくる。


黒の部屋着姿。


「……いい匂いだな」


妻が振り向き、柔らかく微笑む。


「あけましておめでとうございます」


夫は一瞬、妻を見つめる。


「ああ。あけましておめでとう」


結が間に割って入る。


「パパ! あけましておめでとうございます!」


夫は少しだけ口元を緩める。


「あけましておめでとう、結」



その時、控えめな足音。


「旦那様、奥様」


佐川が玄関の方から現れる。

きちんとした外出用のコート姿。


「本日はお休みをいただきます」


妻が微笑む。


「ええ。楽しんできて」


結が駆け寄る。


「さがわ、あけましておめでとう!」


佐川は少し目を細める。


「お嬢様、あけましておめでとうございます」


夫が低く言う。


「気をつけて行け」


「はい、旦那様」


佐川が軽く頭を下げる。


「夕方には戻ります」


すると妻が首を振る。


「1日休みなんだから、もっとゆっくりしてきなさい」


「ですが……」


「私たち、今日は3人で出かける予定なの。心配いらないわ」


結がにやにやする。


「さがわ、たのしんでねー!」


佐川の頬がわずかに赤くなる。


「……はい」


そして静かにドアが閉まる。



リビングに戻る3人。


夫が席に着く。


「さて」


妻が雑煮をよそう。


「どうぞ」


湯気の立つ椀を夫の前に置く。


結が手を合わせる。


「いただきます!」


「いただきます」


3人の声が重なる。


夫が一口、雑煮をすする。


「……うまい」


妻がほっとする。


「本当?」


「ああ。ちょうどいい」


結が口いっぱいに餅を頬張る。


「おもち、のびるー!」


「ゆっくり食べなさい」


「パパ、くろまめもたべて!」


「命令か?」


「うん!」


夫は小さく笑い、黒豆を口に運ぶ。


穏やかな時間。


妻が改めて姿勢を正す。


「今年も、よろしくお願いします」


夫も箸を置く。


「こちらこそ」


結も真似をする。


「よろしくおねがいします!」


夫が結の頭を撫でる。


「元日だ。今日は何も考えなくていい」


妻が尋ねる。


「仕事の電話も?」


「今日は出ない」


結が目を輝かせる。


「ほんと!?」


「ああ。約束だ」


少し間を置いて、夫が言う。


「食事が終わったら、3人で出かけるぞ」


「どこに?」


「近くの神社だ。初詣」


結が立ち上がりそうになる。


「マフラー!」


妻が笑う。


「白いうさぎさんね」


夫が静かに言う。


「せっかくのお揃いだ」


結は満面の笑み。


「3にん、いっしょ!」


夫は妻を見る。


「準備できるか?」


「ええ」


静かに頷く妻。


外は澄んだ冬空。


新しい一年が、静かに始まっていた。

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