表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨のち晴れ  作者: ありり
235/311

穏やかな年末⑤ 〜妻の胸の内〜

夜。


夫と結がソファで並んでテレビを見ている。

白いマフラーは、きれいに畳んでテーブルの端に置いてある。


私はキッチンで湯のみを洗いながら、ふと今日のことを思い返していた。


――クリームソーダ。


緑色の炭酸に、白いバニラアイス。

上にちょこんとのった赤いさくらんぼ。


小さい頃、両親にたまにデパートへ連れて行ってもらった日の特別な飲み物だった。

普段は頼めない、少しだけ背伸びしたご褒美。


「今日は好きなもの頼んでいいよ」


そう言われると、必ず選んだのがクリームソーダだった。


グラスの中で溶けていくアイスを、もったいないと思いながら混ぜて。

父と母が向かいで笑っていた光景を、今でも覚えている。


――今日。


向かいに座っていたのは、結だった。


「ママ、まざってくよ!」


嬉しそうにグラスをのぞき込む小さな顔。


あの頃の自分と、少し重なった。


(懐かしい……)


同じ飲み物を、今度は“母”として娘と飲んでいる。


時間は流れているのに、

幸せの形はどこか似ている。


胸の奥が、静かに温かくなった。


そして――お揃いのマフラー。


結が「これ!」と指をさした時、

自然と3人の姿を思い浮かべていた。


夫が白いマフラーを巻く姿を想像した瞬間、

少しだけ可笑しくて、でも愛おしくて。


(きっと似合う)


そう思えた自分が、少し嬉しかった。


家に帰って、実際に巻いた夫の姿。

照れくさそうにしながらも、確かに喜んでくれていた。


結の満足そうな顔。


あの瞬間、買ってよかったと心から思った。


物そのものよりも、

それを選んだ時間と、渡した瞬間と、

3人で笑ったこと。


それが何よりの宝物だ。


来年も――


また、こうして何気ない日にデパートへ行き、

同じものを食べて、

同じものを選んで、

笑い合えるだろうか。


夫は忙しい。

日々は慌ただしい。


それでも。


(来年も、再来年も……)


小さな思い出を、ひとつずつ増やしていけたらいい。


結が大きくなった時、

今日のクリームソーダを思い出してくれたらいい。


お揃いのマフラーを見て、

「あの年の大晦日ね」と笑えたらいい。


妻はそっとリビングを見る。


ソファで結が夫にもたれかかり、眠そうにしている。

夫が無言でその頭を支えている。


(幸せね)


声には出さず、胸の中で呟く。


そして静かに願う。


来年もまた、

この人たちと、

たくさんの思い出を重ねていけますように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ