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雨のち晴れ  作者: ありり
234/311

穏やかな年末④

――12月31日 夕方


玄関のドアが開く。


「ただいま」


「ただいまー!」


結が元気よく飛び込む。


だが、リビングの灯りがついている。


「……あれ?」


ソファから立ち上がったのは、コート姿の夫だった。


「おかえり」


妻が目を丸くする。


「あなた……もう?」


「ああ。早めに切り上げた。ついさっき帰ったところだ」


結がぱあっと顔を輝かせる。


「パパー!」


勢いよく抱きつく。


夫は受け止め、少し笑う。


「どこに行ってた?」


「ママとデパートへデート!」


「デート?」


夫が妻を見る。


妻は肩をすくめる。


「のんびり、ね」


結は興奮気味に続ける。


「ハンバーグたべた! クリームソーダのんだ!」


「……豪華だな」


「おそろいだったの!」


「何がだ?」


「ハンバーグも、クリームソーダも!」


夫が低く笑う。


「そうか」


結が急に思い出したように声を上げる。


「パパ! おみやげある!」


「ほう?」


結は妻の手を引く。


「はやく! はやくわたして!」


妻はくすりと笑い、紙袋を差し出す。


「実はね。結が選んだんです」


「俺に?」


「3人お揃いですよ」


夫が袋を開ける。


中から現れたのは――白い、ふわりとしたマフラー。


「……」


一瞬、静かになる。


結が胸を張る。


「これ、ゆいがえらんだ!」


「うさぎさんみたいでしょ?」


夫はマフラーを手に取り、指で感触を確かめる。


「……なるほど」


妻が少しだけ様子をうかがう。


「迷ったけれど、意外と似合うかもって思って」


夫はゆっくりと妻を見る。


「意外と、か」


「いい意味で、ですよ」


小さな沈黙のあと、夫がわずかに微笑む。


「ありがとう。嬉しい」


結が跳ねる。


「やったー!」


「3人分あるのか?」


「あるよ!」


結が自分の分を首に巻いてみせる。


「ほら!」


妻も自分の分を手に取る。


「どう?」


夫はしばらく二人を見てから言う。


「……悪くないな」


「パパもつけて!」


結に急かされ、夫はマフラーを首に巻く。


黒いコートに、白。


確かに、思っていたより似合う。


妻がふっと笑う。


「ほら、やっぱり」


「……うさぎか?」


「ちょっと」


結がけらけら笑う。


「パパ、うさぎー!」


夫は苦笑しながらも、どこか満足そうだった。


「よし」


突然、夫が言う。


「明日、このマフラーで初詣に行くか」


「えっ、ほんと!?」


「近くの神社でいいだろう。3人で」


結が両手を挙げる。


「いくー!」


妻も穏やかに頷く。


「ええ、ぜひ」


夫は結の頭を撫でる。


「お揃いだからな」


「うん!」



その後、買ってきたケーキを切り分ける。


「パパ、どれにする?」


「お前が選べ」


「じゃあ、いちごの!」


「じゃあ俺はこれだ」


妻が笑う。


夫が静かに言う。


「良い大晦日だな」


結が真顔で頷く。


「うん!」


夜はゆっくりと更けていく。


テレビの笑い声、

ケーキの甘い香り。


忙しい一年の終わり。


けれど今、この部屋には穏やかな時間だけが流れていた。


明日は元日。


白いお揃いのマフラーで、

3人一緒に、新しい年を迎える。

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