結のサンタへのお願い⑤
クリスマスの夜。
結はうさぎのぬいぐるみを抱いたまま、満足そうに眠っている。
夫婦の寝室。
静かな灯りの中、ベッドの端に並んで座る二人。
妻がぽつりと呟く。
「……結、あんなに喜んでくれて」
夫は頷く。
「ああ」
「本当に、嬉しそうだった」
少し間を置いて、妻は微笑む。
「私もね、とても幸せなクリスマスでした」
夫はちらりと横を見る。
「……そうか」
「ええ。あなたが早く帰ってきてくれて。三人で過ごせて。写真も撮れて」
妻は小さく笑う。
「願いが叶ったのは、結だけじゃないの」
夫は少し視線を逸らす。
「……大げさだ」
「大げさじゃないわ」
静かな空気が流れる。
夫はふっと息をつき、ベッド脇の引き出しを開ける。
「……これ」
差し出された、小さな小包。
「え?」
「その……一応な」
妻は驚いて目を見開く。
「私に?」
「他に誰がいる」
不器用な言い方。
妻はそっと受け取る。
「開けても?」
「ああ」
包みを開く指先が、少し震えている。
中から現れたのは、繊細なダイヤのネックレス。
小さな光が、静かに瞬く。
妻は息を呑む。
「……」
声が出ない。
夫が照れくさそうに言う。
「毎回、同じようなもので悪いな」
「そんな……」
妻は目を潤ませながら首を振る。
「嬉しいです……」
ようやく絞り出すように言う。
夫は少し早口になる。
「派手すぎないものを選んだ。普段使いできそうなやつだ」
「普段使い……?」
「ああ。特別な日だけじゃなくて、いつでも」
妻はネックレスを両手で包む。
「……あなたが、私のために時間を使って選んでくれたの?」
「……当然だろ」
ぶっきらぼうだが、その声は柔らかい。
妻の目から、ぽろりと涙が落ちる。
「ありがとう」
「泣くな」
「嬉しくて」
小さく笑う。
「毎日、身につけます」
「毎日はいい」
「毎日つけるの」
少し意地になったように言う妻に、夫はふっと笑う。
「……好きにしろ」
夫はネックレスを受け取り、立ち上がる。
「つけてやる」
妻は静かに髪を持ち上げる。
夫の指が、そっと首元に触れる。
冷たいダイヤが、肌に触れる。
カチ、と留め具の音。
「……どうだ」
妻はゆっくり振り向く。
ダイヤが、柔らかい灯りを受けてきらめく。
夫はしばらく見つめてから、低く言う。
「……似合う」
妻は頬を染める。
「本当に?」
「ああ」
「ありがとう」
夫は照れ隠しのように視線を逸らす。
「……お前が喜ぶなら、それでいい」
妻はそっと夫の腕に寄り添う。
ネックレスが、二人の間で静かに光る。
外では、遠くで鐘の音が鳴っている。
結の願いが叶った夜。
そして――
夫婦にとっても、忘れられないクリスマスの夜だった。




