結のサンタへのお願い④
クリスマスの朝。
まだ薄暗いリビングに、小さな足音が響く。
「……あっ!」
ツリーの前で、結の声が弾けた。
「ママー! パパー! きて!!」
寝室から慌てて出てくる妻と夫。
ツリーの下には、大きな箱。
赤いリボンがかかっている。
「サンタさん……」
結は震える手で包みを開ける。
中から現れたのは――
ふわふわの、大きなうさぎのぬいぐるみ。
「うわああああ!」
結は飛び跳ねた。
「うさちゃん! おおきい!!」
ぎゅっと抱きしめる。
「ママ見て! パパ見て!」
妻は微笑みながら口元を押さえる。
「かわいい……」
夫も目を細める。
「随分立派なうさぎだな」
結はうさぎを抱いたまま、真剣な顔で言う。
「サンタさん、きてくれたんだね!」
夫と妻は、視線をそっと交わす。
「ああ、きてくれたな」
結はうさぎに話しかける。
「きょうはね、みんなでクリスマスするんだよ」
朝食のあと。
夫はコートを羽織りながら結にしゃがみ込む。
「結」
「なあに?」
「今日はな、夕方には帰る」
結の目が丸くなる。
「ほんと!?」
「ああ。仕事を早く終わらせる」
「みんなでクリスマスする?」
「する」
結はうさぎを抱いたままぴょんと跳ねる。
「やったー!!」
そして、夫の首にぎゅっと抱きつく。
「はやく帰ってきてね!」
夫は少し驚きながらも、優しく頭を撫でる。
「約束だ」
「ぜったいだよ?」
「絶対だ」
妻が微笑む。
「気をつけて」
「ああ」
――夕方。
玄関のドアが開く。
「ただいま」
「パパー!!」
うさぎを抱えた結が飛び出す。
夫は思わず笑う。
「間に合ったな」
テーブルにはチキン、サラダ、スープ、そして大きなクリスマスケーキ。
妻がエプロン姿で微笑む。
「おかえりなさい」
「……豪華だな」
「今日は特別ですから」
結は夫の手を引く。
「みて! うさちゃんもいっしょ!」
椅子の上には、うさぎのぬいぐるみがちょこんと座っている。
夫は思わず笑う。
「ちゃんと席があるのか」
「かぞくだもん!」
その一言に、夫の表情が柔らかくなる。
全員が席に座る。
結とうさぎ、妻、夫。
そこへ佐川が控えめに言う。
「旦那様、奥様。よろしければお写真を」
妻がすぐにスマホを手に取る。
「お願いしていい?」
「かしこまりました」
妻はスマホを佐川に託し、夫の隣に座る。
「結、こっち向いて」
「うさちゃんも!」
夫が結の肩を抱く。
「よし、撮るぞ」
佐川が少し下がる。
「参ります。三、二、一――」
シャッター音。
その瞬間。
三人の笑顔と、うさぎのふわふわの耳が並んだ。
結は嬉しそうに言う。
「ねえ、ねえ!」
「どうした?」
「ねがい、かなった!」
妻が優しく尋ねる。
「どんな願いだったの?」
結はにこにこしながら答える。
「みんなで、なかよくクリスマスすること!」
夫は一瞬、言葉を失う。
そして静かに言う。
「……叶ってるな」
「うん!」
結はうさぎをぎゅっと抱きしめる。
「いちばんのプレゼントだもん!」
夫は妻を見る。
妻も微笑み返す。
「幸せですね」
「ああ」
ツリーの灯りが、穏やかに揺れる。
笑い声と、ケーキの甘い匂い。
その夜は、あたたかく、静かに、確かに――
幸せなクリスマスだった。




