結のサンタへのお願い③
夜。
結の部屋。
小さな寝息が、規則正しく響いている。
「……寝たな」
夫が小声で言う。
妻はそっと布団を整え、結の頬にかかる髪を優しく払う。
「ぐっすりね」
二人は静かに部屋を出る。
――リビング。
ツリーの灯りだけが、柔らかく瞬いている。
その下に置かれた白い封筒。
妻が小さく息をのむ。
「……本当に、見るの?」
夫は少し迷うように視線を落とす。
「……サンタの代わりだ」
「大丈夫かしら」
「戻せば問題ない」
少しだけ悪戯をするような顔で言う夫に、妻はくすっと笑う。
「あなた、意外と大胆ね」
夫は封筒を手に取る。
「……開けるぞ」
ぺり、と静かな音。
中から折りたたまれた紙を取り出し、ゆっくり広げる。
二人は同時に、息を止めた。
「……」
大きな、赤いハート。
その中に、三人の絵。
背の高い人物と、少し長い髪の人物と、小さな女の子。
ぎこちない線で、でも一生懸命に描かれている。
横には、まだ少し覚えたてのひらがなで。
「ぱぱ」
「まま」
妻の喉が、きゅっと鳴る。
「……これ……」
夫は黙ったまま、じっと絵を見つめている。
紙の端に、小さくもう一行。
「すき」
少し曲がった文字。
それを見た瞬間、妻の目に涙が滲む。
「……プレゼントじゃないのね」
夫の声が、低く掠れる。
「……ああ」
「家族で……仲良く過ごしたいってことね」
妻は口元を押さえる。
「こんな……」
夫はしばらく何も言えなかった。
ただ、ハートの中の三人を見つめる。
「……俺たちと、過ごしたいんだな」
「ええ」
二人の間に、静かな温もりが流れる。
夫がゆっくり息を吐く。
「……クリスマス」
「はい?」
「その日は、早く帰る」
妻が顔を上げる。
「本当に?」
「予定を空ける。仕事は前倒しする」
少しだけ照れたように言う。
「結の願いだからな」
妻は微笑む。
「それがいいですね」
「家族で祝おう」
「ええ。三人で」
夫は紙を丁寧に折り、封筒に戻す。
「……これは、見なかったことにする」
「はい」
そっと元の場所へ戻す。
ツリーの灯りが、やわらかく三人を照らしている。
夫は小さく呟く。
「……十分すぎる願いだ」
妻は隣で、静かに頷いた。
今年のクリスマスは、きっと特別になる。




