結のサンタへのお願い②
午後。
妻と幼稚園から帰ってきた結は、コートもそこそこに脱ぐと、リビングへ駆け込んだ。
「 さがわー!」
「おかえりなさいませ、結お嬢様」
妻が微笑み、佐川が丁寧にコートを受け取る。
結は真剣な顔で言った。
「いまから、てがみかく!」
妻は目を丸くする。
「もう書くの?」
「うん! やくそくしたもん!」
そう言うと、結は小さな机に画用紙と色鉛筆を広げた。
くるり、と振り返る。
「ママも、さがわも、ぜったい見ちゃだめだからね」
「え、少しくらい……」
「だめ!」
思いのほか強い口調に、妻は思わず笑う。
「はいはい。見ません」
佐川も静かに頭を下げる。
「決して拝見いたしません」
結は満足そうに頷くと、真剣な顔で書き始めた。
カリカリと鉛筆の音。
ときどき色鉛筆を持ち替えて、何かを描いている。
妻がそっと近づこうとすると――
「みないで!」
「ごめんごめん」
妻は両手を上げて後ろへ下がる。
佐川が小声で囁く。
「奥様、あちらでお茶でも」
「そうね……気になるけど」
二人はキッチン側へ移動する。
それでも妻はちらちらと様子を見てしまう。
結は舌を少し出しながら、真剣に文字を書き、横に大きな絵を描いているようだった。
「……ハート?」
「奥様」
「見てないわよ、見てないけど、なんとなくよ」
結は何度も確認する。
「ほんとに見てない?」
「見てないわ」
「見てません」
ようやく安心したのか、最後に大きく丸をつけ、紙を丁寧に折った。
「できた……!」
封筒に入れ、小さな手でぺたんと糊付けする。
ちょうどそのとき、玄関のドアが開く音がした。
「ただいま」
低く落ち着いた声。
結は勢いよく立ち上がる。
「パパ!」
ぱたぱたと走っていく。
「かけた!」
「お、もう書いたのか」
「うん! ちゃんとかけたよ!」
夫はコートを脱ぎながら目を細める。
「ママも佐川も見てないか?」
結は振り返り、じっと二人を見る。
妻は即座に首を振る。
「見てません」
佐川も穏やかに。
「誓って」
結は満足そうに頷いた。
「よし」
夫はしゃがみ込み、結と目線を合わせる。
「じゃあ、ツリーの下に置こうか」
「うん!」
三人でリビングの大きなクリスマスツリーの前へ。
きらきらと光るオーナメントの下。
結は両手で封筒を抱え、そっとツリーの根元に置いた。
「サンタさん、ちゃんと読んでね」
小さな声で呟く。
夫が静かに言う。
「これで大丈夫だ」
「うん!」
結は満面の笑みで振り返る。
「ぜったい見ちゃだめだよ?」
夫は真顔で頷く。
「約束だ」
妻も優しく微笑む。
「約束」
ツリーの灯りが揺れる中、白い封筒は静かにそこに置かれていた。




