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雨のち晴れ  作者: ありり
225/311

結のサンタへのお願い①

12月。

タワーマンション最上階の窓から見える街は、白い息ときらめくイルミネーションに包まれていた。


リビングの大きな窓の向こう、ツリーのように輝く通りを見つめながら、結はソファの上で足をぶらぶらさせている。


「もうすぐクリスマスだね、結」


妻が優しく微笑む。


「うん! サンタさんくるもんね!」


「そうね。サンタさんに何お願いするの?」


結はぱちりと大きな目を瞬かせる。


「……ひみつ」


「え? おもちゃ? 新しいお人形?」


「ひみつ」


「じゃあ絵本? お洋服?」


結はにやっと笑って首を横に振る。


「ぜーったい、ひみつ!」


「ママにも?」


「うん!」


妻は少し困ったように笑う。


「そうなの……ママ、ちょっと知りたかったな」


結はくすくす笑いながらツリーのオーナメントを見上げていた。


―――


結が自室で遊んでいる間、妻はキッチンで佐川に小声で話しかける。


「佐川……お願いがあるの」


「はい、奥様」


「結がね、サンタさんへのお願いを秘密にしてるの。さりげなく聞き出してもらえないかしら?」


佐川は穏やかに微笑む。


「承知いたしました。結お嬢様の信頼は得ているつもりですので」


「お願いね」


その後。


佐川は結の部屋で一緒にお絵描きをしながらさりげなく聞く。


「お嬢様、クリスマスが楽しみですね」


「うん!」


「サンタ様には何をお願いされるのですか?」


結はぴたりと手を止める。


「……ひみつ」


「佐川にも、ですか?」


「うん!」


「少しだけヒントを……?」


結は両手で口を隠して笑う。


「だめー! ぜったいひみつ!」


佐川は小さく息をつき、優しく微笑んだ。


「それは失礼いたしました。では、楽しみにしておきます」


―――


夜。


結が眠った後。


寝室の隣のリビング。

柔らかな間接照明の下で、妻は夫に相談する。


「……やっぱり、教えてくれないの」


夫は書類から目を上げる。


「佐川にも?」


「ええ。徹底してるわ」


夫は少し考え込む。


「……なら、こうしよう」


「え?」


「サンタ宛に手紙を書かせる」


妻は目を丸くする。


「手紙?」


「ああ。欲しいものを書いて封をする。そして――」


夫は静かに続ける。


「その手紙は、俺もお前も見ないと約束する」


「……見ないの?」


「見ないと結には伝える。サンタだけが読む、と」


妻は少し安心したように微笑む。


「それなら……結も安心するかもしれないわね」


夫は頷く。


「明日の朝、幼稚園に送る時に話してみる」


妻は小さく頭を下げる。


「お願いします」


「任せてくれ」


―――


翌朝。


運転手付きの黒い高級車がエントランスを静かに出発する。


後部座席。

チャイルドシートに乗っている結は小さなリュックを抱え、窓の外を見ている。


「結」


夫が穏やかに声をかける。


「なあに?」


「サンタさんにお願いするもの、秘密なんだよな」


結はにこっと笑う。


「うん!」


「なら、手紙を書いたらどうだ?」


「てがみ?」


「欲しいものを紙に書いて、封筒に入れる。そしてツリーの下に置く」


結は目を輝かせる。


「そしたらサンタさんよむ?」


「ああ。サンタさんだけが読む」


夫はゆっくり続ける。


「パパもママも、見ない」


「ほんと?」


「約束だ」


結は少し考えてから、大きく頷く。


「……わかった! こんやかく!」


「よし」


「パパもママも、ぜったい見ちゃだめだよ?」


「見ない」


夫は真剣な顔で答える。


「約束だ」


結は安心したように笑った。


車は幼稚園の門の前に静かに止まる。


小さな背中を見送りながら、夫はふっと息をついた。


――今夜、どんな願いが綴られるのか。


それは、サンタだけが知っている。

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