結のサンタへのお願い①
12月。
タワーマンション最上階の窓から見える街は、白い息ときらめくイルミネーションに包まれていた。
リビングの大きな窓の向こう、ツリーのように輝く通りを見つめながら、結はソファの上で足をぶらぶらさせている。
「もうすぐクリスマスだね、結」
妻が優しく微笑む。
「うん! サンタさんくるもんね!」
「そうね。サンタさんに何お願いするの?」
結はぱちりと大きな目を瞬かせる。
「……ひみつ」
「え? おもちゃ? 新しいお人形?」
「ひみつ」
「じゃあ絵本? お洋服?」
結はにやっと笑って首を横に振る。
「ぜーったい、ひみつ!」
「ママにも?」
「うん!」
妻は少し困ったように笑う。
「そうなの……ママ、ちょっと知りたかったな」
結はくすくす笑いながらツリーのオーナメントを見上げていた。
―――
結が自室で遊んでいる間、妻はキッチンで佐川に小声で話しかける。
「佐川……お願いがあるの」
「はい、奥様」
「結がね、サンタさんへのお願いを秘密にしてるの。さりげなく聞き出してもらえないかしら?」
佐川は穏やかに微笑む。
「承知いたしました。結お嬢様の信頼は得ているつもりですので」
「お願いね」
その後。
佐川は結の部屋で一緒にお絵描きをしながらさりげなく聞く。
「お嬢様、クリスマスが楽しみですね」
「うん!」
「サンタ様には何をお願いされるのですか?」
結はぴたりと手を止める。
「……ひみつ」
「佐川にも、ですか?」
「うん!」
「少しだけヒントを……?」
結は両手で口を隠して笑う。
「だめー! ぜったいひみつ!」
佐川は小さく息をつき、優しく微笑んだ。
「それは失礼いたしました。では、楽しみにしておきます」
―――
夜。
結が眠った後。
寝室の隣のリビング。
柔らかな間接照明の下で、妻は夫に相談する。
「……やっぱり、教えてくれないの」
夫は書類から目を上げる。
「佐川にも?」
「ええ。徹底してるわ」
夫は少し考え込む。
「……なら、こうしよう」
「え?」
「サンタ宛に手紙を書かせる」
妻は目を丸くする。
「手紙?」
「ああ。欲しいものを書いて封をする。そして――」
夫は静かに続ける。
「その手紙は、俺もお前も見ないと約束する」
「……見ないの?」
「見ないと結には伝える。サンタだけが読む、と」
妻は少し安心したように微笑む。
「それなら……結も安心するかもしれないわね」
夫は頷く。
「明日の朝、幼稚園に送る時に話してみる」
妻は小さく頭を下げる。
「お願いします」
「任せてくれ」
―――
翌朝。
運転手付きの黒い高級車がエントランスを静かに出発する。
後部座席。
チャイルドシートに乗っている結は小さなリュックを抱え、窓の外を見ている。
「結」
夫が穏やかに声をかける。
「なあに?」
「サンタさんにお願いするもの、秘密なんだよな」
結はにこっと笑う。
「うん!」
「なら、手紙を書いたらどうだ?」
「てがみ?」
「欲しいものを紙に書いて、封筒に入れる。そしてツリーの下に置く」
結は目を輝かせる。
「そしたらサンタさんよむ?」
「ああ。サンタさんだけが読む」
夫はゆっくり続ける。
「パパもママも、見ない」
「ほんと?」
「約束だ」
結は少し考えてから、大きく頷く。
「……わかった! こんやかく!」
「よし」
「パパもママも、ぜったい見ちゃだめだよ?」
「見ない」
夫は真剣な顔で答える。
「約束だ」
結は安心したように笑った。
車は幼稚園の門の前に静かに止まる。
小さな背中を見送りながら、夫はふっと息をついた。
――今夜、どんな願いが綴られるのか。
それは、サンタだけが知っている。




