休日の書斎、文化祭の約束③
書斎の扉が静かに開く。
「では、失礼いたします」
相馬の落ち着いた声が廊下に響く。
リビングで結と絵本を読んでいた佐川が、はっと顔を上げる。
「……終わられましたか」
すぐに立ち上がり、玄関のほうへ小走りに向かう。
「相馬さん」
「佐川さん」
視線が合う。
仕事の顔から、少しだけ柔らかい表情へ。
「お時間、取らせてしまいましたね」
「いえ。旦那様のお仕事ですから」
相馬は靴を履きながら、ふっと言う。
「……先ほどの件ですが」
佐川の背筋がわずかに伸びる。
「はい」
「休み、取れそうです」
「本当ですか」
「ええ。正式に了承いただきました」
佐川の目がわずかに明るくなる。
「それは……よかったです」
「ですので、是非ご一緒させていただければ」
改めて、少し丁寧な声音。
「……はい。こちらこそ」
一瞬、沈黙。
秋の午後の光が二人の間に落ちる。
「詳細は改めて連絡いたします」
「はい。お待ちしております」
そこへ――
「ねえねえ」
ひょい、と廊下の陰から小さな顔が出る。
「結お嬢様」
「相馬のおじさん」
相馬はしゃがみ、目線を合わせる。
「はい、結お嬢様」
結はにやりと笑う。
「デートがんばってね」
佐川が固まる。
「結お嬢様、それは――」
「おうえんだよ?」
相馬は一瞬だけ目を丸くし、それから優しく微笑む。
「ありがとうございます」
「がんばるの?」
「ええ。精一杯」
「おじさん、かっこよくね」
「努力いたします」
結は満足そうに頷く。
「佐川、ちゃんとエスコートしてもらうんだよ」
「……結お嬢様」
頬を染めながらも、どこか嬉しそうな佐川。
相馬は立ち上がり、二人を見つめる。
「では、また」
「はい。お気をつけて」
「またねー、相馬のおじさん!」
ドアが閉まる。
静かな玄関。
佐川はしばらく扉を見つめたまま、そっと息を吐く。
「……デートではございません」
小さく呟くと、
「でも、たのしみなんでしょ?」
結が覗き込む。
佐川はほんの少しだけ微笑んだ。
「……はい。少しだけ」
11月の光が、やわらかく二人を包んでいた。




