表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨のち晴れ  作者: ありり
194/311

内緒の行き先②

新幹線の中。


窓側の席に結、その隣に夫。

通路を挟んで向かいに妻が座っている。


「うごくかな? もううごく?」


結は窓に顔を近づけ、そわそわしている。


「まだだ」


夫が静かに言う。


発車ベルが鳴る。


ゆっくりとホームが後ろへ流れ始める。


「うごいた! うごいたよパパ!」


「本当だな」


次の瞬間、スピードがぐんと上がる。


景色が一気に流れ出す。


「はやい!!」


結が目を丸くする。


夫も思わず窓の外を見る。


(……速いな)


普段は車か飛行機。

こうして地上を滑るように進む感覚は、久しぶりどころか、家族では初めてだ。


妻がくすっと笑う。


「家族で新幹線、初めてですね」


「そうだな」


夫は小さく頷く。


「悪くない」


結が夫の腕を揺らす。


「パパ、みて! びゅーってしてる!」


「ちゃんと座れ」


言いながらも声は柔らかい。


しばらくして、妻が言う。


「そろそろ朝ごはんにしましょうか」


「やったー!」


駅で買った弁当を広げる。


夫は飛騨牛の弁当を開く。


「……ほう」


肉の香りが広がる。


結も自分の弁当を開けて嬉しそうだ。


「かわいい!」


妻はシンプルな和風弁当を広げる。


「いただきます」


三人で手を合わせる。


夫が一口食べる。


「……美味いな」


思わず口に出る。


妻が少し目を細める。


「よかった」


「駅弁というのは侮れないな」


「でしょ?」


結が口いっぱいに頬張りながら言う。


「パパ、これあげる!」


「自分で食べろ」


「えー」


笑い声が小さく車内に溶ける。


食べ終えると、結が言う。


「ねえ、しりとりしよ!」


「しりとり?」


「うん! パパから!」


夫は一瞬考える。


「……りんご」


「ごりら!」


「らっぱ」


「ぱんだ!」


テンポよく続く。


「だるま」


「まくら!」


結は全力で考えながら笑う。


夫の表情も、どこか少年のように柔らかい。


妻はその様子をそっとスマホで撮る。


カシャ。


「撮るな」


夫が低く言う。


「思い出です」



結が言う。


「つぎ、る!」


「……るすばん」


「んー!」


「終わったな」


「ずるいー!」


三人で笑う。


車窓の景色はすっかり変わり、都市が近づいてくる。


アナウンスが流れる。


『まもなく、名古屋〜名古屋〜』


「ついた?」


結が身を乗り出す。


「もうすぐよ」


ゆっくりとスピードが落ちる。


約1時間半。


思っていたよりあっという間だった。


ホームに滑り込む。


「とうちゃく!」


結が拍手する。


「もっとのってたかった!」


「早かったな」


夫も同意するように言う。


「退屈する暇もなかった」


妻が微笑む。


「次も新幹線ではありませんが、電車です」


「まだのるの?」


「ええ」


「やったー!」


結が飛び跳ねる。


夫が妻を見る。


「名古屋ではないんだな」


「まだ秘密です」


夫は小さく笑う。


「徹底しているな」


ドアが開く。


三人は立ち上がる。


結が夫の手を握り、反対側を妻が握る。


名古屋駅のホームに降り立つ。


(ここからが本番か)


夫は静かに胸の高鳴りを感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ