内緒の行き先②
新幹線の中。
窓側の席に結、その隣に夫。
通路を挟んで向かいに妻が座っている。
「うごくかな? もううごく?」
結は窓に顔を近づけ、そわそわしている。
「まだだ」
夫が静かに言う。
発車ベルが鳴る。
ゆっくりとホームが後ろへ流れ始める。
「うごいた! うごいたよパパ!」
「本当だな」
次の瞬間、スピードがぐんと上がる。
景色が一気に流れ出す。
「はやい!!」
結が目を丸くする。
夫も思わず窓の外を見る。
(……速いな)
普段は車か飛行機。
こうして地上を滑るように進む感覚は、久しぶりどころか、家族では初めてだ。
妻がくすっと笑う。
「家族で新幹線、初めてですね」
「そうだな」
夫は小さく頷く。
「悪くない」
結が夫の腕を揺らす。
「パパ、みて! びゅーってしてる!」
「ちゃんと座れ」
言いながらも声は柔らかい。
しばらくして、妻が言う。
「そろそろ朝ごはんにしましょうか」
「やったー!」
駅で買った弁当を広げる。
夫は飛騨牛の弁当を開く。
「……ほう」
肉の香りが広がる。
結も自分の弁当を開けて嬉しそうだ。
「かわいい!」
妻はシンプルな和風弁当を広げる。
「いただきます」
三人で手を合わせる。
夫が一口食べる。
「……美味いな」
思わず口に出る。
妻が少し目を細める。
「よかった」
「駅弁というのは侮れないな」
「でしょ?」
結が口いっぱいに頬張りながら言う。
「パパ、これあげる!」
「自分で食べろ」
「えー」
笑い声が小さく車内に溶ける。
食べ終えると、結が言う。
「ねえ、しりとりしよ!」
「しりとり?」
「うん! パパから!」
夫は一瞬考える。
「……りんご」
「ごりら!」
「らっぱ」
「ぱんだ!」
テンポよく続く。
「だるま」
「まくら!」
結は全力で考えながら笑う。
夫の表情も、どこか少年のように柔らかい。
妻はその様子をそっとスマホで撮る。
カシャ。
「撮るな」
夫が低く言う。
「思い出です」
結が言う。
「つぎ、る!」
「……るすばん」
「んー!」
「終わったな」
「ずるいー!」
三人で笑う。
車窓の景色はすっかり変わり、都市が近づいてくる。
アナウンスが流れる。
『まもなく、名古屋〜名古屋〜』
「ついた?」
結が身を乗り出す。
「もうすぐよ」
ゆっくりとスピードが落ちる。
約1時間半。
思っていたよりあっという間だった。
ホームに滑り込む。
「とうちゃく!」
結が拍手する。
「もっとのってたかった!」
「早かったな」
夫も同意するように言う。
「退屈する暇もなかった」
妻が微笑む。
「次も新幹線ではありませんが、電車です」
「まだのるの?」
「ええ」
「やったー!」
結が飛び跳ねる。
夫が妻を見る。
「名古屋ではないんだな」
「まだ秘密です」
夫は小さく笑う。
「徹底しているな」
ドアが開く。
三人は立ち上がる。
結が夫の手を握り、反対側を妻が握る。
名古屋駅のホームに降り立つ。
(ここからが本番か)
夫は静かに胸の高鳴りを感じていた。




