元夫と再会、これから④
夜。
最上階の寝室。
大きな窓の向こうに、都会の灯りが瞬いている。
ベッドサイドのランプが、柔らかく二人を照らしていた。
妻は夫の胸に頬を寄せている。
あの夜と同じ体勢。けれど、今は震えていない。
夫は静かに言う。
「……終わった」
妻の指先が、わずかに動く。
「連絡があったのですか?」
「ああ」
低く、落ち着いた声。
「佐川の元夫が息を引き取った」
妻はしばらく何も言わない。
夜景の光が、静かに揺れる。
「……そうですか」
小さな吐息。
「これで、本当に?」
「終わりだ」
はっきりと言い切る。
妻は夫のシャツをそっと握る。
「怖くなくなるかな」
「無理に消す必要はない」
夫は妻の髪に手を置く。
「だが、もうあいつが近づくことはない」
「……はい」
少し沈黙。
妻は目を閉じる。
「あの時ね」
「何だ」
「あなたが抱きしめてくれた瞬間、やっと息ができたの」
夫は何も言わず、指で涙の跡をなぞる。
「私ね、ずっと心のどこかで怖かった」
「分かっている」
「でも、あなたがいるから、立っていられました」
夫の腕が、わずかに強くなる。
「俺は最初から言っている」
低く、まっすぐな声。
「お前は俺が守る」
妻は顔を上げる。
「ずっと?」
「ああ」
迷いなく。
「これからも、ずっと一緒だ」
夜景を背に、夫の横顔は静かで強い。
妻は小さく笑う。
「命令みたいです」
「命令だ」
「強引」
「嫌か」
妻は首を横に振る。
「いいえ」
少し照れたように言う。
「嬉しいです」
夫はゆっくりと妻を抱き寄せる。
「お前はもう壊れない」
「どうして分かるのですか?」
「俺が壊させない」
断言。
妻は夫の胸に額を押し当てる。
「……私、恨んでました」
「当然だ」
「消えてほしいって思ってました」
「思っていい」
「でもね」
少し間を置く。
「あなたがいる今は、それよりも幸せの方が大きい」
夫の指が、妻の背をゆっくり撫でる。
「それでいい」
「あなたは?」
「何だ」
「怒ってる?」
夫はわずかに視線を遠くへ向ける。
「俺は最初から怒っている」
静かな声。
「お前を傷つけたことに対して」
「今も?」
「ああ」
「でも」
夫は妻の顎にそっと触れ、顔を上げさせる。
「怒りよりも、守る方が優先だ」
視線が重なる。
「お前が笑っている方が価値がある」
妻の目が潤む。
「……ありがとう」
「礼はいらない」
「言わせてください」
夫は軽く息を吐く。
「好きにしろ」
妻は、ほんの少し微笑む。
「ありがとう。側にいてくれて」
夫は短く言う。
「当たり前だ」
そしてもう一度。
「これからも、ずっと一緒だ」
妻はその言葉を胸に抱くように、夫に体を預ける。
外では都会の灯りが瞬き続ける。
過去は静かに閉じた。
そして、今。
二人の呼吸が、同じリズムで重なっていた。




