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雨のち晴れ  作者: ありり
175/311

元夫と再会、これから④

夜。


最上階の寝室。

大きな窓の向こうに、都会の灯りが瞬いている。


ベッドサイドのランプが、柔らかく二人を照らしていた。


妻は夫の胸に頬を寄せている。

あの夜と同じ体勢。けれど、今は震えていない。


夫は静かに言う。


「……終わった」


妻の指先が、わずかに動く。


「連絡があったのですか?」


「ああ」


低く、落ち着いた声。


「佐川の元夫が息を引き取った」


妻はしばらく何も言わない。


夜景の光が、静かに揺れる。


「……そうですか」


小さな吐息。


「これで、本当に?」


「終わりだ」


はっきりと言い切る。


妻は夫のシャツをそっと握る。


「怖くなくなるかな」


「無理に消す必要はない」


夫は妻の髪に手を置く。


「だが、もうあいつが近づくことはない」


「……はい」


少し沈黙。


妻は目を閉じる。


「あの時ね」


「何だ」


「あなたが抱きしめてくれた瞬間、やっと息ができたの」


夫は何も言わず、指で涙の跡をなぞる。


「私ね、ずっと心のどこかで怖かった」


「分かっている」


「でも、あなたがいるから、立っていられました」


夫の腕が、わずかに強くなる。


「俺は最初から言っている」


低く、まっすぐな声。


「お前は俺が守る」


妻は顔を上げる。


「ずっと?」


「ああ」


迷いなく。


「これからも、ずっと一緒だ」


夜景を背に、夫の横顔は静かで強い。


妻は小さく笑う。


「命令みたいです」


「命令だ」


「強引」


「嫌か」


妻は首を横に振る。


「いいえ」


少し照れたように言う。


「嬉しいです」


夫はゆっくりと妻を抱き寄せる。


「お前はもう壊れない」


「どうして分かるのですか?」


「俺が壊させない」


断言。


妻は夫の胸に額を押し当てる。


「……私、恨んでました」


「当然だ」


「消えてほしいって思ってました」


「思っていい」


「でもね」


少し間を置く。


「あなたがいる今は、それよりも幸せの方が大きい」


夫の指が、妻の背をゆっくり撫でる。


「それでいい」


「あなたは?」


「何だ」


「怒ってる?」


夫はわずかに視線を遠くへ向ける。


「俺は最初から怒っている」


静かな声。


「お前を傷つけたことに対して」


「今も?」


「ああ」


「でも」


夫は妻の顎にそっと触れ、顔を上げさせる。


「怒りよりも、守る方が優先だ」


視線が重なる。


「お前が笑っている方が価値がある」


妻の目が潤む。


「……ありがとう」


「礼はいらない」


「言わせてください」


夫は軽く息を吐く。


「好きにしろ」


妻は、ほんの少し微笑む。


「ありがとう。側にいてくれて」


夫は短く言う。


「当たり前だ」


そしてもう一度。


「これからも、ずっと一緒だ」


妻はその言葉を胸に抱くように、夫に体を預ける。


外では都会の灯りが瞬き続ける。


過去は静かに閉じた。


そして、今。


二人の呼吸が、同じリズムで重なっていた。

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