結のお手伝い②
スーパーの袋を両手に下げ、夫と結は並んで歩いていた。
「パパ、きょうははくさいおもかったね!」
「……ああ。結が半分持つと言い出さなくて助かった」
「もてたもん!」
「無理だ」
そんな他愛ないやり取りをしていると、前から小さな女の子が手を振った。
「あっ、ゆいちゃん!」
「みおちゃん!」
結がぱっと手を離して駆け寄る。
その隣には、20代半ばほどの若い母親。整った顔立ちに、どこか華やかな雰囲気。夫を見るなり、わずかに目を見開いた。
「あら……こんにちは」
「こんにちは」
夫は淡々と、しかし礼を欠かさない声で返す。
みおと結はすぐにおしゃべりを始める。
「きょうね、パパとおかいもの!」
「いいなー!」
その横で、母親が一歩近づく。
「買い物帰りですか?」
「ええ」
夫は短く答える。
「お忙しそうなのに……素敵ですね。うちは主人がほとんど家のことに関わらなくて。私なら、そんなにお忙しいご主人に買い物なんてさせませんけど」
少し甘い声色。視線が、さりげなく夫の腕や横顔をなぞる。
夫は表情を変えない。
「忙しいのは事実ですが」
一拍置く。
「これは私が娘と行きたくて行っているだけです」
穏やかな声音。
「家内が無理に頼んでいるわけではありません」
母親は少し驚いたように瞬きをする。
「まあ……仲がよろしいんですね」
「ええ」
迷いのない返答。
「家族と過ごす時間は、何より優先していますので」
それ以上踏み込ませない、しかし角の立たない距離感。
母親はわずかに苦笑し、「そうですか」と引いた。
「じゃあねー、ゆいちゃん!」
「ばいばい!」
子どもたちが手を振り合い、親子は別々の方向へ。
――――――――
少し歩いたあと。
結がじっと夫を見上げる。
「……パパ」
「なんだ」
「パパってさ」
少し照れたように笑う。
「ほんとうにママのことすきだよね」
夫の足が、わずかに止まる。
「どうしてそう思う」
「だって、さっきのママさんがいろいろいってたけど、ぜんぶ“かぞくがいちばん”ってかおしてた」
夫は無言になる。
結は続ける。
「ゆいね、パパはこれからもずっと、ママとゆいのことすきでいてほしい」
その言葉は、幼いながらもまっすぐだった。
夫は買い物袋を持ち替え、空いた腕で結を引き寄せる。
ぎゅっと抱き上げる。
「当たり前だ」
低く、迷いのない声。
「お前も、ママも。俺の一番だ」
結は首にしがみつく。
「えへへ……よかった」
夫は小さな頭を撫でる。
「疑うな」
「うたがってないよー!」
笑い声が青空に溶ける。
タワーマンションが見えてくる。
夫は結を抱いたまま、静かに思う。
――揺らぐことはない。
家族は、自分のすべてだ。
結は肩越しに空を見上げながら、にこにこと言った。
「ママに“パパかっこよかったよ”っていおうね!」
夫は小さく息をつく。
「……余計なことは言わなくていい」
「えー!」
二人の笑い声が、夕方の道に響いていた。




