表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨のち晴れ  作者: ありり
120/311

俺の隣は、お前だけ⑤

翌朝。


カーテンの隙間から、やわらかな朝日が差し込む。


キッチンからはコーヒーの香り。


珍しく、夫がエプロン姿で立っている。


「……あなた?」


寝室から出てきた妻が目を丸くする。


「起こそうと思ったが、少し寝かせておいた」


「いつ起きたの?」


「五時半」


「早いですね……」


「今日は特別な日だからな」


そう言って微笑む。


その時、廊下から小さな足音。


「ママー?」


結が眠そうな顔で現れる。


夫がしゃがみこむ。


「おはよう、結」


「……あれ? パパいる」


「今日はな」


妻も隣に来る。


「結、今日はね」


「うん?」


「パパとママ、二人で幼稚園に送るの」


一瞬、間。


「えぇぇぇ!?」


結の目が一気に覚める。


「ほんと!?」


「ああ」


「やったー!!」


ぴょんぴょん跳ねる。


「車で行くの? パパのかっこいい車?」


夫は少し考えて、


「いや」


「え?」


「三人で歩こう」


「あるくの!?」


「天気もいい。散歩しながら行こう」


結は一瞬考え、そして大きな笑顔。


「やったぁぁぁ!!」


妻も笑う。


「遠回りして公園の前を通る?」


「うん!」


朝食を囲みながらも、結はそわそわしている。


「まだ? まだ行く?」


「制服ちゃんと着てからな」


「はーい!」


身支度を終えた結は、鏡の前でくるっと回る。


「どう?」


「かわいい」


夫と妻が同時に言う。


結は得意げ。


玄関。


メイドの佐川が控えている。


「本日はお送りされるのですね」


「ああ」


夫は小さな封筒を差し出す。


「佐川」


「はい」


「今日は昼は外で食べてこい」


「……?」


「羽を伸ばしてこい」


佐川は一瞬だけ、夫と妻を見比べる。


状況を、なんとなく理解する。


(ご家族の時間……ですね)


静かに頭を下げる。


「お気遣い、ありがとうございます」


妻が少し照れながら言う。


「今日は二人で少しゆっくりするの」


「ええ。どうぞごゆっくり」


佐川は柔らかく微笑む。


「結お嬢様様、いってらっしゃいませ」


「いってきまーす!」


玄関のドアが開く。


朝の澄んだ空気。


「手、つなぐ?」


妻が言う。


結は両手を広げる。


「パパとママ!」


夫は片手で結、もう片手で妻の手を取る。


三人並んで歩き出す。


「ねえ、パパ」


「なんだ?」


「きょうね、みおちゃんに自慢する」


「何をだ?」


「パパとママがいっしょって!」


妻は笑う。


「自慢になるの?」


「なるよ!」


夫は静かに周囲を見渡す。


朝の街。

通学の親子。

犬の散歩。


特別なことは何もない。


それでも。


「結」


「なあに?」


「今日は楽しい日になるぞ」


「もうたのしい!」


幼稚園が見えてくる。


門の前で、結は二人を見上げる。


「いっしょに来てくれてありがとう」


夫はしゃがみ、目線を合わせる。


「こちらこそだ」


妻も優しく頬に触れる。


「がんばってね」


「うん!」


結は嬉しそうに駆け出し、振り返る。


「ばいばーい!」


三人で来た登園。


その小さな背中は、いつもより誇らしげだった。


門が閉まり、夫と妻は並んで立つ。


「……歩いてよかったな」


夫が言う。


妻は小さく頷く。


「ええ」


朝の光の中。


二人は、寄り添い静かに次の時間へ歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ