第55話 祠
「ここって、ほんとに島なんだねー」
フカルア山の頂上から眺めると東西には海が広がっているのが見えた。
∈[海峡になってるっぽいから南は別の島かにゃ?]
◆[確かに北西は先に伸びてるね]
∴[しかし、その島広いな。海まで二、三百キロはありそうだ]
「海産物を獲りに行くのも大変そうわん。あ、あっちは街から登ったとこの湖かな。思った以上に大きい」
ヒルメさん達と出会った湖はパウリの街周辺の平原と同じか、それ以上の大きさがある。
「その湖へ向かう道の途中に祠があるんだよ。そろそろ行こうか」
「そうっすね。流石に冷えてきたし、祠に向かうっす」
山頂から少し下った大きな岩影の洞窟の中にその祠はあった。
「ん? これは……」
洞窟に入ったところで少し空気が変わった気がした。
「この丸の中にお供えを入れて祈ると山神様に届くんです」
小さな石造りの祠の前には、これまた石で作られたような二メートル程の円形の区画があった。
「ここにお供えするんすか?」
「ええ、暖かいものをお供えすると雪が降らないと言われています。ところで、お供え物はわん太君が持っていると長からは聞いてるのですが?」
そういえばお供え物は教えてなかった気がする。
「じゃじゃーん。冬のお供のあったかこたつ~!」
インベントリから特製の『こたつ』を取り出した。
◎[こたつ!]
∈[それ冬になる前に欲しいのにゃ。バザーに流してにゃ]
◆[それって魔道具なんだよな? というか、魔道具って作れたんだ……]
「『こたつ』ってなんすか? オレ、初めて見たっす」
「僕も初めて見ました。これは暖かくなるんですか?」
「ものは試しで、二人共座って座って」
床に敷物代わりの毛皮を敷き、『こたつ』を設置する。机部分に魔石と暖かくなる魔法陣を取り付けただけの簡単な仕組みだ。
「あぁ~、これはクセになる暖かさっす」
「確かに動けなくなりそうにゃ暖かさですね~」
ドゥーエもリュードさんもこたつの魔力に取り憑かれつつある。
「この丸の中にお供え物を置けばいいわん?」
祠の前のスペースは特におかしなところはなさそうだ。
「そうです。名残惜しいがこの『こたつ』なら山神様も満足してくださるでしょう」
のろのろとこたつから抜け出した二人に手伝ってもらって祠の前にこたつを置いた。
◯[どうなるんだ?]
▽[すぐにどうこうなるわけでもないだろ……ぉっあ?!]
◎[?!]
「な、な、なんすかこれ?!」
祠の前においたこたつが音もなく地面へと溶けるように吸い込まれていく。
「山神様にも気に入ってもらえたようですね」
「そうなのかわん? てっきり転送陣とかが発動するかと思っていたのに地面に吸い込まれるとは思ってもみなかったわん。けど、なんとなくわかったわん」
ここに入ったときからの違和感の正体が多分わかった。とりあえず、この洞窟の壁を調べてみよう。
「わかったって何がわかったっすか? ってか、何壁をぺたぺた触ってるんすか?」
洞窟の横の壁や奥の壁を調べるもおかしなところが見当たらない。
「ここって只の洞窟じゃなくて、たぶんダンジョンわん」
◎[えっ、ダンジョンってあのダンジョン]
◆[確かに、あのこたつの消え方はダンジョンに吸収される時と一緒だな]
▽[ということは、この祠の主はダンジョンの主?]
「ダンジョンっすか?! どう見ても只の洞窟っぽいっすけど」
「言われてみるとお供え物が地面に消えたね」
「けど、ダンジョンだとすると隠し通路か階段があるはずなのわん」
ダンジョンであれば、完全に孤立した部屋は基本的に作成できない。なので、どこかに次の部屋か階層に移動する方法があるはずなのだ。
「うーん、洞窟の壁に隠し通路はなさそうですね」
「祠の裏にも特に何にもないっす」
◇〚祠に仕掛けとかないの?〛
◯[苔生してて長いこと放置されてそうだね]
◆[そもそも、その祠動かせたりはしない?]
「あっ……、動かしてみるわん。二人共手伝ってもらえる?」
苔が生えたりで洞窟に一体化して見えてて動かせるかすら考えてなかった。
「せーのっ!」「そりゃーっす!」
三人で力を合わせて祠を押す。ちょっとだけ動いたような気はする。
「重すぎっす」
三人で動かすにも石造りの祠は重すぎるみたいだ。
▽[『剛力』とか『怪力』のスキルは持ってないのか?]
◆[あっても無理そうな]
「あ、もしかしていけるかも」
祠に触ってスキルを発動する。
―― 『浮遊』
ほんの少しだけ祠が浮く。浮いたところを押し込んで動かした。
『浮遊』は元来自分自身を浮かすだけのスキルであり、移動すると効果が消える。
固有スキル化して触ったものをほんのちょっと浮かせるようにもなっていたが、やはり移動させようとすると効果が切れる。が、連続してスキルを使用すると……
―― ズズッズズッ……
「動いたっす……」
❤〚わん太くん、すごーい!〛
◯[さすわんって、なにそれ。なんで動くの?!]
◆[『浮遊』を連続して使用してる?]
「うわっ!」
一心不乱にスキルを連続発動していたら突然現れた穴に足を取られて転びそうになった。
「これは……、地下へ続く階段?」
「わん太さん、流石っす!」
転びそうになった足元には、地下へと続く隠し階段の一部が口を開いていた――




