第52話 雪の戦場
「きゅっきゅきゅー」「しゃっしゃしゃー」
ごきげんなイナバくんとナギサくんの鼻歌?にのせて軽快に街の南の平原を飛ばしている。
「この速さなら今日中にはフカルア山に着けるかもしれないわん」
「そうですねぇ、この雪ですと平原の間は魔物も出ないでしょうし」
◯[しかし速いね、絶対竜車より速い]
∪[速くて気持ちいいけど、そろそろ、モグラさんのこと気にかけてあげて?]
ドゥーエは青い顔で背ビレにしがみついていた。
「わん太さん、速いっす速いっす。もうちょっと速度おとしてっす……」
「もうすぐ森の中に入る。そうすれば否応なく速度を落とすことになる」
遠くに鬱蒼とした森が見えてきたのを確認したリュードさんがそう告げた。
「いやいや、その前にゆっくりおねがいします……っす」
「ナギサくん、ちょっと速度を落としてもらえる?」
「しゃっ!」「きゅーぅ」
速度は落ちたがイナバくんはちょっと残念そうにしている。
◎[なんだかすっごい森というか山というか鬱蒼としたのが見えてきたんだけど]
◯[ダンジョンじゃないよね?!]
「リュードさん、あそこ通るんすか? オレ、ちょっと用事を思い出したんで帰らせてもらっていいっすか? てか、他に道はなかったんですかぁ?!」
「我々もこの道を通ってパウリ村までたどり着いたし、この雪なら森の魔物は出ない。それに、なにかあっても精霊様の速度なら逃げ切れるさ。むしろ気を付けるべきは森を抜けたところだろう」
「森を抜けたところに何かあるわん?」
少し不穏なセリフが聞こえたので確認は大事。
「この雪ですと……戦場と化している可能性があります」
◯[?! 戦場。戦場ってあの戦場?]
▽[なんだか物騒なんだが?]
「はぁ?! いや待って待って。戦場ってなんすか?! てかリュードさん、なんでそんな道を案内してるんすかぁ?!」
「ん? もう一つの西側の山沿いから湖を経由する道は魔物が強い上に、この雪では恐らく通行できない。それに、こちらは戦場というものの魔物自体はそれほど強くない」
リュードさんが説明するもドゥーエはジト目、涙目だ。
「他に、他に注意することとか、良い忘れてることはないっすか?」
「注意点としては『キナ』ぐらいだが、魔物が使う分にはそれ程気にしなくても良い」
「『キナ』ってあの『キナ』っすか? 確かに魔物が投げてくるなら嫌っすけど……」
「魔物は使い方を知らないし、普通は使えないから問題ない」
△〚キナ?〛
∈[『キナ』ってなんにゃ? きな臭いやつかにゃ?]
▽[多分、そのきな臭いとは違うと思うが……]
「『キナ』ってなんだわん?」
「使い方を知らないって、『キナ』に使い方なんてあるんすか?」
二人して首をかしげる。
「わん太君はともかく、ドゥーエ君も知らないのか?」
「食べ方はともかく、使い方はわからないし普通は投げもしないっす。いや、投げるのはありかもですが」
リュードさんは困ったように辺りを見回すと少し先の大きな樹を指さした。
「あれがキナの樹ですね。ちょっと寄ってもらえますか?」
大きな樹の下でナギサくんに上まで浮かんでもらうとリュードさんは生っていたイガ栗?を丁寧に収穫した。
「熟れて弾けていないやつでないと使い物にはならないんですよ」
「栗っぽいわん」
「わん太さんのとこでは『クリ』っすか? 中身を焼いて食べると美味しいんっすよ」
ボクも『キナ』を採取してみるが、中には茶色の見たことある実が詰まっていた。うん、落ちてるやつも集めておこう。
◯[栗だね]
❤〚栗のケーキが食べたくなってきた〛
▽[で、モグラもしらない使い方ってのは何だ?]
「折角ですから『キナ』の使い方も教えますよ」
鬱蒼とした森を抜け、左右を丘に挟まれた少し開けた雪景色を前にリュードさんが『キナ』を取り出した。
「使用するには掛け声が大事です。また、思いっきり遠くへ投げてください。それでは……」
ナギサくんから降りて投擲体勢に入る。
「キナーーーーッ!」
大きく投げられたキナが放物線を描いてまっさらな雪の中に落ちた。
―― ドガァァーーーッン!!
激しい爆音と共に積もった雪が飛び散る。
◎[はぁ?!]
◆[栗、いやキナって投げれば爆発するのか?!]
「なんすかそれ、なんでキナが爆発するんすか?!」
「とまぁ、『キナ』は掛け声とともに投げれば派手に爆発します。もっとも、よく熟れて割れてない実だけですけどね」
「凄いわん。まさかあんなに派手に爆発するとは思わなかったよ。ところでリュードさん? 森を抜けたところが戦場になってるかもって言ってたけど、それはここから近いの?」
あれだけ派手な爆発だと魔物に気づかれてしまったかもしれない。
「ああ、雪の戦場ですよね。元々、二種類の魔物の軍勢が二つの丘の間の平原を堺に縄張り争いをしていることから名付けられたんですよ。ほら、丁度見えてるあの二つの丘です」
―― ピィーーッ、ピィーーッ!
―― プォーーッ、プォーーッ!
大きく響く幾つかの笛の音と共に、両方の丘の上に複数の魔物の影が現れた。
割りと大きめの体に、バケツのようなヘルメットを頭に被っている。
◯[魔物呼び寄せた感じだよね……]
❤〚イケ猫さんは天然鬼畜系?〛
「なんで! なんでこんなところで『キナ』なんか爆発させてるんすかーーーーーぁ!!」
雪原に大きく響くドゥーエの悲痛な叫びに、丘の上で対峙していた魔物達がこちらを向いた……




