第45話 夏イベント12
「にゃー、生わん太にゃー! ほんとにぬいぐるみみたいにゃー」
「ちょ、ちょっとー、振り回さないでわ~ん!」
ボクはバトル開始早々飛び込んできた猫獣人に捕まってくるくると回っていた。
◯[エリアボス戦前にわん太脱落しそうw]
∪[この配信でエリアボス戦が見れると聞いてきました]
「こら、チシャ、戦闘中になにやってる。わん太君もウチの駄猫がすまない」
白スーツにシルクハットのイカした格好、いや、エリアボス戦という舞台を考慮するとイカれた格好のお兄さんのチョップによりボクはチシャと呼ばれた猫獣人から開放された。
∴[おぉ、『帽子屋』だ]
「帽子屋?」
「そういえば、自己紹介がまだだったね。クラン『ジャバウォック』のクランマスター、帽子屋シルバ、通称『帽子屋』だ。気軽に店長と呼んでくれ」
どうやら、常連リスナーのチシャ猫さんのところのクランマスターだったらしい。
「今日はウチのクラン以外にもいくつかのトップクランや上位陣のプレイヤーが混合で3パーティを作ってきている。まあ、戦力としては過剰なぐらいだよね」
既にバトルは始まっており、ハンマーを持った土竜族のみんなや、大剣を振り回す兎獣人、なぜか上半身裸の格闘家等が蛸蜘蛛に攻撃を仕掛けている。
◆[思った以上にタコつよくないか?]
∴[攻撃が完全にいなされてるね]
◎[時々脚も使ってるから、手が6本あるようなもの]
―― Kyuooouee!
蛸蜘蛛の足元に複数の魔法陣が浮かぶ。
「魔法!?」
〓[多分召喚陣だよー、眷属が召喚されるから気をつけてー]
◯[なんでボスって子分を呼ぶんだろね]
◎[むしろ、子分を呼ぶから親分なのでは?]
ミラの言葉通り、魔方陣から次々と子蛸に子蜘蛛が現れた。もっとも、サイズ的にはボクとほとんど変わらないぐらいはある。
「うにゃー、いっぱい出てきたにゃ。ほら、店長も働くにゃ!」
「僕は戦闘職じゃないんだけどな」
両手に短剣を持って跳び回るチシャ猫さんの横で店長が腕を振るたびに子蛸に子蜘蛛がバラバラになって霧散していく。
◎[え、なにこれ勝手に三枚おろしになるの怖い]
∴[『帽子屋』は糸で攻撃してるらしい。『裁縫』系のスキルって噂だ]
◆[わん太といい、アンメモの『裁縫』スキルは戦闘系だったかw]
「なにそれ凄い! ボクも練習しようかな」
とりあえず、負けてられないのでボクもそろそろ攻撃に参加しよう。
「なんとかほにゃららせいれーさん ちゅーちゅーたこかいな燃えろ……ファイアーボール」
手元に広げたハンカチが燃え上がり、炎の球がタコ目掛けて飛んでいく。
―― Gyueeeoeeo!
「効いてるにゃ! というか、やっぱり魔法にゃ、どうやったら魔法が使えるのかにゃ!?」
「落ち着けチシャ。正確には魔法じゃなくて使い捨てのアイテム、スクロールみたいなもんだ」
◯[え、そうなの]
◆[つまり、サメの背中を爆破したのもおんなじアイテムか]
∴[それはそれでどうやってアイテムを入手したかが気になる]
「どんなアイテムかもなんとなくは分かるが、そこは秘密だろ?」
店長さんがこっちを見る。
「ん? 別に秘密にしてるわけじゃないわん」
「そうなのか……じゃぁ、そのアイテムはハンカチに魔方陣を刺繍してると見たけどどうかな?」
「せいかーい! さすが店長さんだわん。火魔法系の魔方陣はまだ発動すると一緒に燃えちゃうから使い捨てになるのが難点なんだよね」
◆[おお、遂に魔法の秘密の一端が]
∪[魔方陣って描いたら魔法が発動するのか?]
◯[どうやって魔方陣描くんだ?]
「こらこら、お前らもあんまり詮索するなよ。情報は金《MP》になるんだからな。聞いといてなんだが、わん太もほいほい情報をバラすんじゃないぞ」
「そうにゃ、情報クラン『ジャバウォック』が適切な価格で買い取るにゃ」
あー、そういえば情報代を支払うとか話していたんだった。
―― Queeoouee!
「何かするきだぞ!」「真っ赤になってる」
ボスタコの周りが騒がしくなった。タコの上半身が膨らんで真っ赤になっている。
〓[あれは、墨か糸を吐くつもりかなー。早く範囲外に逃げないとちょーまずいよ]
◯[スミか糸、まあ、蛸蜘蛛だからわかるけど、どっちも嫌らしいなー]
「スミってやっぱり暗闇的な状態異常になるやつなのかわん?」
〓[んー、暗闇とか毒とかよりある意味もっとおそろしーかなぁ?]
◎[毒より恐ろしいとは……]
―― Pusyuuuaaa!
ボスタコからスミ、いや、黒い霧のようなものが広範囲に吹き出して、その姿を隠す。
「うぇーっ!」「うわっ、何も見えん」
何人かは回避が間に合わず巻き込まれてしまっている。
「うわっ、ちょっと、ポーション、いや、毒消し? えーと、巻き込まれたみんなはどうなるわん?」
少なくとも何らかの状態異常にはなるはずだ。
〓[……えーとぉ、踊る?]
◆[……おどる?]
∴[……踊る?]
「ウェーィ!」「ソーレソレソレ!」
黒い霧の中、陽気な掛け声が聞こえたような気がした……




