第42話 夏イベント9
「んー、『わん太っち』はなんか、こう、ピッ!ってかんじでいまいち? あー、もう『わん太』って名前つけづらくない? やっぱり『猫っち』がましっていうかー、『まおっち』で決定!」
「いや、無理して呼び名考えなくてもいいと思うんだわん……」
ボクは、玉座に座るギャルっぽい吸血鬼に抱えられて動けなくなっていた。
どうしてこうなった……。時は少し遡る。
◆ ◇ ◆
―― 島内のダンジョンが開放されました
「えっ、ダンジョン開放?」
そういえば、公式の定点カメラでも3つほどダンジョンの入り口っぽいところが映っていたのを思いだした。
―― ガコッ! ズズズズズッッ
「きゅっ?」「しゃっしゃーっく?」
すぐ近くで何かが開く音がした。
「なんだかとっても嫌な予感がするわん。音が聞こえたのはこっちかな」
だだっ広い部屋の中央に置かれた玉座の後ろ、そこには下へと続く階段が現れている。
「これって……どう見てもダンジョンだよね。玉座の後ろに隠し階段は定番だけど、ほんとにあると困るわん」
イナバくんたちもコクコクうなづいている。
「仕方がないから入るのは決定として、配信は……うん、今回はなしにして様子を見たらすぐ戻ってこよう」
地下へ続く階段を恐る恐るおりていく。特に明かりがあるわけではないのになぜか暗くない階段をおりた先には豪華な扉が配置されていた。
「これは、ダンジョンの入り口とはちょっと違う気がする。かといってボス部屋ではないような……あえて言うなら宝物庫の扉?」
豪華ではあるが、ボス部屋特有の威圧感とかは感じない。なんとなく開けても問題ないけど面倒にはなりそうな予感がした。
「きゅっきゅきゅっ?」
イナバくんが扉をペチペチ、けりけりしている。
「開けないのって? やっぱり開けなきゃ駄目だよね。よし、覚悟を決めて開けるわん」
重厚感あふれる扉に手をかけると何の抵抗もなく内側に開いていく。
「ふぇっ」
あまりにあっさりと開いた扉に思わず声が出た。
開いた扉の先には広いドーム状の部屋があるだけで何もない、いや、中央に何か大きな箱のようなものが置かれているのが見える。
「宝箱……ではなさそうだね。えーと、棺桶?」
長細い特徴的な形状の箱はまさしく棺桶だった。
「きゅきゅっ」「しゃーっ」
「あー、イナバくんもナギサくんもペチペチしたり揺らしたりしないの!」
―― ガタッ
「ん? 今、動かなかった?」
―― ガタガタッ、ギギーッ
「きゅきゅっ?」「しゃしゃーっ?」
棺桶の蓋が少しズレている。
―― ズズッズーッ……ガタン
棺桶の中から細く白い手が伸び、蓋を押しのける。その指の先の爪はキラキラしていた。
「あーしを起こしたのは誰よ。寝不足はお肌に悪いって知ってる?」
軽くパーマがかかって波打つピンク髪に白い犬歯が覗くギャルが棺桶から体を起こして、大きく伸びをした。
「イナバくん、ナギサくん、戦闘準備!」
ボクも細剣を構える。こちらから仕掛けるには隙がない。ギャルっぽいが明らかに強者だ。
「んーっ、起こしたのは君たち?」
眠そうな目のギャルがこっちを向いて、目が合った。
「きゃわきゃわ、なにこれ、きゃわいーっ!!」
耳元で叫ぶ声がうるさい。目を離してはいなかったはずだが、ギャルはいつの間にかボクの後ろにいて、抱きかかえるように拘束されていた。
「あむっ、えーっ、マジぬいぐるみ? 血が吸えないんですけどー」
耳がはむはむされてくすぐったい。
「しょーがないなー、この際、その兎で我慢……って精霊?!」
拘束が緩んだので抜け出してイナバくんを抱えて距離を取る。
「ちょっと、イナバくんを食べようとしないでわん」
「きゅっきゅーっ!」「しゃーっく!」
二匹もギャルを威嚇する。
「食べないわよ! ちょーっと寝起きでお腹空いてたから血が欲しいなーって思っただけよ。ところで……キミは誰?」
「今頃?! ボクは猫乃わん太、ぬいぐるみ系VTuberだわん」
くるっと回ってポーズを取る。
「VTuber?はともかく、マジでぬいぐるみなんだー、うっけるー。それに精霊?ってかー、ここに入ってきたってことは封印が解けたわけかー。ちょっと待ってねぇ」
どこか虚空を見て何か呟いている。
―― バサバサバサッ
『ききっ、ききっ』
どこからともなくコウモリさんたちがギャルの周りに集まってきた。
「ふーん、そんなことになってたんだー」
コウモリから何かを聞いていたギャルがこっちを向いてにっこりした。
「そーいえば、自己紹介もまだだったねー、あーしは魔王四天王の一人、吸血鬼族のミラ。ルーダン魔王城の仮のダンマスだったけどー、この役割はやーっと終わりね。そんなわけで、コンゴトモヨロシク、まおーさま❤」
―― ルーダン魔王国ダンジョンマスターに就任しました
ニシシと笑うギャルに再び抱えられたボクの前に理不尽なメッセージがポップアップしていた……




