第41.5話 閑話 夏イベント8
エリアボス討伐に伴う海水浴場開放のワールドアナウンスはプレイヤーの集まる開拓村にも大きな衝撃を与えていた。
「店長ー、水着作ってよ、水着。水着がないと泳げないのにゃー!」
開拓村の仮拠点でチシャ猫が店長こと帽子屋に詰め寄っていた。
「水着ならバザーで買えるだろう、ほら、あのわんこがいっぱい出してるぞ」
「即売り切れで買えないのにゃ。店長も裁縫できるんだから水泳帽ばっかり作ってないで水着もお願いにゃ。兎兎姉からも頼んでにゃー」
我関せずと大剣を整備していた兎獣人であり、この情報クラン『ジャバウォック』のサブマスでもある三月兎兎にすがりつく。
「確かにバザーでは瞬殺みたいね。銀ちゃんも作れるんだから帽子以外も作ったら良いんじゃないかな。あ、私もビキニアーマーはいらないけど水着は欲しいな」
店長は二人からおねだり顔でじっと見つめられて……折れた。
「わかったわかった、ウチのメンバー分は作るから希望の種類を聞いといてくれ。で、『銀ちゃん』と呼ぶのはやめて、店長かせめてシルバにしてくれ」
「えー、シルバだったらやっぱり銀ちゃんでいいじゃない」
むくれつつも水着のデザインについて話し出す二人を置いて、店長こと帽子屋シルバは水着の型紙を求めてログアウトした。
◆ ◇ ◆
開拓村の外れで黙々と木の柵を設置している集団があった。
「アーサー、木の柵作るのこれで最後で良いか?」
「ああ、十分だ。これで開拓村の周りをほぼ囲ったはずだ。これできちんと村になってくれたら良いんだがな。いや、本当にペンドラが居てくれて助かったよ。まさか『木工』スキル持ちがこんなに少ないとは思わなかった」
開拓村の防衛、管理にはアーサーがクランマスターを務めるクラン『アーサーと愉快な仲間たち』が行っている。それもこれも他の有名どころのクランは防衛や発展を無視して攻略にでかけてしまったからだ。
「おや、立派な柵が出来上がったじゃないかい」
近くで畑を耕していたお婆さんが近づいてきた。
「これなら『フォルダンの町』の復興もできそうじゃ」
「『フォルダンの町』? ここはフォルダンの町と言うのですか?」
「そうじゃ、とは言っても大分昔の話じゃ。覚えているのはジジババぐらいだけじゃ。さて、畑に戻るわい。お主らも無理はするんじゃないぞ」
「ありがとうございます。無理はしませんが頑張りたいと思います」
―― イベントミッションが更新されました
「えっ!?」
「ふぁっ?!」
―― フォルダンの町を復興しよう
* 海水浴場を開放しよう CLEAR
* ダンジョンへ入ろう
* エリアボスを倒そう
* 町を防衛しよう
―― 島内のダンジョンが開放されました
―― エリアボスが出現しました
「……アーサー、これって俺たちのせいかな?」
「……いや、時間の問題だろ。まあ、『フォルダンの町』の情報がキーになった気はするがな」
アーサーとペンドラは顔を見合わせ深い溜め息をついた。
◆ ◇ ◆
「……チーフ?」
「あーあー、聞こえない。いや、わかってるから何も言わないで」
アンメモ開発室ではチーフがスケジュール表を見ながら机につっぷすという器用な芸当を見せていた。
「想定では『開拓村』改め『海辺の町』の開発ミッションでしたよね?」
「ええ、まさか開拓村にも名前があったなんて思わなかったわ。海水浴場の開放は既に行われていたからしかたないとして、ダンジョンもまだ発見されてないはずよね?」
ディスプレイ上に島の地図と定点カメラの映像が表示される。
「北の洞窟は攻略クランが向かっている方向ですが、まだ半分も進んでませんね。開拓村、あ、フォルダンの町の西の遺跡はまだ発見されていないみたいです」
「となると、やっぱりロコノオの町の南西の洞窟が発見された?」
「そう思ったのですが……あの辺りでは蜘蛛を狩っているばかりで奥の洞窟のほうまでは進んでいないようです」
地図には探索された領域がわかるように色分けされていた。
ダンジョン開放の条件の一つにはダンジョンの発見が含まれていたはずと頭を悩ませながらも保留とした。
「エリアボスの出現もロコノオの町のせいね。町の間の通行のためにエリアボス出現が早まったかー」
「はい、それでダンジョンとエリアボス、両方が開放されたためスタンピードの条件も揃ってしまいました……」
「なぁーんで、全部のイベントが一斉に開放されるのーぉ! 順番に開放する予定だったのにぃ~っ」
力ない叫び声が開発室に響いた……




