第112話 南の島
少し落ちるような感覚の後ふわりと着地する。
「おお、着いたわん?」
眩しさが治まり周囲の風景が見えるようになってきた。
◎[え、どこ? 屋外じゃないね。え、囲まれてる?!]
❤〚ペンギンさんがいっぱいだけど、武器持ってるね〛
∴[なんだろう、この微妙な緊張感]
転移ポータルの周りは緊張した面持ちのペンギンさんたちに囲まれていた。
―― 『マスター、安全が確認されるまで転移ポータルの外へは出ないでください』
メルリンの声に小さく頷く。
「も、もしや、勇者様でありましょうか?」
集団の中から一回り大きなペンギンさんが一歩前に出てきた。
黄色のアイラインっぽい模様が目力を強く感じさせる。
周りのペンギンさんたちも同じような模様だし、麻結さんたち碧鳥人族とは異なる種族に思われる。
「えーと、ボクは猫乃わん太、ぬいぐるみ系VTuberわん!」
くるりと回ってポーズを決める。
「勇者……じゃないわん」
「いえ、わん太様は勇者ですよ。私達の島を救い、聖剣様にも認められるわん太様が勇者じゃなくてなんだというのですか」
「そうです、この魔法陣を使用できるのもわん太様が勇者だからに違いありません」
ボクの後ろから麻結さんとクレスさんが前に出てきた。
「なっ、碧鳥人族と一緒だと?!」
「キャンベル、待て」
キャンベルと呼ばれた大柄なペンギンさんが剣に手をかけるのを止め、後ろから一人のペンギンさんが金色の頭の毛をかき上げながら現れる。
◯[おおぉっ、イケメンペンギンキターーーーッ!]
▽[いや、ペンギンにイケメンって……あれっ、まじキラキラしてイケメン]
∪[金髪ペンギン族? 周りのペンギンも割と金色っぽい]
イケメンペンギンさんはこちらを、いや、麻結さんの方をじっと見ている。
「お、オレ……いや、私は焙火・フェニックっす。美しいお嬢さん、結婚を前提としてお付き合いしてくださいっす!」
麻結さんの方へ一歩前出たペンギンさんはお辞儀と共に右手を差し出した。
∈[にゃにゃっにゃぁー! プロポーズ、いや、告白きたにゃーっ!]
❤〚うわぁ、きらきらペンギンさん積極的〛
▽[まじか、けど口調とビジュアルのギャップが……ってそもそもペンギンか……]
「わ、若様ぁっ! 何をいきなり言い出してるんですかぁっ!」
一瞬の静寂の後、大柄なペンギンさんの怒号と拳骨がイケメンさんの頭上に落ちる。
「ぐぅあっ、痛っ! キャンベル、何をするっす。ほら、お嬢さんのこっちを見る目が冷たくなったっすよ。あ、あぁ、そんな目もいいっす……」
どうやら残念イケメンっぽいペンギンさんが頭を押さえつつしゃがみ込んだ。
「あの、お付き合いの話は置いておいて、まず、此処は何処で、フェニックッスさん達はどのような立場の方々なのでしょうか?」
どつき漫才を繰り広げる二人を呆れたような目で見ていた麻結さんが問い掛けた。
「ここはクマノ勇者国の端っこ、辺境の地っす。そしてオレはフェニックッスじゃなくて、フェニックっす。それより、お嬢さんのお名前を教えてっす」
頭を押さえたイケメンペンギンはサクッと復活する。
「ああ、そう言えば名乗っていませんでしたね。私は麻結・リヴァイア、南の方の名もなき碧鳥人族の島から参りました。どうぞ皆様お見知りおきくださいませ」
自己紹介をした麻結さんは優雅に一礼をする。
「なっ、リヴァイアさんっすか……」
「若様、お下がりください」
麻結さんの自己紹介を聞いてキャンベルと呼ばれていた大柄ペンギンさんはイケメンさんをかばうように前に出た。
その手は剣に添えられており、周りのペンギンさんも同じく一触即発の緊張感に包まれる。
「キャンベル待つっす。そもそも、リヴァイアさんはオレ達のことも知らないっぽいっす。それに、伝承に聞く勇者様のお仲間っす」
イケメンさんの言葉にそれぞれ剣に添えた手をもとに戻し、少しだけ緊張感が緩和された。
「そうですな。ところでリヴァイア様、貴女のお名前を証明するものを何かお持ちではないでしょうか? 紋章入りの短剣やメダルでもあれば拝見させていただきたい」
よく考えるとボクたちは突然現れた密入国者みたいなものだった。
うん、パスポートなしで外国に入ろうとしたら警戒されるのは当然だ。
「身分を証明できるものですか……、あぁ、短剣ではないですけど、これを見せれば知っている人が居るかもしれないとお父様が言っていましたわ」
そう言って麻結さんは何も持ってない手を開き、皆に見えるように大きく掲げた。
「……?」
広げられた手に視線が集まる。
「『顕現せよ』!」
力ある言葉と共に掲げた手の元に光が集まる。
光は徐々に形を持ち、ブロードアックス、いわゆる、片刃の斧へと姿を変えた。
ただし、そのサイズは麻結さんの倍はありそうで、どう見てもペンギンさん用の武器ではない。
いや、普通の人族が持つ斧としても大きすぎる気がする。
「そ、それは、ま、まさか、魔斧サッパ!」
ペンギンさんたちのまんまるな目は驚きで見開かれ、更に丸くなった。
「あら、本当に知ってる方がいらしたのですね。てっきりお父様が大げさに言ってるものかと……。あ、ですけど、これは魔斧ではなく魔鉞、『魔鉞サッパ』ですわ」




