第109話 ダンジョンとは
舞い散るピンクの花びらと共に色とりどりの光球こと、精霊さんたちも踊るようにクルクル回っている。
ボクを抱えたままだった女将さんから離れ精霊樹を確認する。
「ほえーっ、うん、これは確かに勇者の祠の入り口にあった樹だわん。見覚えのある位置と形の洞があるわん」
ちょっと人面樹っぽく見えてびっくりしたから覚えている。
◯[あー、確かに見覚えがある。で、何がどうなってどういうこと?]
∴[迷い宿は元々勇者の館で、今回、裏庭の温泉施設や玄関先の精霊樹が転移してきて完全体になったかな]
◆[いや、まだわからない。そもそも、わん太や温泉がいつ転移してきたのがわからないんだよなぁ]
試しに少しだけ手に魔力を集めると案の定ふわふわクルクルしていた光の球が群がってくる。
「やっぱり、ちゃんと精霊さんたちがいるわん。幻影とかじゃなさそうだよ。じゃあ、一応は外の様子を見てこようかな。実際、ボクとしてもいつの間にか東の森の迷い宿に来たっていうのが信じられないところがあるわん」
「そうですよね。私達も南の島に行ったわん太様が行方不明と聞いて心配してたところに開かずの扉から出てくるなんて、確かにまだ半信半疑のところはありますよ。まあ、この迷い宿は今までもフラフラと場所が変わってましたけど、お客さんが転移してきたことはありませんからねぇ……」
そう言いながら女将さんが玄関の門を開ける。
「……ええ、やっぱり東の森の中ですね。まあ、迷い宿ダンジョンが東の森ダンジョンを取り込んでますから迷い宿だけ転移はしないはずで……って、わん太様、どうしました?」
「ふぇっ、え、あれ……ボクの目がおかしいのかわん? 森と言うより、山が見えると言うか、ここ、勇者の祠の前の参道だわん!?」
開け放たれた門からは石畳の道が続いており、開けた視界には遠くの山々が見えていた。
∪[えっ、ホントだ。確かに登ってきた参道だけど……なんだか映りが悪いの私だけ?]
∴[いえ、こっちも門の先だけが揺らいで見えてますね]
▽[ぼやけて見えるけど、実際のとこ、わん太の方はどう見えてるんだ?]
「やっぱり参道見えてるよね。あ、ボクからは別に揺らいだりとかぼんやりとかではなくて、しっかりと石畳とかが見えてるわん」
もっとも、見える先には人っ子一人いないが、元々あの山は無人だったからよくわからない。
「うーん、とりあえず、少し覗いてみるわん。流石に戻れないってことはないと思……ふぐぁっ!」
外に一歩踏み出そうとしたところで体に衝撃が走り、後ろに倒れそうになるのを数歩下がって何とかこらえた。
「わんたー、わんたいたー!!」
「ヴァン、はしったらあぶないってヒルねぇいってた」
お腹に突っ込んできたモフモフがわん太、わん太と言いながら耳をぴくぴくさせているところに、突然門から二人目のモフモフが現れる。
うん、間違いなくおおかみ族の双子のヴァンとフェンだが、やっぱり突然現れたように見えた。
「おお、わん太が現れたと聞いたから来てみれば、本当にわん太じゃないか。息災で何よりじゃ……? いや、わん太よ今どういう状況になっておるのだ?」
「あ、ヒルメさんお久しぶりわん。どういう状況って、よくわかなんないけど南の方のペンギンさんの島から迷い宿に戻って来たとこわん?」
双子の後から同じようにいきなり現れたのは同じくおおかみ族のヒルメさんだった。
しかし、やっぱり突然現れたように見えた。
「いや、一応状況は聞いておるから把握はしている。そうではなく、体の調子とかはどうなのだ? どこかおかしいところとかはないか?」
「あ、久し振りに迷い宿でのごはんだったから、ちょっと食べ過ぎてお腹が苦しいかもしれないわん。それから、ちょっと頭が重い気もする……」
▽[迷い宿の飯は美味しそうだよなぁ。それと、頭が重いのは気の所為じゃないと思うなwww]
❤〚ヴァンくん、かわわ。けど、わん太きゅん頭重そう〛
◆[ヒルメさんたち門の外からうっすら見えてた気がしたんだけど気の所為かな?]
「ふむ、大丈夫ならよいのだが、わん太、お主、少しズレてるようだな」
ボクを見つめるヒルメさんの眼が少し光っている気がする。
「ズレてるってどういう事わん? 確かに時々ズレてるとか、おかしいって言われることはあるけど……」
◎[草www 自覚あったんだ]
∈[わん太が変なのはいつものことにゃ]
▽[わざわざヒルメさんがズレてると言うってことは……]
「今のわん太は幽霊みたいなものじゃな。妾達とは世界がずれておる」
「ふぁっ?! え、どういうことわん?」
「わんたゆーれー?」
頭をぺちぺちするのは良いけど耳を引っ張るのはやめて欲しい。
「ヒルねぇ、わんた、さわれるよ?」
フェンにまでほっぺたをツンツンされた。
「あー、今のわん太は此処にいるけれども、此処にいない。これはわん太がおかしいのではなく、迷い宿が両方の場所に存在しているが故じゃな」
「どういうことわん?」
「そもそも、わん太は迷い宿はどこにあるか知っておるか?」
「え、今は東の森わん」
「それは正解でもあるが、厳密には違う。まず、迷い宿がダンジョンなのは分かるな――」
そう言えばダンジョン、しかも、東の森も含んだダンジョンになっているのを思い出し頷く。
「――では、ダンジョンはどこにあるのか。ダンジョンの中に入ると外から見た時には有りえない広さがあったりするように、中は異空間となっていることも多い。つまり、迷い宿は異空間に存在しており、おそらくは東の森と碧鳥人族の島の両方に入り口がある状態になっておる」




