第107話 迷い宿
「ふぇっ?! 小薄さん? なんでここにいるわん?」
いつの間にか現れた館。その中へと続く扉を開けた先にいたのはよく見知ったお姉さんだった。
◯[えっ、小薄さんって迷い宿の女将さん?]
∪[ということは、迷い宿? え、もしかして転移した?]
◆[え、いや、わん太達が転移、もしくは、迷い宿が……それとも、勇者の家の敷地ごと……?]
「え、なんでって、ここは迷い宿ですよ? それに、迷子と聞いてたわん太様が開かずの扉から出てくるなんて……」
◎[【悲報】わん太迷子だったwww]
▽[確かにわん太だけいなくなってたら迷子だな。え、やっぱり迷い宿に戻ってきたのか?!]
∴[迷い宿が移動してきた可能性の方が高いんじゃないか?]
「開かずの扉だったわん? 鍵とかはかかってなかったんだけど……」
後ろを振り返ると恐る恐る中を除くペンギンさんたちの後ろには噴水のように吹き出している温泉が見えた。
「えっ、庭?! わん太様、どこから入ってきたんですか? ウチの宿の裏手はなんにもなくて、それこそ扉もないから開かずの扉だったんですよ」
驚きながらも小薄さんは女将らしく他のキュウビ族のみんなに何やら指示をだした。
「ところで、わん太様達はお昼を食べられましたか? まだでしたら用意しますので、後ろの方々も一緒にどうぞ」
「お昼! そう言えばまだだったわん。ぜひ、みんなの分もお願いするわん!」
「えーと、我々も御一緒して良いので?」
「えぇ、もちろんですよ。わん太様はこの宿のオーナーです。わん太様のお連れ様をおもてなしするのは私共のの使命でもあります。それで、えーと、鳥妖精とは少し違いますね……」
「あぁ、私は碧鳥人族の田脇・リヴァイアと申します。この度、碧鳥人族はわん太様の『わん太王国』の末席に加えさせて頂きましたところです」
ペンギンさんたちの紹介も済み、空いている部屋の一つに案内される。
「それで、わん太様はどのようにしてこちらに?」
もぐもぐと美味しいランチを食べながら小薄と話す。
「ふぇっ? 迷い宿の方がボクのいたところに現れたんじゃないわん?」
「私も最初にそう考えて宿の者に外を確認させましたが、場所は動いておりませんでした。ただ、宿の前の庭に巨大な桜の木が新しく生えているようです。それと、今まで宿の裏手、わん太様が入ってきた扉の先には大きな庭園、いえ、温泉施設が増えているようです」
さすがは迷い宿の女将、転移慣れしている。
◯[つまり、迷い宿はまだ東の森にあるってこと?]
◆[桜の木や温泉施設は勇者の祠にあったのだよね。わん太ごと転移した?]
∪[とりあえず、わん太達は元の北の島に戻ってきたってことでいいのかな]
「この栗ご飯、あ、こっちだとキナ御飯? とってもおいしいわん。戻ってこれたのは嬉しいけど、ペンギンさんたちも一緒に来てしまってるのはちょっと問題わん。もう一回向こうに戻れるのかなぁ?」
ボクは戻るために転移ポータルのエネルギー問題を解決しようとしていたので良いが、ペンギンさんたちは予定外にこっちに来てしまったことになる。
碧鳥人族の村と連絡が取れないのであれば心配をかけることにもなるだろう。
「わん太様、もし戻れるにしても本日は此処に泊まっていっていただけますか? わん太様発見の連絡を入れましたので、その返事が来るまでお待ちいただければと思います」
「ん、あ、そうだよね。一応迷子扱いになってるって話だったわん。まあ、それに、ペンギンさんたちがあの調子じゃ今日は動けなさそうわん……」
田脇さんたちは碧鳥人族の村で食べられない種類の料理やお酒に既にぐだぐだになっていた。
既に何人かは部屋へと案内されていったようである。
『やっと、一段落したようやな。ところで、女将さんは九尾族で間違いないか?』
「えっ、えぇっ、わん太様、今の声は?」
今まで静かだったスコップさんの声に小薄さんが驚いている。
「勇者の祠で手に入れたインテリジェンスソードわん」
スコップさんを取り出して見せる。
『ワイは聖剣シャベル・スコップ、わん太の相棒やな』
―― 『新参者がなにか言っているようですが、マスターは私のマスターです』
「きゅっ、きゅきゅっ」「しゃ、しゃしゃーっく」
どこからともなく銀色ドローンに、イナバくん、ナギサくんも現れた。
「はっ、はぁあぁっ? 精霊様は知ってますし、その喋るスコップ? 聖剣様まではまだ理解でき……ることにしますけど、その銀色の丸いのも精霊様ですか?」
「精霊ではないわん。科学、機械、いや、まあ、すっごい魔導具と思ってもらえばいいわん。一応はワールドエリアボスの討伐報酬になるのかなぁ?」
「わん太様が疑問形でどうするんですか、まあ、わん太様ですから良しとしましょう。それで、聖剣様の話ですけど、改めまして、私はこの迷い宿の女将をさせていただいてますキュウビ族の小薄と申します。聖剣様もよろしくお願いいたします」
『おお、やっぱりキュウビ族やったか。ところで『美福』ちゅう名前に心当たりがあったりしないか?』
「美福! それ初代様の名前ですよ。どうして聖剣様が知ってるんですか?」
「ボクも初めて聞いたわん」
小薄がちらりとこっちを見たがもちろんボクも初耳だ。
『やっぱりそうか。この迷い宿やけど、おそらく、いや、間違いなく元々はクマのヤツの屋敷やな』




