第106話 温泉の復活
―― ゴボッ、ドゴドドッ、ドドドドッ
『よっしゃ、調整終わりや! わん太、はよワイを抜いて退避や退避や!』
「えっ、あ、みんな、退避退避! ここから離れるわん!」
足元から感じる揺れと音が激しくなっていく。
「いかん、皆逃げるぞ!」
「お、おぉ、揺れる。わん太様も早く」
揺れる地面にふらつきながら全員が池の外へと出た。
『くるぞ、くるぞぉ! ほれっ!』
スコップさんの少し軽い掛け声と共に池の中央から凄い勢いでお湯が吹き上がる。
◎[すげぇー、噴水、いや、間欠泉か!]
▽[かなり熱そうだな。湯気と言うか霧になって視界が真っ白なんだが]
∈[なんにも見えないにゃ、わん太、何とかするにゃ]
何とかしろと言われても湯気と吹き上がった水しぶき、いや、お湯しぶきによる真っ白な現状はどうにもできそうにない。
「ところで、調整って言ってた気がするけど、どうなってたわん?」
『ん? ああ、龍脈の乱れっちゅうか、詰まりやな。弱ってたところに何や龍脈の大きな変動でもあったんやろ。ついでに水脈の方まで詰まってたんを調整してやったわ』
龍脈の大きな変動……チョットキイタコトガアルヨウナ……
「そ、それで、この島の龍脈は治ったってことで良いのかわん?」
『あー、それだがな、わん太はこの島の北には大きな島が二つあることは知っとるか?』
「知ってるわん。ボクが住んでる島が北側の島で、元々そこから南側の島に行こうとして何故か間違ってこの島にたどり着いたんだわん」
『そうだったんか、それなら話は早い。ここの龍脈はその二つの島とも繋がってるんや。けどな、どうもそっちの龍脈の流れがおかしいちゅうか弱いんや』
「それなら南側の島の龍脈がおかしくなってる可能性が高いわん。北の島はクロセルさんが管理してて、この前正常化したはずわん。それに、ボクが南の島に行こうとしてたのは南の島の水龍さんが行方不明らしいと聞いたからわん」
『そういや二つの島の龍脈は龍が管理してたんやったか……なら、ワイも南の島へ行かなあかんな』
「えっ、着いてきてくれるわん?」
『もちろんや、というかわん太がワイを抜いたんやろ。もしかして、またワイを置いていこうとしてたんか?』
「着いてきてくれるなら大歓迎わん。龍脈が治ったから転移ポータルも使えるはずだし……えーと、使えるよね?」
―― 『龍脈からのエネルギー供給は復活していると推測されます』
ふわふわと周囲を探索していた銀色の丸いドローン、メルリンが寄ってきて答えた。
『おおっ、なんやこの丸っこいのは?! 喋りおったで!』
◎[喋るスコップが喋るドローンに驚くの草www]
◆[しかし、この聖剣……聖スコップ? は龍脈調整できるってことだよな]
∪[ちょっ、霧晴れてk、は、光ってる?!]
リスナーの叫びに辺りを見ると少し薄れてきた湯気による霧の先が確かに薄っすらと光っている。
「あっちは……入口のほうわん」
『ふむ、なるほど、そういうことか。龍脈が正常化したことで色々と元に戻るものもあるっちゅうことや』
スコップさんに促され皆で光っているほうへと向かう。
徐々に晴れていく霧に混じってふわりふわりと光が舞っている。
時折ピンクの花弁が混じり、色とりどりの小さな光球がボクのまわりを漂いだした。
「わん太様、こ、これは……もしや、精霊様……」
ペンギンさんたちがふわふわ漂う光の球を追いかけては祈り始めた。
「う、うん、下級精霊らしいわん。ほら、こんな風にすると集まってくるわん」
そう言って手に魔力を集めるとわらわらと光の球が群がってきた。
「きゅっ?」「しゃしゃーく!」
イナバくんとナギサくんもひょっこりと実体化してすり寄ってくる。
❤〚きゃわわぁぁっ〛
▽[うーん、精霊ホイホイ。結局魔力操作マスターしたプレイヤーいるの?]
∈[極少数いるにゃ。新たに魔法が使えるように……あ、あれ、なんにゃ?]
徐々に晴れてきた霧の向こうにはキラキラと舞う光の球、そして、鮮やかに咲き誇る桜の大木、それに加えて大きな建物があった。
「あの木は、枯れてた木だよね? 龍脈が正常化したことで復活したのはまだわかるわん」
◎[うん、わん太の言う通りわかる。うん、わかるよ]
▽[まあ似たような現象を見たことあるしな。フカルア山とロコノオ城下街だったか]
◆[龍脈正常化による魔素の供給、これが鍵なのは確かに分かる……]
「そうわん、けど、けど、あの建物は何だわん?!」
『クマのやつの家やな。まさか精霊樹の復活だけではなく館まで現れるとは思わんかったわ』
「おお、やはり、あれがベアゴロー様の館なのですね。ベアゴロー様の館はベアゴロー様が島から去った数年後、いつの間にか跡形もなく消えてしまったと伝えられているのです。また、屋敷を管理していたものも居たらしいのですが――」
「となると、家だけ現れたのか、中に誰かいるのか調べてみる必要があるわん」
現れた館は以前からそこにあったかのように違和感なく佇んでおり、温泉から続く道が館の裏口と思われる扉へと続いていた。
「鍵は……空いてるみたいわん。それじゃぁ、開けるよ――」
恐る恐る扉を開ける。
「あら? こっちからお客様とは珍しいですね……って、わん太様?!」
開いた扉の先には料理を載せた御膳を持った狐獣人、キュウビ族の小薄さんが目を丸くしていた。




