第104話 勇者の祠
「鬱蒼とした獣道を抜けると、そこは舗装された参道だった……って何でわん!!」
ワンダリングモンスターを倒した川原で一泊し、本日は勇者の祠を目指して山に踏み入ったはずだったが、すぐに整備された道に出た。
◯[草www、だけど、草一つないぐらい整備されてる?]
◆[石鳥居もあって完全に参道の装い]
◎[川原までちゃんと整備すれば良いのに]
「ほんと、綺麗な参道わん。田脇さんたちが整備してるわん?」
「いえいえ、ここは聖域故、我々が訪れるのは年に数回程度です」
後ろにぞろぞろとついてきていたペンギンさんたちがシンクロしたようにブンブンと一斉に首を横に振った。
「この勇者の祠へ続く道、通称勇者回廊はベアゴロー様が自ら整備されたと聞いております。この島の各地を回ったベアゴロー様は最終的にこの山の上の開けた場所を気にいりまして、『ここを別荘地とする!』と宣言、温かい泉と大きな家を用意されました。私が生まれた時には既に大きな家はなくなっていて見ることはできませんでしたが、温かい泉には何度か入ったことがあります。その泉も今は枯れてしまっているのですが、勇者様はこのような事態も想定されていたのか一対の剣を残していかれたのです――」
∴[これは間違いなく勇者オタクの早口解説]
◎[家はなくなってるのかぁ、勇者の住んでた家とか気になるんだけどな]
◯[それより、残された剣ってやっぱ聖剣かな? 勇者が抜くやつ]
ペンギンさんの勇者語りを聞き流しつつ参道を進むことしばし、平らに整地された広い空間と大きな木が見えてきた。
「――ベアゴロー様はその屋敷の庭に故郷の木を植えられたのです。今となっては花を咲かすこともなくなり、近年は葉も落ちてご覧のような姿になってしまいましたが――」
以前は大きく広がり花を咲かせていたと思われる巨木も今は枯れてしなだれている。一瞬、木の洞が顔に見えてびっくりしたが単なる気の所為だった。
「もしかして、あのアトラクションみたいに色々あるところが温泉だったわん?」
大きな家の跡地と思われる場所の先には大きな池の跡やマーライオンのような像、そして、滑り台というには規模が大きいスライダーが見えた。
◎[スーパー銭湯かな? むしろリゾートプールとか、少なくとも個人の風呂の規模ではないな]
∈[いいにゃあ、温泉が戻ったら遊び放題にゃ?]
◆[クマゴローさん、いったい何者なんだ……]
「――クマゴロー様はこの施設は故郷にあるものを再現したと『クマゴロー語録』には書かれており――」
「それで、勇者の祠はあの屋根のある土俵みたいなやつで良いのかわん?」
「おお、流石わん太様は博識ですね。あれはクマゴロー様がドヒョーと呼んでいた施設ですよ。クマゴロー様はあのドヒョーの真ん中に立って歌を披露したらしいです。いや、クマゴロー様の生歌を聞けた曾祖父とが羨ましい限りです。今はあの中央にクマゴロー様が刺した剣があり、年に一回成人を迎えた者が抜けるか試すイベントが開かれています」
◯[ドヒョーwww あ、ほんとに真ん中に剣みたいなのが二本ささってる]
▽[あれを抜いて、わん太が名実ともに勇者になるわけか]
∪[聖剣を抜いて勇者になるのか、勇者だから聖剣を抜けるのか]
「そういえば『勇者の剣』というミッションも発生してるんだよね。発生してるだけで何の情報も表示されてないんだけど……」
土俵にあがり、真ん中に刺さった二本の剣を見る。
ガッツリと土俵に刺さっているらしく柄の部分しか見えない。
「ところで、ここって土俵なんだけど、周りの土を掘り起こして抜いたらいけないわん?」
▽[なっ、わん太、お前……なんてことを考えるんだ]
◯[確かに、岩とかに刺さってるわけじゃないしな。面白そう]
◆[アンメモは現実でできることは大抵できるからいけるのか?]
「わん太様……まことに残念ながら掘り起こすことはできません。ドヒョーに限らず、クマゴロー様の管理していたこの一帯の庭や参道はすべて不壊となっているうえ、自己修復機能つきなのです……」
田脇さんが申し訳無さそうに黄色の眉を困ったように寄せながら教えてくれた。
『せやせや、久々に来たと思えば阿呆なことを考えよる』
「えぐいって、別にそんなことはないと思うわん……? え、誰? メルリン?」
―― 『マスター、どうされました?』
「え、いや、なんだか空耳が……」
『いいから、さっさと抜かんかい。まったく、何年もほったらかしにしおって』
「ふぇっ?! 剣が喋ったわん!?」
∴[こっちには聞こえないけど、喋る剣ということはインテリジェンスソード?!]
∪[勇者の使った剣なら喋ることもあるさ、え、あるの?]
▽[ところで、わん太は剣は使えるのか? そもそも、サイズ的にはどうなんだ?]
剣の柄に両手を掛け、力いっぱい引っ張る。
「んー、あ、ぬけないわん」
抜けるものと思ったがピクリとも動かない。
◎[【悲報】わん太、勇者じゃなかった]
◯[わん太、その丸いぬいぐるみな手でホントに握れてるの?]
▽[吸い付くから問題ないらしい、けど、抜けないのかよwww]
『なに遊んどるんや、二本で一対やから同時に抜かな抜けるもんも抜けへんで』
「へっ、そうなのかわん。じゃぁ、今度こそ抜くわ……ん。あ、抜けた」
同時に引っ張ると全く抵抗なく抜ける二本の……剣?
「え、剣? いや、これってスコップだよね?!」
ボクの手にジャストサイズな短剣サイズと少しだけ長いサイズの二本のスコップ。
◯[抜けたぁぁーーっ! え、あれ、スコップだと……勇者の聖剣どこいったwww]
◎[抜いたらシャベルとかwww]
▽[どう見てもスコップだよな、園芸に使うやつ……]
『おお、久々のシャバの空気や。しかし、クマゴローはしばらく見ないうちに縮んだな』
「縮んでないわん、というか、ボクは猫乃わん太、クマゴローさんではないわん」
『なんと、確かによく見るとちっさいうえに耳が尖っとるな。ならあらためて自己紹介や。ワイは聖剣シャベル・スコップ、所謂喋る剣ことインテリジェンスソード、よろしくや!』




