閑話 とある検証クランの憂鬱
「ほな、新メンバーも増えたことだし現在のアンメモ界隈のまとめをしとこか……」
検証クラン『ライブラリ』、王都ラナにクランホームを持つ最前線の攻略クランの一つだ。
そんなクランの定例会が開かれようとしていた。
「……って、参加人数少なすぎるんちゃう?」
用意された席の半分も埋まっていない。
「センセー、そもそもクランマスターが来てません。まあ、いつものことですから構いませんけど、それに、今回の定例会は新規参加の初心者に現状の把握をしてもらうためなので構わないのでは?」
後ろ髪をお団子に丸め、眼鏡を掛けたいかにもできる秘書風の女性が身も蓋もない意見を出す。
「まあ、そのとおりやな。とりあえず、ますはわからないことがあったら聞こか」
幾人かが互いに目を見合わせ、そのうちの一人がおずおずと声を上げた。
「えーと、ここって眼鏡を掛けてる人が多いんですけど、ゲーム内でも目が悪くなるんですか? それと、眼鏡ってどこで手に入れることができますか?」
「ふむ、それに関してはおそらく君が大いなる認識違いをしていると考えられる――」
センセーは掛けていた黒い丸眼鏡をクイッと持ち上げて続けた。
「――我々は眼鏡が本体であって、アクセサリーとして人間体を――」
―― スパーン!!
「うぉぉっ! なにすんねん!」
センセーは後ろ頭を巨大なハリセンで叩かれていた。
「やはり、最初に解剖すべきは貴方のその眼鏡以下の空っぽな頭ではないでしょうか?」
「もう、エイダちゃん何すんねん。まあ、冗談はさておき、ちゃんと答えるとゲーム内で目が悪くなることはないからこの眼鏡も度は入ってないんや。つまり、ここの皆は趣味で掛けてるってことや。あ、眼鏡を作ってる工房は後で紹介するわ」
「おおっ」「よしっ」
やはりこのクランに集まるのは眼鏡好きなのか、数人顔を見合わせてガッツポーズをしている。
「……はい、はーい、みんな静かにしいや。それじゃ、まずはワールドクエスト周りからいこか――」
『Unmemory World Online』、通称アンメモにおいてはプレイヤーがクリアすると報酬がもらえたりするイベントしてミッションがある。
これは、システムメニューからも確認できるので知ってると思う。これらミッションのうち関連のあるものをいくつかまとめたものがクエストと呼ばれる。
そして、アンメモの正式サービス開始にあたって発表されたのがワールドクエストと呼ばれるアンメモ世界に影響を与えるストーリークエストだ。
「――ここまでは分かったかい?」
「大丈夫っす。既に始まってるワールドクエストが『精霊樹の復活』ですよね、何かの記事で見ました」
「とりあえず、正式サービス開始時に二つのワールドクエストが実装されてるってインタビューありましたね」
「みんなワールドクエストが気になるのね。現在、このラナ王国近辺のワールドクエストは二つと言われてるわ。そして、今のところワールドクエストに関連して新しい地域の開放がある――」
まずは、西の小島でもある『ルーダン魔王国』へと続くワールドクエスト『精霊樹の復活』、これは新しいエリアの開放だけではなく精霊魔法の開放も含まれるワールドクエストよ。
なお、クエストの進行状況としてはほぼ終盤、というかエピローグを残すのみとなっているから大きく関われることはないかもしれない。
二つ目のワールドクエストは……まだ発見されてないわね。おかけで攻略クランは右往左往しているのが現状よ。
ただ、『精霊樹の復活』が西へ向かうクエストだったから東へ向かうワールドクエストであることは間違いないと考えているわ。
クエストのトリガーとなるミッションを開始したのは貴方達と同じ新規プレイヤーだったから貴方達にもチャンスはあるわよ。
もっとも、運営も『精霊樹の復活』がこれほど早く発見、進行するとは考えていなかった節もあるわね。
そして、西の方だけど開放されるエリアの名前は判明していて『エト獣族連邦国』、この名前に関する情報を手に入れたらすぐにクランに連絡をお願いね。
「――これが現在判明しているラナ王国に関係するワールドクエストの情報よ。何か質問はある?」
「えーとぉ、『エト獣族連邦国』って名前はどこから情報を手に入れたんですか?」
「おっ、いい質問やね。それを知るにはベータ地域と呼ばれてる場所とエピッククエストについての説明も必要やな」
「エピッククエスト?!」「あ、ちょっとだけ聞いたことあります」「もふもふぅ」
「まずはアンメモのベータ時代の話をしよう。今は新規プレイヤーの開始位置はラナ王国の『王都ラナ』『コトの街』、ルーダン魔王国の『ロコノオ城下街』『フォルダンの街』が選べるようになっているんやけど、ベータ時代は『始まりの町』これは現在の『コトの街』しか選べなかった。と言いたいところだけど実は別な場所を選ぶこともできたんや――」
その禁断の方法はスタート位置をランダムとするだけの至極簡単な方法だった。
まあ、思ったよりその方法を選んだ人はいなかったらしいけどな。
そして、アンメモの基本的な仕様をみんなは知ってるかな? 実際に最前線まで行くと嫌と言うほど知ることになる仕様があるんや。
それは、このゲームでは街から離れるごとにモンスターが強くなるってことや。
この無駄に広いオープンワールドでは場所による行動制限は一応ないことになってる。なのに世界の端を目指すものがいないのはこの仕様のせいやね。
つまるところ、ランダムスタートで一人世界に投げ出された場合、周りはつよつよモンスターで詰むってことやな。
残念なことにランダムを選んだ勇者達は一人? いや、一匹を残していなくなった。
その残った一人がいる地域が『わん太王国』だ。
『わん太王国』ではこっちでは最近開放された精霊魔法が前から使えたり、色々未実装なベータダンジョンが開放されたりと運営公認なベータ地域となっている。
そして、こっちにも関係してきているエピッククエスト『大迷宮時代』も進行している。
「――てなわけで、『わん太王国』は我々のクランも注目すべき地方となっているわけや」
「『わん太王国』へは行けないですか?」
「……行けないわね。検証の結果としては『わん太王国』はラナ王国とは地続きではなく、それどころかこっちを北半球としたら向うは南半球じゃないかってなってるわね」
「まあ、完全に行くのが無理ってわけではなさそうでな、質問にあった『エト獣族連邦国』の名前も『わん太王国』にキュウビ族やエトの猫妖人が居ることから判明したんや」
「ちょっ、ちょっ、センセー!! キュウビ族ってもしかして、狐のもふもふですか。ついでに猫妖人ってのは猫のもふもふ?」
「お、おぉぅっ、もふもふ……だな、まあ『わん太王国』は別名もふもふ王国だし。住人の八割ぐらいは獣人なんじゃないか? 最初の頃は獣人しかいなかったし……」
「センセー!! わたし、もふもふ王国に行ってきます!!」
「あ、ちょい、ちょっと待てって……いや、飛び出して行ったけど、今『わん太王国』に行けないって話してたの聞いてたやんなぁ」
「えぇ、まあ、ウチのクランってあんな感じの人ばっかりですから……ほら、だからこそ定例会なのに半分も集まらないんですよ……」
検証クラン『ライブラリ』、新人顔合わせを兼ねた定例会は恙無く終了した……たぶん。




