IV.この光景、三回目ですよね?
キードゥル97年4月
「わたくしは、フェルーネ・エミリエールであった、前世を思い出しました」
「……え」
クリスティーネは言葉を理解するのに、少々の時間を要した。
「な、なにを、言って……」
「……驚くのも、無理はないわ。でも、本当のことなのよ……アイシェ」
そう言って、微笑む姿が、フェルーネに重なった。
「あ……あぁっ……ぁ」
クリスティーネの口から、意味もない言葉が漏れる。
「本当? 本当にっ、お姉様なのですか?」
「えぇ、もちろん。貴女に嘘をつくわけがないでしょう?」
そう言って、リュードゥライナはクリスティーネに手を伸ばす。優しく頬を撫でて、零れた涙を拭った。
「確かに、お姉様は信用した人に向けての、嘘が下手ですからね……」
「それは初耳よ?」
リュードゥライナの驚いている様子に、クリスティーネはクスクスと泣きながら笑った。
「……お姉様が亡くなったと聞いて……わたくしはっ」
「それはごめんなさいね。アイシェが亡くなってから、憔悴して油断していて」
「……何故、お姉様が亡くならなければならなかったのですか。……言いたくなければ、それでいいのですけど」
クリスティーネの問いにリュードゥライナは静かに語り始める。
「毒を、盛られたのよ」
「ど、どく?」
「えぇ。丁度、メディナお母様の一回忌でね。出席して、夕食を食べた後に――」
「……そんな」
クリスティーネは唇を噛んだ。前世の母であるメディナの命日はアイシェが亡くなってから、数週間後のことだ。
(そんなに早く……)
「それから、フェルリという精霊になったの」
「フェルリっ……せー、れい……?」
聞いた、ミカエルから。
あのときの、精霊の話を。
「ふふ、もしかして、ミカエル様から聞いていた?」
「はい……。口調とか、わたくしを心配してくれているところが、お姉様に似ているなぁ、とも……」
「人伝なのに、よく気が付いたわね……」
リュードゥライナは呆れるように微笑んだ。
「……そういえば、貴女は復讐がしたい、と聞いたのだけど」
「あぁ……お兄様から、ですね。その気持ちに、嘘はありません。ないのですけれど……」
クリスティーネは一度、言葉を切る。
「復讐は、したい、ですけど……今の、この幸せな生活を、壊したくないとも、思うのです」
「……」
「それに、復讐の後始末とか、で、わたくしによくしてくれた――家族とか、側近とか……皆様に迷惑が掛かってしまうと、思って」
(あぁ、そうだ)
復讐について細かく考えていくことで、逃げられないように。
多少、家族に迷惑が掛かってもいい、と思い込むことで、復讐することを正当化して。
「わたくし、復讐のためならば、手段を選びたくなかった。でも……もう、大事なものができてしまった。もっと楽しいことがたくさん見つかったしまった。他のことが、楽しくて楽しくて、たまらないんだ」
クリスティーネは自分の気持ちを、全て吐き出した。
リュードゥライナはそれを黙って聞く。
「貴女は、好きに生きていいの。復讐をしてもいいし、自分の幸せを追いかけてもいい」
そんな救いの言葉をクリスティーネに言って、リュードゥライナはクリスティーネを抱きしめた。
「どっちを選んでも、わたくしは貴女を応援するし、協力もするから」
そんなリュードゥライナの優しさに、クリスティーネは再び涙を零した。
◇◆◇
「……この光景、三回目ですよね?」
「そうね。しかも、今回は前回の倍以上よ」
フィリアーネとクリスティーネは虚ろな目で言葉を交わした。
目の前には、大量の招待状が机の上に積み重なっている。
リーゼロッテが、招待状を一つ摘まみ上げ、名前を見る。そのまま、流れるように暖炉に投げてしまった。
(要注意人物だったのね……)
「……そうですね。病み上がり、ということにして、ある程度は断りましょう。病み上がりなのは本当のことですし、クリスティーネ様が出たいお茶会のみ出ればいいのですから」
「そうね……。そうしましょう」
そうして、招待状の分別が始まった。
上級貴族以下は全て却下されて、暖炉行きだ。返事をするのが面倒だからである。
ということで、最終的に残ったのは――四つ。
ファミリアとのお茶会。
ジェラルドとのお茶会。
先生方とのレスツィメーアのお話。
数か月後にあるフィーネ皇女殿下とルーティズ皇子殿下とのお茶会。
今回は領主一族からの招待も殆ど断っている。流石に返事は返しているが。
ちなみに、ルーティズというのは、今年入学した第三皇子だ。
フィーネとのお茶会に関しては、今まで全てドタキャンしてしまっているので、気まずい。気まずすぎる。
(わたくし、不敬罪で処刑されないのでしょうか……)
「大変な四年生になりそうですね……」
そんな予感しかしなくて、クリスティーネはため息をついた。
前回の光景は第一章のIVです。




