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I.三年ぶりのおはよう

 キードゥル97年3月


 ――っ、クリスティーネ!


 ――クリスティーネ様ぁっ!


 ――お姉様っ!


(誰、だろう? 誰かに、呼ばれているような気がする)


「……っん」


 目を開ける。酷く眩しい光が目に入ってきて、クリスティーネは思わず目を閉じた。

 慣れるように、パチパチと目を瞬かせる。

 ゆっくり周りを見渡せば、視界の端に何かが見えた。金色の何か。

 見覚えのある何か。


「お……にい、さま?」


 そう呟けば、寝ていた金色の髪がバッと動く。


 そこには、悲しそうな、驚いたような、寂しそうな顔をしているミカエルがいた。

 クリスティーネがゆっくり起き上がる。少し体が動かしにくい、気がする。


「なんで、ここに……いるのですか?」


 クリスティーネはコテンと首を傾げた。


「クリスティーネっ……」


 ぽす、と音がする。ミカエルがクリスティーネに抱きついたのだ。


(外聞は大丈夫なのかなぁ)


 まぁ、この部屋にいるのはクリスティーネとミカエルだけだから、大丈夫だろう、きっと。


「……よしよーし」


 鼻をすする音が聞こえて、クリスティーネは少し癖毛の金髪を撫でる。

 少し離れると、赤い目じりが見えた。


「あの、なにか、あったのですか?」


 クリスティーネは問う。クリスティーネにとっては、三年前のままなのだ。起きたら、こうだった。


(お兄様が……何だかお兄様じゃないみたい。声が少し低いし、何だか筋肉質でがっしりしてる気がする)


「……クリスティーネは、毒を受けたんだ。覚えてる、かな?」


 ミカエルはベッドサイドの椅子に座って、眉を下げた。


「あ、そうでしたね」


 クリスティーネが覚えているのは、毒を受けて倒れたところまで。


「……意外と気にしてない?」

「え? あぁ、何となくそうだったなぁ、と」


 すぐ倒れて意識を失ったので、あまり苦しいとは思わなかった。


「クリスティーネは三年間眠ってたんだ」

「さ、三年間っ!!?」


 クリスティーネは大声を出した。

 というところで、嫌な予感がする。


「じゃ、じゃあ、お兄様は……」

「今年度で卒業したからね。十七歳になったよ」


 ミカエルは眉を下げて微笑んだ。


(そんな……わたくしの三年間は……)


 きっと、色んな人に心配をかけているのだろう。ミカエルのように。

 クリスティーネの周りは心配してくれる優しい人ばかりだから。


「えっと、お母様たちは……」

「後で伝えに行くよ。……先にね、いろいろ言っておきたいことがあるんだ」


 ミカエルは目元が優しいまま、真剣にそう言った。


「……父上が、養子を取ったんだ」

「よう、し?」


(それは、もしかしなくても……)


 クリスティーネが最悪の事態に陥ることを想定した動きだ。死ぬことを想定している。

 それが少しだけ、寂しいと言ったら我が儘だろうか。


「ごめん。本当にごめんっ……」

「お兄様が謝らなくても……」

「ううん、これは私たちが弱かったからだ」

「気にしませんよ……と言ったら嘘になりますけれど、お父様もお兄様も、大変な中頑張ってくださったのでしょう?本当に、ありがとう存じます」


 クリスティーネが微笑むと、ミカエルは寂しげに瞳を揺らした。


「あ……」


 そんな瞳を見ると、ボーッとしてしまって。

 気がつけば、クリスティーネのオッドアイから涙が溢れていた。


「いえ、違うんですっ。わたくしは……」

「全部吐き出して。ここには私と君しかいないから」


 涙を堪えようとするクリスティーネをミカエルは優しく包み込んだ。


「……っ、ぐす」


 声を小さくして、クリスティーネは泣いた。


「……ちょっと、だけっ、寂しいと言ったら、我が儘です、か」

「……ううん、全然。そんなことないよ」


 クリスティーネは久しぶりに泣いた。





「……ずみまぜん、ご迷惑をお掛けじて」

「……迷惑なんかじゃないよ。私的には甘えてくれて嬉しかったのだけどね」


(うぅ、そう言われると、何だか恥ずかしいのですが)


 「目が腫れてるね、ちょっと冷やすものを持ってこようか」

「あ、ありがとう存じます」


 ミカエルは少し、クリスティーネの部屋を出ていった。布なら側近部屋にあるので、そこから借りてくるのかもしれない。

 しばらくして、ミカエルが戻ってきた。布を水で濡らしてきたらしい。


 お礼を言って、クリスティーネは目元に当てて冷やしておく。


「それとね、もう一個。君に妹ができたんだ」

「妹、ですか」

「あぁ、先月に二歳になったんだ」

「そう、なのですね。……妹はちょっとだけ楽しみです」


 そうして、クリスティーネの生活がスタートしたのだった。

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