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空白の魔法使い  作者: 小里花織
第二章 集いし魔法使いたち
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第十二話 そして全ては解き明かされる

「かりちゃん、大丈夫かな?」


幼馴染のことが心配になって、隣にいるそるぁとさななに話しかける。

彼はすでに京口君を問い詰めているはずであり、こちらは彼とは別行動をしており、作戦のため、待機しているのである。


「きっと大丈夫だよ。よるはきたしろくんのことが心配なんだろうけど、今はきたしろくんが考えた作戦を信用する他ないもん」

「そらちゃんの言うとおりだよ。今は落ち着いて待っていよう」

「そうだね。今はそうするしかない」


自分にそう言い聞かせ、未だ安否が掴めないかりちゃんを信じる。

今は待つだけ。それだけなのだ。


――――――――――――――――――――――――――――


「なぜ、僕だとわかったんだい」


眼鏡の位置を直しながら目の前にいる京口がそう問いかける。

もう犯人ではないと隠す気は無いらしい。


「お前は自分が情報通ではないと言った。その言葉がお前の矛盾を掻き立てたんだ」

「矛盾だと」

「僕がお前に聞き込みをしたとき、お前はすでに盗聴機と盗撮機を用意できていたんだ。それはこちらがすでに個人的調査をしていることを知っていたということに他ならない。でないとあの時それらを用意できていた理由がないからな。その時点ですでに一つ目の矛盾だ。更に、お前は入山さんが伊藤さんと同じ中学だということを知っていた。入学後二週間ほどしか経っていないにも関わらずだ。それが二つ目の矛盾。もっといえば、想楽がクラス内で疑われているのを知っていたのもそうだ。お前は最後、『九堂さんの無事を願っているよ。』と言ったが、その情報もお前は真偽を疑わず、九堂は犯人でない、と確信しながら言っていた。それも三つ目の矛盾だな」

「その一言が、結果的に僕の足を引っ張ったわけか」


しくじった、とばかりにため息をつく京口。

自分が情報通ではないと言っておきながら、そのキャラクターを演じきれていなかったことへの口惜しさに苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


「完璧な作戦なんてあり得ない。入山さんというこちらの調査を遅らせるための情報が、お前の首を絞めたわけだな。だが、お前は今、こうして直々に僕を縛っている。なぜ?なぜだろうな。ほんと。どうしてだろうな」


分かりやすく挑発する。

こんな稚拙極まりない挑発で京口が冷静さを失うことはない。


「全く鋭い。どうやら君は頭が切れるようだ」


やれやれ、といった調子で肩をすくませる。


「おおかた、君が予想していることで合ってるだろう。いずれ僕のことがバレてしまうと思うと恐怖心があふれるものだ。無理に能力を使えば足がついてしまうから盗聴機を使った。更に直々に手を下すことで、誰にもバレずに芽を摘んでおこうと思ったわけだよ」

「なんて親切な犯人なんだ。そこまで喋ってくれるなんて」


京口さん素敵、とわざとらしく煽るが、白けた顔の彼はロープを地面に置き、タンブラーに入ったコーヒーを飲んだ。

無能力のこちらなど意に介さないようだ。





「まぁ、そんな建前でこっちを欺けると思ったら大間違いだけどな」





コーヒーを飲んでいた京口の手が止まり、彼が廃屋の入口を警戒するように振り向く。

だが誰もいない。


「お前が本当に恐れていたのは、そこじゃない。入山さんやたなけん、想楽が白だと確定したら、僕達にはまだ疑うべき人がいるだろう?」


コツコツという足音がする。

2人組のようだ。

静まりかえった廃屋に響くその音は、何とも言えない不気味さを醸し出している。

下から聞こえるところから察するに、この部屋は2階だったのだろう。


「お前も優しいな。まだ焦る時じゃないっていうのにお前が動いた意味っていうのは、他人のことを考えた結果だ」


階段を登る音が聞こえる。足音が大きくなり、京口が右手を出し、いつでも能力が使えるよう構えた。


「つまり、それはお前一人が罪を被るための、自己犠牲の精神の末の行動であり、最も疑われていなかったお前だからこそできた隠匿作戦。疑われていた二人にはできなかった行動」


足音が部屋の前で止まる。

部屋の扉はずっと開かれていた。

そこに立っている人物は、こちらから丸見えだ。


「京口。なんでお前がここに」

「……君たちこそ」


現れたのはたなけんよりも身長が高いであろうがっしりとした体つきの男子生徒、それと、対照的に想楽とそう変わらないほど小さく華奢な女子生徒。






「この事件は、沙振零大(さぶれれいた)五里音子(ごりねこ)、そして京口鏡弥(きょうくちきょうや)。お前ら三人組の犯行だったってことだろ」






「……京口、どういうことだ。説明しやがれ」

「……」

「京口!」

「僕が例の調査している連中の危険人物を見つけて殺そうとした。それだけさ」

「は……?」

「アンタ……本気で……バカなの……」

「ははっ。手厳しいねぇ、五里さんは」


先ほどとは一風変わって愉快そうに笑う京口。

だがその目は笑っていない。


「俺らに何か言えば良かっただろうが。自分一人で抱え込む必要は……」

「巻き込みたくなかったんだよ」


京口が沙振の話をバッサリ切った。


「今更……」

「ああ。わかっているさ。だけれども、君たちはこの人たちに疑われていた。迂闊に協力すれば、最終的に僕まで疑惑の札を貼られてジ・エンドだろう?ならば、最も疑われていない僕が動くべきだ」

「アンタ……。知的でも……アホ。そんな事……疑われてる……こっちを……もっと疑う……」

「当然。わかっていたとも。だが君たちが危うくなれば、僕も自分が犯人だと疑われるように動くつもりだったさ」

「絶対無血で俺たちでこの事件を落ち着かせる約束はどうなったんだよ」

「当然最初はそのつもりだった」


だが失敗した。完敗だ。と、両手を上げて諦めたようなようすの京口がこちらを振り向く。

その目は、鋭く射貫くようにこちらを見ている。

始末すると、殺すのだと、覚悟が決まったのだろうか。


「なるほど。他人に頼れない上に独りよがりだな。流石学級委員だ」

「耳の痛いことを言うね。君の作戦には負けたよ。結局、こうして約束を破る羽目になってしまった」


そう言ってロープを持ち、歩み寄ってくる京口。

先ほどまで鋭かったその瞳は、覚悟の色を燃やしている。


「だから、僕も覚悟を決めないといけないようだ」


そう言って急に京口が()()()()()()

額を地面に着けながら。


「え?」

「は?」

「……?」


急な行動に思わず心の底から困惑してしまう。

戸惑う一同を気にせず京口が口を開く。


「頼む。警察に突き出すのは、僕だけにしてくれないか?」


申し出だった。

それも自己犠牲に満ちた、自分の首を差し出す類いの。


「もちろん、沙振君と五里さんがやったという証拠はないが、僕は罪を認めた。犯人は僕一人だけでも十分だろう?」

「京口……アンタ……」

「君たちは黙っていてくれ」

「頭まで下げてもらって悪いが、さっきの話を聞いて、はいそうですかと言うわけにはいかない」


望みなんてないとばかりに切り捨てる。

頭を上げた京口は、何も言えない様子で立ち尽くす。


「それに実行犯は五里さんだろ。雷属性なら、この中の誰よりも速く移動できるはずだからな。さっさと水筒にでも薬を入れることができれば一番疑われにくい。ちょっと考えればわかることだ。前の授業は体育だったから確実に水筒の水は飲むだろうし」


ああ、きっとそんな事、気づかれているとわかってたんだろう。

3人とも俯き、どこか絶望の色が見える。


「もういい……。私が……汚れる……」


最初に動いたのは、五里さんだった。

こちらに近づき、手を顔の前にかざす。


「へぇ。また手を汚すのか?実行犯」

「黙って……。アンタと……心中……私は……」

「五里!まて!早まるんじゃねぇ!」

「じゃあどうすればいいって!」


無口な少女の口から出た突然の叫びは、その場にいた三人の肩を跳ねさせるには十分なほど悲痛なものだった。


「アンタ達も、このままじゃ人生壊れる!高校入ってまだ二週間!致し方ないことだったとはいえ、人生壊れていいはずない!」


その言葉は、大きな悲哀を感じさせ、彼女の小さい体では抱えきれないほどの迷走の数々を容易に引き立てた。

彼女よりずっと大きな沙振も思わずたじろいでしまう。

充血し、涙目になった彼女がこちらを睨みつけ、彼女の手からバチバチという、非常に強いであろう電気が放電しながら発生する。

髪の毛が逆立つ。


「さよなら……。北白……。もし……こうじゃなかったら……友達……だったかも……」

「ああ。そうだったかもね」


目を閉じず、天井を仰ぎ見る。


「……!待った五里さん!」


京口が叫び、五里さんを止めようと動くが間に合わない。


「もう、止まれない」


彼女の手がピタリと額にくっつく。


「違う!離れるんだ!」


ああ。彼はやっぱりそっち系の能力だったか。

そう思った刹那、全身の毛が逆立つ感覚に襲われる。

電気が流れ始めたのだろう。

そんな感覚は、だが命を奪う前になくなった。


いや、奪えなかった。


「ケホッケホッ。ふぅ。ギリギリセーフってとこかな?」


目の前、突如巻き起こった埃の中からそんな声が聞こえてきた。


「何事……?」


どうやってそんなに速く移動したのか。

恐らく雷属性の能力で移動した埃の向こうから聞こえる五里さんの声に答えるように、再度、埃の中から声がする。


「うーん。『その処刑ちょっと待った!』ってやつかな」


それは、ここ最近で聞きなれた、金髪の少女の声。

埃が晴れる。


「ナイス。紗菜」

「全く。感謝してよ。()()()


目の前に映っていたのは、ゴム板でこちらを守る、七瀬紗菜の姿だった。

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