第十三話 戦いは、無能力者がするものじゃない
紗菜が、椅子の隙間からロープを握ると、たちまちロープは握った部分から簡単にほどけた。
「……どういうつもり」
「どういうつもりって、友達助けに来ただけだよ」
当然でしょ、と紗菜が対峙する音子さんに向き直る。
と、音子さんの姿が消えた。
「あたし……北白……殺さなきゃ」
「でも私は狩也君守らなくちゃ」
見えなかった。
無能力の僕は視認すらできなかった。
そんな速度で瞬きの間に移動した音子さんが電流がほとばしる右手の平を突き出してくる。
が、紗菜の持っていた絶縁体によって受け止められた。
その頼もしさは、これ以上ないほどではないだろうか。
「よるから死守って言われちゃってるから。」
「……!あつ……!」
それどころか、電気抵抗による発熱でゴムの板は熱を帯び、簡単には触れられない鉄壁の防御と化していた。
「雷属性ならやっぱこれでなくちゃ」
「相性……悪い……」
音子さんが悔しげな表情を浮かべる。
紗菜はといえば、雷属性相手にスピードを見切ることができていて、余裕な表情を浮かべていた。
「ねぇ沙振君、北白君を殺すかはさておき、彼女をなんとかしないと選択すらできないよ。」
「ちっ。くそ」
沙振が足元を踏むと、急激に部屋の温度が冷えていくのがわかった。
視界に見える白い息。
暖かいといって差し支えない季節だったと思う。
それでも沙振の能力はその気温すら変えた。
「そいつを殺すかどうかはさておき、お前は邪魔だ。こっちは3人、そっちは戦えるのは1人。負けるわけがない」
そう言って、足元に転がっていた折れたパイプを蹴り上げ、構える沙振。
その構えは一般人の、ひいてはただ長柄武器の免許を持っているだけの人物の構えではない。
「綺麗な構えだね。槍術でも習ってたのかな?」
「はっ。俺様がただの習い事で槍をやってると思うなよ!」
そう言って構え続ける沙振が紗菜に突撃する。
……と思われたが、それを止めたのは京口の手だった。
「待ちなよ。沙振君」
「何でだ。お前も武器を……」
「待てと言ってるんだ」
注意というにはいささか厳しい京口の言葉。
彼はいつの間にか上着を羽織っていた。
眼鏡の奥から見える目が見ているのは、先ほど紗菜が落ちてきた天井の穴。
「まだ……仲間が……いるってこと……でしょ……」
「その通りだ。早く姿を現すんだ」
……バレてしまったか。
「バレちゃったか」
同じことを思ったのか、紗菜がスマホを取り出し、ずっと繋がっていたであろう通話を切った。
紗菜は寒がる素振りも、そして白い息ですら吐いていなかった。
「バレちゃったのなら仕方ない。そらたちが相手だよ」
数秒後、例の穴から音もなく手を繋いだ2人組が落ちてきた。
「九堂さんと……宵野さんか……」
想楽はともかく、よるの強さはみんなが知っている。
その力量は、京口の苦虫を噛み潰したような顔を見ればわかるだろう。
「3人組だったなんて。ほんとかりちゃんの推理通りだね」
「ああ。京口が探知系の能力ってことも、盗聴機を仕掛けられてたことも、そして今このタイミングで僕を拉致したことも」
全て計算通り、と言わんばかりに思い切り笑ってみせる。
それにイライラした様子の沙振が再び構え直す。
よるの能力か、下がった気温はもう元通りになっていた。
「僕はここでの主役じゃない。だから3人とも、頼んだ」
僕は何もできないというみっともない頼み。
人によっては自分は何もしないで女の子に戦わせるのはいかがなものかと言うだろう。
でもそれが、能力が必要な場面においては人に全てを頼るのが、僕のやり方なのだ。
「任せてよ。かりちゃん」
「私は京口君を相手するよ。そらちゃんは五里さん、よるちゃんは沙振君ね」
「りょーかいっ!そら、行きます!」
「京口、やるしかないぞ」
「仕方ない。僕は手荒な真似はしたくなかったんだが……」
「全く……何で……こんなことに……」
かくして、この戦いの北白狩也の出番は終わり。
ここからは、彼女たちの出番なのだ。




