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空白の魔法使い  作者: 小里花織
第二章 集いし魔法使いたち
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第十話 過去に誓った決意

「かりちゃん、話を聞こうじゃない」


皆が帰るなりそう言って振り向きざまに自身のサイドテールでこちらの頬を叩く幼馴染。

五里さんの件を考えていて、ボーッとしていたから、不意打ちだった。


「いっふぇ!なんで髪で叩いた」

「なんとなく」

「なんとなくかよ」


唐突な暴力に動揺して口内を噛んでしまい、血の味がするがまあいい。

仲間を疑っていた疑惑がある自分にとって、よるのこの申し出はまさに地獄の中の蜘蛛の糸。

それが許されるというなら口内炎の一つや二つ、甘んじて受け入れようじゃないか。


「まずは正座」

「え、このままで……」

「せ・い・ざ」

「ハイ」


うん。

これはマジギレパターンですね。

ありがとうございました。

これ口内炎じゃ済まないパターンです。

確定演出です。


「さて、かりちゃん」

「ハイ」

「弁明をいただきましょうか」

「弁明などございません。わたくしは事実として仲間を疑っております」

「うん。じゃあ死刑」

「ぐふぇ」


物理的に熱がこもったよるの結構強めのパンチが腹に食い込み、嗚咽が洩れる。

まぁ、よるがされたら嫌なことを私はしましたと言ったも同然だ。

当たり前っちゃ当たり前だろう。


「さて、かりちゃん。誰をどんな証拠があって疑ってるの」

「……僕が疑ってるのは……」

「そらとたなけん君でしょ」

「……はい」


ここまできたら包み隠さず全て言おう。

よるの察する力が高い。

ここまでとは思わなかった。


「どんな理由があって」

「それは――――――」


僕の言葉を聞いたよるの目が大きく開かれる。

お手本のような驚きの色だった。


「と、とりあえず、そんな感じ」

「確かに、かりちゃんが言うことも一理ある。だから今回のことは不問にしてあげるよ。あと、いい加減気をつけなよ。」


そう言って肩を軽く叩いた後、晩ごはんの用意をする、と台所に向かっていくよる。

僕はというと、一人残された玄関で頭を抱えていた。


たなけんは、黒なのだろうか。

先ほどよるに言った自分の言葉でさえ、確証はないのだ。

本当のところはわからないが、犯人であってほしくないと思う。

ただ……もし犯人なら、たなけんの動機がわからない。

伊藤さんにとってたなけんとはどのような存在なのか。

想楽は……伊藤さんとどんな関係なのか。


そして一体、犯人は誰なんだろうか。


「かりちゃん、ご飯食べないの?」


よるの声が聞こえた。

思った以上に考え込んでしまったらしい。

時計の長針は、みんなが帰ってから1周していた。


「今行くよ。何作ったんだ?」

「ニシンの缶詰めのオーブン焼き」

「聞かなきゃ良かった」

「冗談だよ。温まるから、シチュー作ったよ」

「もう結構暖かい季節なんだが」

「じゃあ死刑」

「すいませんいただきます」


……そろそろ行動するべきか。







「なるほど。で、その肉球形の火傷の理由を聞いてないんだが」

「たなけん、人には言いたくないことはあるんだよ」

「あー。じゃあいいよ」

「昨日よるがニシンの缶詰めのオーブン焼き作ってな。不味いっつったら寝てる間に」

「言うのかよ。ってか何だそのちくわ喧嘩みたいな」

「それを言うなら痴話喧嘩だろ」


肉球をさすりながらたなけんが笑う。

今日はよると想楽は休みだ。

つまり学校に来ているのは僕とたなけんと……


……伸びをしたところで、視界に金色の髪が映った


「おはよ、二人とも。わっ。狩也君、何その肉球」

「おはよー。ちくわ喧嘩の影響だ。気にしないでいい」

「ちくわ?」


紗菜が肉球をつつきながら首をかしげる。

まぁ知らなくても良いさ。


「今日は人数少ないし、調査は休憩でいいか」

「そっか。宵野と九堂は休みだしな」

「二人とも休みなんだ。あ、じゃあ狩也君、後で話あるんだけどいいかな?」


紗菜から話があるなんて珍しい。

断る必要もないしまあいいか。


「いいよ」

「ありがとう。また後でね」

「みなさん、おはようございますぅ」


紗菜と話が終わったところで、丁度綾ちゃんが教室に入ってきた。


――――――――――――――――――――――

「ここにあるかな?」


そう思ったところには、何もなかった。

木製の柵の向こうでは、同じようにそらが探している。

学校を休んだ私とそらは、とある探し物をしていた。


「そら、あった?」

「うーん。ないよ」


探し物は難航し、暖かくなってきた気温が余計に体力を減らす。


「次の場所に行こうか」

「そうだね」


次の場所が最も怪しんでいる場所だ。

私たちの探し物もそこにある可能性が高い。


「そら、お願い」


私はそう言ってそらの手を握る。


「りょーかいっ!そら、行きます!」


次の瞬間、私の体は宙に浮いた。

そして、手を引くそらが私と一緒に飛行する。

風圧で目を開けていられないね。


そらの固有能力、《飛翔》。

空を飛べる能力なんて風属性の能力者でも10%しか持たない。

そらはこう見えて凄い能力者なのだ。


「よる、着いたよ。目を開けて」

「ありがとう」


そらの声が聞こえ、地面に降り立つ。

そして、その建物の中に足を踏み入れた。

階段を上がる。

すぐのところにある部屋の中にあったのは、一つの椅子と数台の机。

椅子だけは最近運び込まれたようで、埃を被っていなかった。

そして、床に感じる強烈な違和感。


「見つけた」


思わずそう呟く。

そこにあったのは……


――――――――――――――――――――――


紗菜に連れられて、空き教室に着いた。

誰も見ていないところでないといけない理由でもあるのだろうか。


「狩也君。私さ、ずっと気になってたんだよね」

「何を?」

「どうしてそこまで事件の解決を求めるのか」


紗菜は振り返って言った。


「狩也君にとっては、他人事でしょう。なのにあなたは事件の解決を望んでいる。そらちゃんの信用を取り戻すのではなく、解決を」


……確かにそうだ。


僕からしたら、想楽のこととはいえ、あくまでも他人事。

それに首を突っ込む理由がわからないのだろう。

……今まで誰も、よるですら聞かなかった疑問だ。

驚きか、それとも畏怖か。

僕の右手は知らないうちに肩を押さえていた。


「あなたにとって、この事件は、そらちゃんや伊藤さんを心配するだけじゃない。何か大きな感情が、決意が感じられるの」

「……」

「あなたは、どうしてこの事件を解決したいの?」


紗菜の入学試験の点数を見たときを思い出した。

何の考えもなしに勉強していてとれる点数じゃなかった。

しかも、彼女は勉強だけができるわけでもない。


紗菜は、頭がいい。

恐らく僕たちの中で一番。


だから、


「僕は昔、恐怖に屈して取り返しのつかないことになったことがある」


七瀬紗菜を、絶対に敵に回してはいけない。


「だから僕は、目の前で救えるものは救う。僕が犯人を恐れて、見て見ぬ振りをして、想楽が救われるわけがない。想楽は今、誰よりも怖いはずだ。僕はそんな想楽を助けたい」


当たり障りのない範囲でしか教えられない。

だから、言い訳をしているようにも見えるだろう。


「それがあなたが事件に首を突っ込む理由?」

「ああ。でも別にそれだけってわけでもない」

「ふうん。っていうと?」


紗菜も自身の問いかけに対して僕がはぐらかしていることなんか気づいているだろう。

だが


「僕は人が好きだから」


言えない。全ては打ち明けられない。


「話すのも、遊ぶのも、笑いあうのも、何もしなかったとしても」


僕が見せられる誠意はこれだけだ。


「あのとき、あの事件が起こったときに伊藤さんは腕を音速で振って、僕にしか聞こえないくらいの声で言ったんだ」


僕自身の誓いでしか誠意が見せられないなら。


()()って。僕は苦しんでる伊藤さんも、想楽も救いたいって思った。そのためには……」

「それが狩也君の決意なんだよね」


少し俯いた紗菜は、こちらの言葉も最後まで聞かず、目を合わせずに言った。


「そうして多くを救おうとしてきた。だからこそ、よるちゃんはあなたに懐いている。彼女はあなたの決意の結果っていうわけか」

「あんまそういうわけでもないけどね。無能力だからこそ、救える数は少ない。でも、僕は目の前の手のひらを振り払うことは絶対にない」


紗菜は、納得とも不満ともいえない表情でこちらを見た。


「そんな秘密……というか決意を私に言うなんてね」

「僕も言うつもりはなかった。昔のことは詳しく思い出したくないしな。でも……」


少しはにかみながら言う


「紗菜になら、言ってもいいと思った」


その言葉に、少し驚いた紗菜は、でもすぐに表情を戻す。


「ま、いいよ。でもあんまり()()()()()()()()()()()()()()


その言葉を聞いて、紗菜がなぜこのタイミングで僕にこうして質問したのかがわかった。

想楽がいない、でも不自然じゃないタイミングをずっと見計らっていたのだろうか。

それなら想楽もよるもいない今日はとても都合が良かった。


()()()()()()()()()()()()ことが何よりの証拠だろう。


「ああ。善処する」


返事をすると、彼女は去っていった。


「やれやれ」


あの決意を人に話すことになるとは。

でも不思議と、紗菜に言うことには嫌な気はしなかった。

よるにすら言うのは躊躇うのに、何でだろうな。


「これから始めるぞ、紗菜。」


今もまだ空き教室を出たところに、すぐそこに彼女がいるのかわからない。

でも僕は、真意が伝わるのかわからないような、そんな言葉を呟くのだった。

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