第九話 忠告
「ねえ、そこの呆けた顔したあんた、北城狩也よね?」
これはこれは。
背が小さくて態度がデカいこの感じ、五里音子さんではないだろうか。
僕は北城ではなく北白だと先に言いたいところだが。
爽やかに挨拶でもしようか。
それともまずは警戒して探ってみようか。
今日はいい天気だねとでも言ってみるか。
そう考えて出した結論は
「あっ……えっと……五里さん……だよね……?」
「え、何て?ちゃんと喋ってよ。」
……情けない返事だった。
たなけんとか紗菜にも多くを話さなかった五里さんが僕に話しかけてくるとは思わないじゃん。
仕方ないじゃん。
「そうか。すまなかったね。君のようなレディに話しかけられてウキウキしてしまったんだ」
「キモ、やり直し」
「なんだてめえやんのかコラ。話なら表で聞くぞ」
「キモ、やり直し」
「なんでございましょうご主人様。私に何なりとお申し付けください」
「踏んであげるから頭下げて」
「なんでこう僕の周りは僕をいじることに抵抗を覚えないのかなぁ!?」
よるたちが今購買部に行ってていないからいいものの、見られてたら今後ずっとネタにされていじられそうだ。
「で、どうしたの、五里さん」
「キモ、やり直し」
「今のどこにその要素が!?」
うん。
何を言っても空回る未来が見える。
まだ五里さん4種類しか言葉のバリエーションないんだけど。
僕はなんでこんなにダメ出し受けてるの?
「あたしが急に話しかけてきて、変だと思った?」
意外にも、話を切り出したのは五里さんだった。
もうふざける気も無いのだろう。
最初からなかったかもしれないが。
「いや。そろそろ誰かが話しかけてくる頃だとは思ってたからな」
ならばこちらも真面目に話をしなければ失礼だ。
「あんたに忠告しとくわ」
……。
どうやら、回りくどいことは嫌いらしい。
単刀直入に言った彼女を見据える。
「七瀬紗菜や田那剣があたしを探りに来た。あんたたち、仲良かったよね?これ以上、この事件に関わらない方がいい」
「無理なこった」
すぐに返ってきた返事に少し怪訝な顔を見せる五里さん。
「想楽が疑われてるからな。それを見捨てることなんてできねえよ」
当然だろ、友達なんだから。
そう言う僕を見つめる五里さんがため息をつく。
「あたしは忠告したからね。あとはあんたの好きにしたらいい。当然、このことを宵野夜繰たちに言うかどうかもね」
「そうさせてもらうよ」
「それに、本当に九堂想楽のためなのか、あたしはわからないけどね」
吐き捨てるようにそう言い残して去っていく。
「……待て」
だが、その足音が消え去る前に呼び止める。
「何?これ以上あたしは話なんか無いんだけど」
「みんなが急に寝たってことは、そういうことでいいのか?」
そう。
五里さんから話しかけられる直前、クラスの全員が気絶するように眠った。
30人が急に倒れる異様な光景の元凶は、どう考えても目の前の少女だろう。
それが意味することも。
「あたしは忠告した。それだけ」
質問には答えず、五里さんが教室を出ていく。
次の瞬間、クラスメイトが起きた。
まるで今までもずっと起きていたかのように。
あちこちから日常会話が聞こえてくる。
何の違和感もなくざわつき始めた教室に何故か戦慄を覚える。
「……」
五里音子……。
何を知っているのだろうか。
「北白君」
「うわああ!」
「うわああ!びっくりした。そんな驚くことだったかい?」
なんだ。
京口だったか。
考え事をしていたからか、声をかけられただけでびっくりしてしまった。
「何か悩んでいる様子だったけれど、どうかしたのかい?」
「ああ、まあね。あの事件のことで少し」
「なるほど。さっきからずっと何も喋らなかったから、よほどのことかと思ったんだが、やはり九堂さんはまだ魔女だの何だのと悪口を言われ続けているのかい?」
……。
「あー。そうなんだよ。しかもまだいい情報が入ってこなくてな」
「なるほど。お疲れ様。さっきジュースを買ってきたんだが、その後クラスメイトに奢られてしまってね。みかんジュースは好きかい?」
「くれるのか?ありがとう」
机の上に差し出されたジュースの蓋を開け、中身を飲む。
少し酸っぱい味がした。
「君は凄いね。九堂さんのためにそこまでできるなんて」
「まぁ。友達だしな」
想楽のために事件の解決するのは当たり前だ。
友達だもん……な。
「僕もできる限り協力するよ。いつでも頼ってくれ」
「ありがとう。そういえば、京口って水属性の能力なんだよな?」
ずっと気になっていたことをきく。
「ああ。そうだが、僕の能力はあまり強くなくてね。詳細は少し言うのをためらってしまうんだ。」
「いいよ、詳細なんて。能力なんて人それぞれだよ。みんな違ってみんないいのさ。僕なんか無能力だし」
「ははっ。嬉しいことを言ってくれるね」
能力が弱くても関係ない。
他ならぬ無能力の僕だからこそわかることだ。
能力の強弱で人を判断なんかしない。
「さて、僕は先生に運ぶものを取りに来るように言われているんだ。ここらでお暇するよ」
「ああ。またな」
「君も頑張ってくれよ」
そう言って京口は僕の肩を叩き、去っていった。
―――――――――――――――――――――
「……かり、聞いてるか?」
「……え?ああ、ごめん、何だって?」
「おいおい。しっかりしろよ。次の作戦だろ」
「あ、ああ。そうだったそうだった」
今日も定例化した会議をしていたんだった。
昼間に起こったこと……もとい五里さんの忠告が頭の中をぐるぐると巡り、集中が削がれる。
我ながら単純だな。
「で、宵野は五里から何て言われたんだって?」
「……え?よるが五里さんから?」
「かりちゃん、ボーッとし過ぎじゃない?私は今日五里さんから忠告を受けたんだって」
……!
よるも五里さんから忠告を受けていたらしい。
僕だけではなかったようだ。
五里さんはなぜ僕とよるの2人に忠告したのだろう。
いや、単純だ。
当然、僕とよるだけに言う必要があったからだ。
じゃあその理由とは?
彼女は事件の何を知っているんだ?
だったら……
「あーわかんねえ」
「きたしろくんがわかんないことがそらたちにわかるわけないよ」
「狩也君には頑張って貰わないとね。何のことかわかんないけど」
「そんな他人事みたいに……」
五里さんの件はみんなには言っていない。
余計な情報で混乱させるのを防ぐためだ。
「……」
「五里が怪しくなってきたな。彼女を詳しく調査してみよう」
「そだね」
今日の会議もこれで終わりか。
未だ気がかりな五里さんの去り際の顔を思い出す。
不気味なほど満面の笑みだった。




