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悪役令嬢と毒 1

「あらあら、わたくしの若いころのドレスがぴったり! でも、少し古臭いかしら? ねえどう思う? ナズリー?」


 ソフィアとランドールがヴォルティオ公爵領にある邸に到着した翌日。ソフィアは義母であるエカテリーナの着せ替え人形と化していた。

 兼ねてから娘が欲しかったエカテリーナは、はじめて連れてきた息子の嫁をすっかり気に入って、若いころに来ていたドレスをクローゼットから引っ張り出してきたのである。そのドレスの量を見たソフィアは茫然としたが、義父であるエドリックに「最近エカテリーナは元気がなかったから、楽しそうでうれしいよ」などと言われ、ランドールにまで「母上に付き合ってやってくれ」と言われれば断ることはできない。さらにイゾルテまでエカテリーナと一緒になって、「ソフィア着せ替えショー」を楽しみはじめたのだから、前門の虎後門の狼状態。逃げ場はない。

 ちなみに助けを求めたオリオンは、あっさりソフィアを見捨てて、現在お昼寝中である。

 エカテリーナの侍女であるナズリーは微苦笑を浮かべながら、ローズピンクの派手なドレスに身を包んだソフィアの頭のてっぺんからつま先までに視線を這わせて、


「襟元をもう少し開けて、ウエスト部分を少し上にあげれば今風でしょうか?」


 と言った。

 ソフィアの知る限り、ナズリーはどこか具合が悪いのか、暗い表情をしていることが多かったが、着せ替えソフィア人形で童心に返っているのか、いつもより顔色が明るい。


「奥様、見てください! この白い帽子、かわいい! 絶対に奥様に似合います。さあ、さあさあさあさあ」


 イゾルテがつばの広い白い帽子を手に取って、目をキラキラさせながらソフィアに手渡してくる。


(……なんなのかしら、この苦行……)


 ソフィアは心の中で大きく嘆息しながら、イゾルテの手渡してきた帽子をかぶった。


「うふふ、その帽子なら、靴はこれかしら?」

「手袋はレースがよろしいかと」

「あらナズリー、さすがわかっているわね!」

「………」


 ソフィアはぐったりと肩を落とした。ベッドやソファの上に広げられたドレスや小物類を見る限り、この苦行はまだ終わらない。夕方までには解放されるだろうか?


(……ランドール、助けに来てくれないかなぁ)


 ソフィアがこうしてエカテリーナの相手をしている間、ランドールと義父エドリックは何やら小難しい話をしているようだ。仕事の話なのだろうから邪魔をしては悪いとは思っているのだが、ソフィアは彼らのいる書斎に逃げ込みたくて仕方がない。

 エカテリーナとは仲良くしたいが、おもちゃにされるのは遠慮したいのである。


「次はこの黄色のドレスね!」


 エカテリーナが言うと、ナズリーがさっとひまわりのような色をしたドレスを手に取った。


「奥様、楽しいですね!」


 鼻歌すら歌いそうなイゾルデの様子に、ソフィアはひきつった笑みを返したのだった。



     ☆



 エカテリーナにおもちゃにされつつ、のんびと毎日を過ごしていたソフィアのもとにダンスパーティーの招待状が届いたのは、領地に来て一週間ほどがすぎた時のことだった。

 王都のヴォルティオ公爵邸に届いた招待状をヨハネスが転送してくれたようで、手紙は中身を確かめたのか一度封が切られていた。

 宛先はランドールで、内容について聞かされたのは、ソフィアが就寝前に部屋で本を読んでいた時のことだ。


 さすがに義父母の手前、部屋を二つ用意してほしいとは言えないので、ソフィアはエドリックがランドール夫妻のために用意してくれた部屋で寝起きしている。当然ながらベッドも一つだ。最初はドキドキしたソフィアだったが、キングサイズの大きなベッドだから、数日経てば同じベッドで寝起きしていても全く気にならなくなった。あれだ。同じ部屋に雑魚寝をしている感覚だ。

 ソフィアがベッドの左端にもぐりこんで本を開いているところへ、風呂から上がったランドールがやってきて、隣で手紙を開いて眉を寄せたのを見たソフィアは、きっとあまりいい知らせではないのだろなとぼんやりと思った。


「……城で開かれるダンスパーティーの招待状だ」


 ランドールが息を吐きながら告げる。

 なるほど、城で開かれるパーティ――ー、王家主催なら、簡単には断れない。今から移動して間に合わないのであればいくらでも言いようがあるが、ランドールが顔をしかめたということは日時まで余裕があるのだろう。

 ソフィアが本にしおりを挟んで顔を上げると、ランドールは黙ってソフィアに手紙を差し出した。

 ソフィアは手紙の文面に視線を落として、愕然と目を見開いた。


「え? え? ちょっと待って、これどういうこと……?」

「俺も訊きたい……」


 ランドールが額を押さえて息を吐く。


「……どうしてここで、あの王女の名前が出てくるんだ……」


 ランドールが言う「あの王女」――サラドーラの第一王女カーネリアが、グラストーナの第一王子ヒューゴと婚約するために来訪し、歓迎のパーティーを開く旨が、招待状とともに送られてきた手紙に書かれていたのだった。


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