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放課後ブレーメン  作者: まーサンタ


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9/21

第8小節 「響き始めた放課後」



⸻


翌朝。


青葉ヶ丘学園。


⸻


昨日の演奏会の話題で、校内は持ちきりだった。


⸻


「昨日のトランペット、すごかったよね。」


「最後に出てきた人、誰?」


「吹奏楽部って廃部寸前じゃなかった?」


⸻


生徒たちの会話が廊下のあちこちから聞こえてくる。


⸻


神谷奏(かみや かなで)は、そんな声を聞きながら少しだけ笑った。


⸻


「ちゃんと届いたんだ。」


⸻


水野美琴(みずの みこと)も頷く。


⸻


「昨日は夢みたいでした。」


⸻


白石玲央(しらいし れお)は照れくさそうに頭をかいた。


⸻


「……俺は途中で失敗したけどな。」


⸻


「でも、最後まで演奏したじゃないですか。」


⸻


美琴の言葉に玲央は少し照れ笑いを浮かべた。


⸻


三人はいつものように音楽準備室へ向かう。


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「今日は透も来るかな。」


⸻


奏が呟いた、その時だった。


⸻


音楽準備室の扉はすでに開いていた。


⸻


「え?」


⸻


部屋の中には、一人の少年。


⸻


窓際に座り、静かにトランペットを磨いている。


⸻


黒川透(くろかわ とおる)。


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三人の気配に気付くと、顔も上げずに一言だけ口にした。


⸻


「……遅えよ。」


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一瞬、静まり返る。


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そして。


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「ぶっ……!」


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玲央が吹き出した。


⸻


「お前、それが最初の一言かよ!」


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透は肩をすくめる。


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「事実だろ。」


⸻


美琴も思わず笑ってしまう。


⸻


昨日まで遠くから眺めていただけの少年が、


まるで最初からここにいたような顔をしている。


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奏は静かに手を差し出した。


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「改めて。」


⸻


「よろしく、透。」


⸻


透は少しだけ照れたように視線を逸らし、


小さくその手を握った。


⸻


「……よろしく。」


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その瞬間だった。


⸻


コンコン。


⸻


音楽準備室の扉がノックされる。


⸻


「失礼します!」


⸻


入ってきたのは、


一年生の女子生徒が二人。


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「吹奏楽部の見学に来ました!」


⸻


「昨日の演奏を聴いて、私もやってみたいと思って……!」


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美琴の目が丸くなる。


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「えっ……?」


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続いて。


⸻


「失礼しまーす。」


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また扉が開く。


⸻


そこに立っていたのは、


玲央が見覚えのある二人だった。


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「お前ら……!」


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サッカー部時代のチームメイト。


⸻


佐伯健人(さえき けんと)。


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森下悠真(もりした ゆうま)。


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二人は少し照れくさそうに笑う。


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「昨日さ。」


⸻


健人が言う。


⸻


「玲央が楽しそうに演奏してるの見てさ。」


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悠真も続ける。


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「正直、ちょっと悔しかった。」


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「俺たち、玲央はずっとサッカーしか見てないと思ってた。」


⸻


「でも昨日のお前、すげぇ楽しそうだった。」


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玲央は驚いて言葉を失う。


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「だからさ。」


⸻


健人が頭をかく。


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「俺たちも、新しいこと始めてみようと思って。」


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「もしよかったら。」


⸻


二人は声を揃える。


⸻


「吹奏楽部、入れてくれ!」


⸻


音楽準備室が静まり返る。


⸻


そして。


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「やったぁーーー!!」


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奏が思わず大声を上げた。


⸻


「本当に!?」


⸻


「部員が増えた!」


⸻


「五人じゃない、六人……いや、八人だ!」


⸻


普段は落ち着いている奏が子どものようにはしゃぐ姿に、


美琴は笑い、


玲央もつられて笑う。


⸻


透は腕を組みながら、小さく鼻で笑った。


⸻


「……うるせぇ。」


⸻


そう言いながらも、


その表情はどこか嬉しそうだった。


⸻


桐谷響子(きりたに きょうこ)は廊下からその様子を見つめ、


静かに目を潤ませる。


⸻


「本当に……」


⸻


「戻ってきたんだ。」


⸻


昨日、一曲の演奏が生んだ奇跡。


⸻


誰もいなかった音楽準備室には、


今、たくさんの笑い声が響いていた。


⸻


放課後。


⸻


居場所をなくした者たちが集まる場所は、


少しずつ、


「みんなの居場所」へと変わり始めていた。


⸻


第8章


「響き始めた放課後」

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