第8小節 「響き始めた放課後」
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翌朝。
青葉ヶ丘学園。
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昨日の演奏会の話題で、校内は持ちきりだった。
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「昨日のトランペット、すごかったよね。」
「最後に出てきた人、誰?」
「吹奏楽部って廃部寸前じゃなかった?」
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生徒たちの会話が廊下のあちこちから聞こえてくる。
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神谷奏は、そんな声を聞きながら少しだけ笑った。
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「ちゃんと届いたんだ。」
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水野美琴も頷く。
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「昨日は夢みたいでした。」
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白石玲央は照れくさそうに頭をかいた。
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「……俺は途中で失敗したけどな。」
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「でも、最後まで演奏したじゃないですか。」
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美琴の言葉に玲央は少し照れ笑いを浮かべた。
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三人はいつものように音楽準備室へ向かう。
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「今日は透も来るかな。」
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奏が呟いた、その時だった。
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音楽準備室の扉はすでに開いていた。
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「え?」
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部屋の中には、一人の少年。
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窓際に座り、静かにトランペットを磨いている。
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黒川透。
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三人の気配に気付くと、顔も上げずに一言だけ口にした。
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「……遅えよ。」
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一瞬、静まり返る。
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そして。
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「ぶっ……!」
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玲央が吹き出した。
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「お前、それが最初の一言かよ!」
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透は肩をすくめる。
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「事実だろ。」
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美琴も思わず笑ってしまう。
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昨日まで遠くから眺めていただけの少年が、
まるで最初からここにいたような顔をしている。
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奏は静かに手を差し出した。
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「改めて。」
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「よろしく、透。」
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透は少しだけ照れたように視線を逸らし、
小さくその手を握った。
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「……よろしく。」
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その瞬間だった。
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コンコン。
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音楽準備室の扉がノックされる。
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「失礼します!」
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入ってきたのは、
一年生の女子生徒が二人。
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「吹奏楽部の見学に来ました!」
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「昨日の演奏を聴いて、私もやってみたいと思って……!」
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美琴の目が丸くなる。
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「えっ……?」
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続いて。
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「失礼しまーす。」
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また扉が開く。
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そこに立っていたのは、
玲央が見覚えのある二人だった。
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「お前ら……!」
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サッカー部時代のチームメイト。
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佐伯健人。
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森下悠真。
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二人は少し照れくさそうに笑う。
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「昨日さ。」
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健人が言う。
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「玲央が楽しそうに演奏してるの見てさ。」
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悠真も続ける。
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「正直、ちょっと悔しかった。」
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「俺たち、玲央はずっとサッカーしか見てないと思ってた。」
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「でも昨日のお前、すげぇ楽しそうだった。」
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玲央は驚いて言葉を失う。
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「だからさ。」
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健人が頭をかく。
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「俺たちも、新しいこと始めてみようと思って。」
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「もしよかったら。」
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二人は声を揃える。
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「吹奏楽部、入れてくれ!」
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音楽準備室が静まり返る。
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そして。
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「やったぁーーー!!」
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奏が思わず大声を上げた。
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「本当に!?」
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「部員が増えた!」
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「五人じゃない、六人……いや、八人だ!」
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普段は落ち着いている奏が子どものようにはしゃぐ姿に、
美琴は笑い、
玲央もつられて笑う。
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透は腕を組みながら、小さく鼻で笑った。
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「……うるせぇ。」
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そう言いながらも、
その表情はどこか嬉しそうだった。
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桐谷響子は廊下からその様子を見つめ、
静かに目を潤ませる。
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「本当に……」
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「戻ってきたんだ。」
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昨日、一曲の演奏が生んだ奇跡。
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誰もいなかった音楽準備室には、
今、たくさんの笑い声が響いていた。
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放課後。
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居場所をなくした者たちが集まる場所は、
少しずつ、
「みんなの居場所」へと変わり始めていた。
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第8章
「響き始めた放課後」




