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放課後ブレーメン  作者: まーサンタ


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8/21

第7小節 「四つ目の音色」



⸻


演奏会当日。


青葉ヶ丘学園、中庭。


⸻


昼休みを知らせるチャイムが鳴ると同時に、生徒たちが次々と集まり始めた。


「吹奏楽部が演奏するらしいよ。」


「まだ残ってたんだ。」


「三人だけって聞いたけど。」


興味半分、冷やかし半分。


そんな視線が三人へ向けられる。


⸻


桐谷響子は深呼吸をして頷いた。


「大丈夫。今まで練習したことを信じよう。」


神谷奏はピアノへ座る。


水野美琴はクラリネットを胸に抱く。


白石玲央はトランペットを握りしめた。


その手は、少し震えていた。


⸻


「それでは……始めます。」


奏が鍵盤へ指を置く。


柔らかなピアノが中庭に流れる。


続いて美琴のクラリネット。


澄んだ音色が校舎へ響いていく。


「……意外といいじゃん。」


そんな声が客席から漏れ始めた。


玲央は心の中で呟く。


(よし……次だ。)


⸻


いよいよ。


曲の見せ場。


トランペットソロ。


⸻


玲央は大きく息を吸った。


吹く。


⸻


しかし。


音は割れた。


甲高く、かすれた音が響く。


もう一度。


吹こうとする。


だが唇が震え、思うように息が入らない。


⸻


演奏が止まる。


⸻


中庭は静まり返った。


⸻


「……。」


「失敗?」


「かわいそう……。」


ざわめきが広がる。


⸻


玲央の頭は真っ白だった。


(まただ……。)


(また俺は失敗した。)


(サッカーの時と同じだ。)


(何も変われてない。)


⸻


「ごめん……。」


誰にも聞こえないほど小さく呟く。


⸻


その時だった。


⸻


「どけ。」


⸻


低い声が響いた。


人垣をかき分け、一人の少年がステージへ上がる。


黒川透。


⸻


「えっ?」


玲央が振り向く間もなく、


透は玲央のトランペットを乱暴に取り上げた。


代わりに肩へ担いできた大きなケースを開く。


中から現れたのは——


チューバ。


⸻


「お前。」


透は玲央へ押し付けるように渡した。


「そっちの方が向いてる。」


玲央は戸惑う。


「でも……。」


「いいから吹け。」


⸻


透は振り返り、


ピアノの前に座る奏を鋭く睨んだ。


「……合わせろ。」


その一言だけだった。


⸻


奏は小さく笑う。


「最初から、そのつもり。」


⸻


再び演奏が始まる。


⸻


ピアノ。


クラリネット。


そして——


⸻


透のトランペット。


⸻


突き抜けるような高音。


力強く、それでいてどこか温かい旋律。


中庭の空気を一瞬で塗り替えた。


⸻


「すごい……。」


「誰?」


「鳥肌立った……。」


⸻


玲央はチューバへ息を吹き込む。


低く支える音。


不思議なほど自然だった。


さっきまでの焦りが消えていく。


(これでいい。)


(俺の音は、これなんだ。)


⸻


美琴はクラリネットで応える。


奏は四人の音を包み込むように鍵盤を叩く。


⸻


四つの音が重なる。


⸻


誰もいなかった吹奏楽部。


廃部寸前だった音楽室。


そこから始まった音は、


今、中庭いっぱいに響いていた。


⸻


演奏が終わる。


一瞬の静寂。


そして——


⸻


「ブラボー!」


⸻


拍手。


歓声。


口笛。


校舎中に響く大きな拍手。


⸻


玲央は思わず笑っていた。


美琴は涙を浮かべていた。


奏は静かに透を見る。


⸻


透は何も言わない。


トランペットをケースへしまい、そのまま背を向ける。


⸻


「おい!」


奏が呼び止める。


透は立ち止まるだけだった。


⸻


「……名前は?」


⸻


少しだけ間を置き、


少年は振り返らずに答えた。


⸻


「黒川透。」


⸻


「その名前、覚えとけ。」


⸻


そう言い残し、


透は人混みの中へ消えていった。


⸻


しかし。


その日の夕暮れ。


音楽準備室の扉の前には、


一枚の入部届が静かに置かれていた。


名前を書く欄には、力強い字でこう記されていた。


「黒川 透」


⸻


こうして、「放課後ブレーメン」の四人は、ようやく全員がそろうことになる。


⸻


第7章「四つ目の音色」 完

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