第7小節 「四つ目の音色」
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演奏会当日。
青葉ヶ丘学園、中庭。
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昼休みを知らせるチャイムが鳴ると同時に、生徒たちが次々と集まり始めた。
「吹奏楽部が演奏するらしいよ。」
「まだ残ってたんだ。」
「三人だけって聞いたけど。」
興味半分、冷やかし半分。
そんな視線が三人へ向けられる。
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桐谷響子は深呼吸をして頷いた。
「大丈夫。今まで練習したことを信じよう。」
神谷奏はピアノへ座る。
水野美琴はクラリネットを胸に抱く。
白石玲央はトランペットを握りしめた。
その手は、少し震えていた。
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「それでは……始めます。」
奏が鍵盤へ指を置く。
柔らかなピアノが中庭に流れる。
続いて美琴のクラリネット。
澄んだ音色が校舎へ響いていく。
「……意外といいじゃん。」
そんな声が客席から漏れ始めた。
玲央は心の中で呟く。
(よし……次だ。)
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いよいよ。
曲の見せ場。
トランペットソロ。
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玲央は大きく息を吸った。
吹く。
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しかし。
音は割れた。
甲高く、かすれた音が響く。
もう一度。
吹こうとする。
だが唇が震え、思うように息が入らない。
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演奏が止まる。
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中庭は静まり返った。
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「……。」
「失敗?」
「かわいそう……。」
ざわめきが広がる。
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玲央の頭は真っ白だった。
(まただ……。)
(また俺は失敗した。)
(サッカーの時と同じだ。)
(何も変われてない。)
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「ごめん……。」
誰にも聞こえないほど小さく呟く。
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その時だった。
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「どけ。」
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低い声が響いた。
人垣をかき分け、一人の少年がステージへ上がる。
黒川透。
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「えっ?」
玲央が振り向く間もなく、
透は玲央のトランペットを乱暴に取り上げた。
代わりに肩へ担いできた大きなケースを開く。
中から現れたのは——
チューバ。
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「お前。」
透は玲央へ押し付けるように渡した。
「そっちの方が向いてる。」
玲央は戸惑う。
「でも……。」
「いいから吹け。」
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透は振り返り、
ピアノの前に座る奏を鋭く睨んだ。
「……合わせろ。」
その一言だけだった。
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奏は小さく笑う。
「最初から、そのつもり。」
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再び演奏が始まる。
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ピアノ。
クラリネット。
そして——
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透のトランペット。
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突き抜けるような高音。
力強く、それでいてどこか温かい旋律。
中庭の空気を一瞬で塗り替えた。
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「すごい……。」
「誰?」
「鳥肌立った……。」
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玲央はチューバへ息を吹き込む。
低く支える音。
不思議なほど自然だった。
さっきまでの焦りが消えていく。
(これでいい。)
(俺の音は、これなんだ。)
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美琴はクラリネットで応える。
奏は四人の音を包み込むように鍵盤を叩く。
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四つの音が重なる。
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誰もいなかった吹奏楽部。
廃部寸前だった音楽室。
そこから始まった音は、
今、中庭いっぱいに響いていた。
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演奏が終わる。
一瞬の静寂。
そして——
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「ブラボー!」
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拍手。
歓声。
口笛。
校舎中に響く大きな拍手。
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玲央は思わず笑っていた。
美琴は涙を浮かべていた。
奏は静かに透を見る。
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透は何も言わない。
トランペットをケースへしまい、そのまま背を向ける。
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「おい!」
奏が呼び止める。
透は立ち止まるだけだった。
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「……名前は?」
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少しだけ間を置き、
少年は振り返らずに答えた。
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「黒川透。」
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「その名前、覚えとけ。」
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そう言い残し、
透は人混みの中へ消えていった。
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しかし。
その日の夕暮れ。
音楽準備室の扉の前には、
一枚の入部届が静かに置かれていた。
名前を書く欄には、力強い字でこう記されていた。
「黒川 透」
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こうして、「放課後ブレーメン」の四人は、ようやく全員がそろうことになる。
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第7章「四つ目の音色」 完




