第6小節 「最初のステージ」
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「部員を増やすなら、待っているだけじゃ駄目だね」
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桐谷響子は、
音楽室の黒板に予定を書いた。
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『吹奏楽部 勧誘演奏会』
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場所。
学校中庭。
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日時。
数日後。
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奏、美琴、玲央の三人は、
その文字を見つめる。
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「……演奏会って」
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美琴が不安そうに言う。
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「私たち、まだ三人ですよ?」
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桐谷は笑う。
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「だからこそ」
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「今の音を聴いてもらうんだよ」
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三人の音
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練習が始まった。
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神谷奏。
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ピアノ。
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水野美琴。
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クラリネット。
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そして。
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白石玲央。
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トランペット。
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本来なら、
吹奏楽部としては不思議な編成だった。
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しかし。
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三人には、
三人なりの音があった。
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奏のピアノは、
少しずつ昔の感覚を取り戻している。
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美琴のクラリネットは、
まだ不安定ながら、
優しい音を出せるようになっていた。
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問題は。
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玲央だった。
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苦戦するトランペット
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「……また外れた」
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玲央は悔しそうにトランペットを見る。
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音程が安定しない。
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息の使い方も分からない。
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サッカーなら、
練習すれば感覚で分かった。
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体が覚えていた。
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でも。
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楽器は違う。
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思うようにいかない。
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「やっぱり俺には向いてないのかもな」
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玲央が呟く。
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すると。
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奏が言った。
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「でも」
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「昨日より良くなってる」
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美琴も頷く。
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「最初の日より、ちゃんと音になっています」
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玲央は少し驚く。
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自分では分からなかった。
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失敗ばかり見ていたから。
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チューバという選択
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桐谷は玲央に別の楽器を渡した。
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チューバ。
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低く大きな音を響かせる楽器。
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玲央が吹く。
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すると。
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「……こっちの方が」
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玲央自身が驚く。
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音が出る。
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安定する。
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「玲央君は低音の方が向いているかもしれないね」
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桐谷は言う。
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玲央も分かっていた。
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チューバなら、
もっと上手くできる。
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だけど。
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「……でも」
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玲央はトランペットを見る。
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「演奏会なら」
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「こっちの方が目立つだろ」
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奏が笑う。
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「玲央らしい」
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本当は怖い。
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また失敗するかもしれない。
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でも。
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玲央は初めて、
自分から挑戦を選んだ。
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数日間の練習
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放課後。
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毎日。
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音楽準備室から音が響いた。
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最初はバラバラだった。
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奏のピアノ。
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美琴のクラリネット。
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玲央のトランペット。
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でも。
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少しずつ重なっていく。
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誰もいなかった音楽室。
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今では、
三人の笑い声が響いていた。
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「明日、本番だね」
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美琴が言う。
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玲央は苦笑する。
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「失敗したら笑えよ」
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奏は首を振る。
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「失敗してもいい」
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「でも」
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「途中でやめるのだけはやめよう」
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三人は頷いた。
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本番当日の朝
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青葉ヶ丘学園。
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朝の中庭。
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準備された小さなステージ。
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生徒たちが少しずつ集まり始める。
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「大丈夫かな……」
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美琴が呟く。
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玲央は楽器を握る。
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奏はピアノの前に座る。
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まだ完璧じゃない。
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まだ吹奏楽部とは呼べないかもしれない。
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でも。
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三人には、
届けたい音があった。
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桐谷は少し離れた場所から、
その姿を見守る。
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「頑張って」
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小さく呟く。
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そして。
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演奏開始の時間が近づく。
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三人の、
最初のステージが始まろうとしていた。
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第6章
「最初のステージ」
完




