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放課後ブレーメン  作者: まーサンタ


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6/21

第5小節 「錆びないトランペット」



⸻


黒川透(くろかわ とおる)は、


学校で有名な問題児だった。


⸻


授業中に寝る。


遅刻する。


教師の注意を聞かない。


⸻


「また黒川か」


⸻


そんな言葉を、


何度聞いただろう。


⸻


透自身も、


否定する気はなかった。


⸻


別に、


良い生徒になりたいわけじゃない。


⸻


誰かに期待されることも。


失望されることも。


⸻


全部、


面倒だった。


⸻


⸻


家にある音


⸻


透の家は、


母親との二人暮らしだった。


⸻


父親はいない。


⸻


正確には、


いなくなった。


⸻


両親は透が幼い頃に離婚した。


⸻


理由は詳しく知らない。


⸻


ただ。


⸻


母親が父親の話をするとき、


いつも悲しそうな顔をしていた。


⸻


父親。


⸻


黒川蓮司(くろかわ れんじ)。


⸻


かつて、


ジャズトランペット奏者として活動していた男。


⸻


透にとって父親は、


憧れの存在ではなかった。


⸻


家族を置いて出て行った人間。


⸻


母親を傷つけた人間。


⸻


「俺には関係ない」


⸻


そう思っていた。


⸻


⸻


それでも残ったもの


⸻


透の部屋の片隅。


⸻


そこには一本のトランペットが飾られていた。


⸻


古いケース。


少し傷のある金色の楽器。


⸻


父親が使っていたもの。


⸻


⸻


「捨てればいいのに」


⸻


透は何度も思った。


⸻


母親も、


一度だけ言ったことがある。


⸻


「もう処分してもいいんだよ」


⸻


でも。


⸻


透はできなかった。


⸻


理由は分からない。


⸻


父親が嫌いなのに。


⸻


その楽器だけは、


嫌いになれなかった。


⸻


⸻


音楽準備室


⸻


ある日の放課後。


⸻


透は校舎を歩いていた。


⸻


いつもの帰り道。


⸻


いつものように、


何も考えず歩いていた。


⸻


その時。


⸻


音が聞こえた。


⸻


ピアノ。


⸻


クラリネット。


⸻


そして。


⸻


誰かの笑い声。


⸻


音楽準備室。


⸻


最近、


妙に気になる場所。


⸻


扉の向こうには、


廃部寸前だった吹奏楽部がある。


⸻


⸻


「……くだらない」


⸻


透は呟く。


⸻


興味なんてない。


⸻


そう言い聞かせる。


⸻


しかし。


⸻


足は一瞬止まった。


⸻


中から聞こえる音。


⸻


まだ未完成。


⸻


でも。


⸻


楽しそうだった。


⸻


⸻


透は小さく笑う。


⸻


「下手くそ」


⸻


そう言いながら。


⸻


その場を離れる。


⸻


⸻


父親の音


⸻


その夜。


⸻


透は部屋のトランペットを見る。


⸻


ケースを開けることはない。


⸻


触れることもしない。


⸻


ただ。


⸻


そこにあることを確認する。


⸻


⸻


昔。


⸻


父親が吹いていた音。


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テレビで見たことがある。


⸻


ステージの上で、


自由に音を奏でる姿。


⸻


その時の父親は、


透の知っている人間とは違って見えた。


⸻


⸻


「……なんで」


⸻


透は呟く。


⸻


「なんで、そんな音を出せる人が」


⸻


「家族を捨てられるんだよ」


⸻


答えは返ってこない。


⸻


⸻


まだ知らない未来


⸻


翌日。


⸻


透はまた音楽準備室の前を通る。


⸻


中から音が聞こえる。


⸻


奏。


美琴。


玲央。


⸻


まだ三人だけの音。


⸻


透は扉を見る。


⸻


そして。


⸻


いつものように目を逸らす。


⸻


「俺には関係ない」


⸻


そう言って歩き出す。


⸻


⸻


でも。


⸻


その手は。


⸻


無意識に、


自分の鞄の中にあるものを握っていた。


⸻


古いトランペットのキーホルダー。


⸻


⸻


透自身はまだ気づいていない。


⸻


自分もまた、


音楽を求めていることを。


⸻


そして。


⸻


あの音楽室が、


いつか自分の居場所になることを。


⸻


⸻


第5章


「錆びないトランペット」


完

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