終章 「響き続ける音」
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最後の一音が、
静かに消えた。
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青葉ヶ丘学園。
八人の音楽隊。
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放課後ブレーメンの演奏が終わった。
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舞台の上。
誰も動かなかった。
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数秒間の静寂。
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それは、
失敗への沈黙ではない。
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余韻だった。
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やがて。
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一人。
また一人。
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客席から拍手が起こる。
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そして。
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大きな拍手へ変わっていく。
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演奏を終えて
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透はゆっくりとトランペットを下ろした。
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自分でも分かっていた。
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今日の自分は、
今までで一番自由に吹けた。
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父から教わった技術。
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仲間からもらった勇気。
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全部が一つになった音だった。
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しかし。
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それ以上に客席を惹きつけたのは、
八人全員の音だった。
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玲央のチューバが土台を作り。
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美琴のクラリネットが優しく包み。
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奏のピアノが全員を導く。
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そして。
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それぞれの音が、
一つの音楽になった。
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ライバルの想い
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客席。
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朝倉悠真は、
静かに舞台を見つめていた。
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隣の仲間が笑う。
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「やっぱり俺たちの方が上だろ。」
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「技術なら負けてない。」
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悠真は答えなかった。
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確かに。
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白鷹学院の演奏は完成されている。
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積み重ねてきた経験。
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磨き上げた技術。
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自信がある。
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でも。
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今、胸にある感情は。
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悔しさだった。
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(負けたくない。)
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初めて。
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純粋にそう思った。
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「あいつら……。」
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悠真は小さく呟く。
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「次は絶対に負けない。」
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舞台裏
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控室へ戻った青葉ヶ丘のメンバー。
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誰もすぐには話せなかった。
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緊張が解けた瞬間。
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全身の力が抜ける。
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「……終わった。」
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玲央が呟く。
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「やりきったな。」
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透が笑う。
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美琴は目元をぬぐう。
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「楽しかったです。」
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奏は静かに頷いた。
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「うん。」
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「最高だった。」
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結果はまだ分からない。
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でも。
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もう後悔はなかった。
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客席
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桐谷は拍手を続けていた。
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その隣。
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教頭は腕を組んだまま、
険しい表情を崩さない。
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しかし。
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その目には、
確かなものがあった。
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(……ここまで。)
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(この子たちは。)
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厳しい現実を突きつけた自分が、
間違っていたとは思わない。
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でも。
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彼らが見せた音楽は、
数字や結果だけでは測れないものだった。
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「素晴らしかったですね。」
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教師が声をかける。
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教頭は少し間を置いて答える。
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「……ええ。」
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小さく。
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「心を動かされました。」
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結果発表
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そして。
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運命の時間。
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各校の結果が発表される。
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「白鷹学院高等学校――」
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「金賞。」
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会場に拍手が起こる。
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悠真は静かに礼をする。
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当然の結果。
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そう思われていた。
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しかし。
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青葉ヶ丘学園のメンバーは、
緊張した表情で前を見る。
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手を握る。
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息を止める。
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「続いて。」
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「青葉ヶ丘学園高等学校。」
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時間が止まったようだった。
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「……。」
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「金賞。」
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その瞬間。
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「えっ……。」
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美琴の声が漏れる。
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玲央が目を見開く。
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透は静かに息を吐く。
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奏は目を閉じた。
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歓声。
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拍手。
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全員が互いを見る。
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そして。
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笑った。
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その瞬間。
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客席の一番後ろ。
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黒川蓮司は立ち上がった。
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誰にも気づかれないように。
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静かに会場を後にする。
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透は気づかなかった。
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しかし。
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父は確かに聞いていた。
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息子が、
自分とは違う形で掴んだ音を。
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秋
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季節は流れた。
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秋。
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青葉ヶ丘学園の音楽準備室。
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以前とは違う景色になっていた。
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「先輩!ここ教えてください!」
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「合奏始めます!」
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部室には、
たくさんの声が響く。
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部員数。
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三十人。
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誰もいなかった吹奏楽部は、
今では学校中が知る存在になった。
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奏はピアノへ向かう。
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美琴はクラリネットを構える。
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玲央はチューバを鳴らす。
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透はトランペットを空へ向ける。
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「次は全国……。」
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誰かが呟く。
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「その前に。」
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奏が笑う。
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「もっといい音にしよう。」
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放課後。
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校舎に音楽が響く。
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誰かの居場所になる音。
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誰かの背中を押す音。
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かつて誰もいなかった場所から始まった音は、
今も止まらない。
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ブレーメンの音楽隊は、歩き続ける。
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終章
「響き続ける音」




