↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放課後ブレーメン  作者: まーサンタ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/21

終章 「響き続ける音」



⸻


最後の一音が、


静かに消えた。


⸻


青葉ヶ丘学園。


八人の音楽隊。


⸻


放課後ブレーメンの演奏が終わった。


⸻


舞台の上。


誰も動かなかった。


⸻


数秒間の静寂。


⸻


それは、


失敗への沈黙ではない。


⸻


余韻だった。


⸻


やがて。


⸻


一人。


また一人。


⸻


客席から拍手が起こる。


⸻


そして。


⸻


大きな拍手へ変わっていく。


⸻


⸻


演奏を終えて


⸻


透はゆっくりとトランペットを下ろした。


⸻


自分でも分かっていた。


⸻


今日の自分は、


今までで一番自由に吹けた。


⸻


父から教わった技術。


⸻


仲間からもらった勇気。


⸻


全部が一つになった音だった。


⸻


しかし。


⸻


それ以上に客席を惹きつけたのは、


八人全員の音だった。


⸻


玲央のチューバが土台を作り。


⸻


美琴のクラリネットが優しく包み。


⸻


奏のピアノが全員を導く。


⸻


そして。


⸻


それぞれの音が、


一つの音楽になった。


⸻


⸻


ライバルの想い


⸻


客席。


⸻


朝倉悠真(あさくら ゆうま)は、


静かに舞台を見つめていた。


⸻


隣の仲間が笑う。


⸻


「やっぱり俺たちの方が上だろ。」


⸻


「技術なら負けてない。」


⸻


悠真は答えなかった。


⸻


確かに。


⸻


白鷹学院の演奏は完成されている。


⸻


積み重ねてきた経験。


⸻


磨き上げた技術。


⸻


自信がある。


⸻


でも。


⸻


今、胸にある感情は。


⸻


悔しさだった。


⸻


⸻


(負けたくない。)


⸻


⸻


初めて。


⸻


純粋にそう思った。


⸻


「あいつら……。」


⸻


悠真は小さく呟く。


⸻


「次は絶対に負けない。」


⸻


⸻


舞台裏


⸻


控室へ戻った青葉ヶ丘のメンバー。


⸻


誰もすぐには話せなかった。


⸻


緊張が解けた瞬間。


⸻


全身の力が抜ける。


⸻


⸻


「……終わった。」


⸻


玲央が呟く。


⸻


⸻


「やりきったな。」


⸻


透が笑う。


⸻


⸻


美琴は目元をぬぐう。


⸻


「楽しかったです。」


⸻


⸻


奏は静かに頷いた。


⸻


「うん。」


⸻


「最高だった。」


⸻


⸻


結果はまだ分からない。


⸻


でも。


⸻


もう後悔はなかった。


⸻


⸻


客席


⸻


桐谷は拍手を続けていた。


⸻


その隣。


⸻


教頭は腕を組んだまま、


険しい表情を崩さない。


⸻


しかし。


⸻


その目には、


確かなものがあった。


⸻


⸻


(……ここまで。)


⸻


(この子たちは。)


⸻


⸻


厳しい現実を突きつけた自分が、


間違っていたとは思わない。


⸻


でも。


⸻


彼らが見せた音楽は、


数字や結果だけでは測れないものだった。


⸻


⸻


「素晴らしかったですね。」


⸻


教師が声をかける。


⸻


教頭は少し間を置いて答える。


⸻


「……ええ。」


⸻


小さく。


⸻


「心を動かされました。」


⸻


⸻


結果発表


⸻


そして。


⸻


運命の時間。


⸻


各校の結果が発表される。


⸻


⸻


「白鷹学院高等学校――」


⸻


「金賞。」


⸻


⸻


会場に拍手が起こる。


⸻


悠真は静かに礼をする。


⸻


当然の結果。


⸻


そう思われていた。


⸻


⸻


しかし。


⸻


青葉ヶ丘学園のメンバーは、


緊張した表情で前を見る。


⸻


手を握る。


⸻


息を止める。


⸻


⸻


「続いて。」


⸻


「青葉ヶ丘学園高等学校。」


⸻


⸻


時間が止まったようだった。


⸻


⸻


「……。」


⸻


⸻


「金賞。」


⸻


⸻


その瞬間。


⸻


「えっ……。」


⸻


美琴の声が漏れる。


⸻


玲央が目を見開く。


⸻


透は静かに息を吐く。


⸻


奏は目を閉じた。


⸻


⸻


歓声。


⸻


拍手。


⸻


⸻


全員が互いを見る。


⸻


そして。


⸻


笑った。


⸻


⸻


その瞬間。


⸻


客席の一番後ろ。


⸻


黒川蓮司は立ち上がった。


⸻


誰にも気づかれないように。


⸻


静かに会場を後にする。


⸻


⸻


透は気づかなかった。


⸻


しかし。


⸻


父は確かに聞いていた。


⸻


息子が、


自分とは違う形で掴んだ音を。


⸻


⸻


秋


⸻


季節は流れた。


⸻


秋。


⸻


青葉ヶ丘学園の音楽準備室。


⸻


以前とは違う景色になっていた。


⸻


「先輩!ここ教えてください!」


⸻


「合奏始めます!」


⸻


部室には、


たくさんの声が響く。


⸻


部員数。


⸻


三十人。


⸻


⸻


誰もいなかった吹奏楽部は、


今では学校中が知る存在になった。


⸻


⸻


奏はピアノへ向かう。


⸻


美琴はクラリネットを構える。


⸻


玲央はチューバを鳴らす。


⸻


透はトランペットを空へ向ける。


⸻


⸻


「次は全国……。」


⸻


誰かが呟く。


⸻


⸻


「その前に。」


⸻


奏が笑う。


⸻


「もっといい音にしよう。」


⸻


⸻


放課後。


⸻


校舎に音楽が響く。


⸻


誰かの居場所になる音。


⸻


誰かの背中を押す音。


⸻


⸻


かつて誰もいなかった場所から始まった音は、


今も止まらない。


⸻


⸻


ブレーメンの音楽隊は、歩き続ける。


⸻


終章


「響き続ける音」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。