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放課後ブレーメン  作者: まーサンタ


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19/21

第18小節 「空を裂く一音」



⸻


舞台袖。


⸻


青葉ヶ丘学園。


⸻


出番まで、あと数分。


⸻


会場の空気は張り詰めていた。


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遠くから聞こえる観客のざわめき。


⸻


他校の演奏が残した余韻。


⸻


そして。


⸻


自分たちを待つ静寂。


⸻


「……。」


⸻


誰も口を開かなかった。


⸻


ただ。


⸻


全員が自分の鼓動を聞いていた。


⸻


ドン。


⸻


ドン。


⸻


まるでバスドラムのような大きな鼓動。


⸻


それは恐怖ではない。


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これから始まる瞬間を待つ、


覚悟の音だった。


⸻


⸻


舞台へ


⸻


「青葉ヶ丘学園高等学校のみなさん。」


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スタッフの声が響く。


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「お願いします。」


⸻


⸻


八人の音楽隊。


⸻


放課後ブレーメンが、


ゆっくりと舞台へ歩き出す。


⸻


客席には、


桐谷響子(きりたに きょうこ)。


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教頭。


⸻


そして。


⸻


一番後ろには、


黒川蓮司(くろかわ れんじ)。


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静かに腕を組んでいる。


⸻


⸻


照明。


⸻


広い舞台。


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数えきれない観客。


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その中心へ、


八人が立った。


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⸻


「続いては、青葉ヶ丘学園高等学校です。」


⸻


アナウンスが流れる。


⸻


「演奏人数、八名。」


⸻


会場が少しざわめく。


⸻


小編成。


⸻


少ない人数。


⸻


しかし。


⸻


「演奏曲は――」


⸻


「『夜空のトランペット』」


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その名前が告げられる。


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奏(かみや かなで)は静かに息を吸う。


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指揮はない。


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ピアノと全員の呼吸で始める。


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最初の一音。


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それを奏と透で作る。


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⸻


奏の指が鍵盤へ向かう。


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透がトランペットを構える。


⸻


⸻


しかし。


⸻


二人の指は震えていた。


⸻


⸻


(怖い。)


⸻


奏は思う。


⸻


過去の記憶。


⸻


あの日。


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舞台で音を失った瞬間。


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それが一瞬だけ蘇る。


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⸻


透も同じだった。


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父親の音。


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期待。


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失敗への恐怖。


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⸻


「……。」


⸻


玲央が二人を見る。


⸻


美琴も不安そうに見つめる。


⸻


⸻


このままでは。


⸻


⸻


その時。


⸻


客席の一角。


⸻


「ふん。」


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小さな声。


⸻


朝倉悠真だった。


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腕を組み、


少し残念そうに笑う。


⸻


(やっぱりか。)


⸻


(あれだけ大口を叩いても、ここでは――。)


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⸻


その瞬間。


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「……へっ。」


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会場に響く。


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大きなくしゃみ。


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⸻


「へっ……へっ……。」


⸻


「へっくしょん!」


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⸻


静寂の中。


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あまりにも大きな音。


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会場の視線が一瞬集まる。


⸻


⸻


透が顔を上げる。


⸻


「……。」


⸻


その音の方向を見る。


⸻


遠い客席。


⸻


顔までは見えない。


⸻


でも。


⸻


分かった。


⸻


⸻


父親。


⸻


黒川蓮司。


⸻


⸻


蓮司は少し気まずそうな顔をしながら、


小さく笑っていた。


⸻


透も。


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思わず口元が緩む。


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⸻


(何やってんだよ。)


⸻


⸻


しかし。


⸻


その一瞬で、


張り詰めていたものが消えた。


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⸻


蓮司は小さく頷く。


⸻


「吹け。」


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声は届かない。


⸻


でも。


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透には聞こえた気がした。


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⸻


透は奏を見る。


⸻


目配せ。


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⸻


奏も気づく。


⸻


そして。


⸻


小さく笑った。


⸻


もう大丈夫だった。


⸻


⸻


演奏開始


⸻


奏の指が動く。


⸻


最初の旋律。


⸻


そして。


⸻


透。


⸻


⸻


トランペットが鳴る。


⸻


⸻


次の瞬間。


⸻


会場の空気が変わった。


⸻


⸻


高らかな音。


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力強い響き。


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まっすぐで、


迷いのない音。


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⸻


演奏会の日とは違う。


⸻


あの日は、


誰かへ届けるための音だった。


⸻


今日は。


⸻


自分たちの存在を証明する音。


⸻


⸻


透のトランペットは、


まるで夜空を切り裂く光だった。


⸻


⸻


「……!」


⸻


客席がざわめく。


⸻


⸻


「すごい……。」


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「小編成なのに……。」


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⸻


その音に、


一瞬で会場が引き込まれる。


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⸻


舞台袖で待つ生徒たちも、


息をのむ。


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⸻


玲央は笑う。


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「やっぱり……。」


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「こいつ、すげぇな。」


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美琴の目には涙が浮かぶ。


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「綺麗……。」


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⸻


奏は鍵盤を弾きながら思う。


⸻


(もう過去じゃない。)


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(今の俺たちの音だ。)


⸻


⸻


透もまた、


トランペットを吹きながら笑っていた。


⸻


怖さは消えていた。


⸻


あるのはただ。


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音楽が楽しいという気持ち。


⸻


⸻


八人の音が重なる。


⸻


⸻


誰もいなかった音楽室から始まった音。


⸻


それは今、


大きなホールいっぱいに響いていた。


⸻


第18章


「空を裂く一音」

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