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放課後ブレーメン  作者: まーサンタ


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18/21

第17小節 「越えるべき音」



⸻


指揮棒が振り下ろされた。


⸻


一瞬。


⸻


静寂。


⸻


そして。


⸻


音が生まれた。


⸻


白鷹学院の演奏が始まる。


⸻


最初の一音。


⸻


その瞬間。


会場にいた全員が感じた。


⸻


「……違う。」


⸻


誰かが小さく呟く。


⸻


音の厚み。


⸻


一人ひとりの技術。


⸻


そして何より。


⸻


全員が同じ方向を見ているような一体感。


⸻


それは、ただ上手いという言葉では表せなかった。


⸻


一つの楽器が鳴っているようで。


⸻


一つの生き物が呼吸しているようだった。


⸻


⸻


朝倉悠真の音


⸻


その中心にいたのは、


朝倉悠真(あさくら ゆうま)。


⸻


トランペット。


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高らかに響く音色。


⸻


力強い。


⸻


しかし、決して独りよがりではない。


⸻


周囲の音を引き立てながら、


全体を導いている。


⸻


「……すごい。」


⸻


奏(かなで)は思わず息を漏らした。


⸻


悔しさではない。


⸻


純粋な驚きだった。


⸻


⸻


玲央は拳を握る。


⸻


「これが……。」


⸻


「上位校か。」


⸻


美琴は言葉を失っていた。


⸻


自分たちも必死に練習してきた。


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音楽が好きになった。


⸻


仲間と音を合わせる喜びを知った。


⸻


それでも。


⸻


今、目の前にある音は、


はっきりとした差を見せつけていた。


⸻


⸻


客席


⸻


観客席も、


完全に白鷹学院の音に飲み込まれていた。


⸻


誰も話さない。


⸻


誰も動かない。


⸻


ただ、聴いている。


⸻


一節。


⸻


ほんの短いフレーズを聴いただけで、


多くの人が確信していた。


⸻


今年の地区代表候補。


⸻


その一つは、


間違いなく白鷹学院だと。


⸻


⸻


舞台裏


⸻


一方。


⸻


次の出番を待つ青葉ヶ丘学園。


⸻


放課後ブレーメンの四人。


⸻


誰も言葉を発していなかった。


⸻


控室へ届く音。


⸻


その一音一音が、


心に響く。


⸻


「……。」


⸻


美琴は楽器ケースを抱えたまま動けない。


⸻


玲央も、


さっきまで落ち着きなく動いていた足が止まっている。


⸻


透は腕を組み、


静かに耳を傾けていた。


⸻


奏だけが、


真っ直ぐ前を見ている。


⸻


しかし。


⸻


その瞳の奥には、


わずかな揺れがあった。


⸻


⸻


「……この後。」


⸻


玲央が小さく呟く。


⸻


「俺たちが、あれの後に出るのか。」


⸻


誰も答えなかった。


⸻


答えられなかった。


⸻


あまりにも完成された音。


⸻


あまりにも高い壁。


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⸻


「怖いですね。」


⸻


美琴が小さな声で言う。


⸻


透はしばらく黙ったあと、


静かに答える。


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「……ああ。」


⸻


意外な返事だった。


⸻


「怖い。」


⸻


透は自分のトランペットケースを見る。


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「でも。」


⸻


「だからって逃げる理由にはならねぇ。」


⸻


その言葉に、


奏が小さく頷く。


⸻


⸻


舞台上。


⸻


白鷹学院の演奏は終盤へ向かっていた。


⸻


最後の盛り上がり。


⸻


悠真のトランペットが、


会場いっぱいに響き渡る。


⸻


その音は、


まるで次のステージへの切符を掴むようだった。


⸻


⸻


演奏終了。


⸻


一瞬の静寂。


⸻


そして。


⸻


割れんばかりの拍手。


⸻


⸻


舞台裏。


⸻


青葉ヶ丘学園の出番が近づく。


⸻


スタッフの声が響く。


⸻


「次、青葉ヶ丘学園さんです。」


⸻


⸻


四人は顔を見合わせる。


⸻


昨日までなら、


この圧倒的な音に怯えていたかもしれない。


⸻


でも。


⸻


今は違う。


⸻


奏は静かに言う。


⸻


「行こう。」


⸻


「俺たちの音を届けに。」


⸻


玲央が頷く。


⸻


美琴が楽器を抱える。


⸻


透がトランペットケースを持つ。


⸻


⸻


そして。


⸻


放課後ブレーメンは、


まだ誰も知らない自分たちだけの音を、


舞台へ持っていく。


⸻




「越えるべき音」

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