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放課後ブレーメン  作者: まーサンタ


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14/21

第13小節 「夜空へ響く音」



⸻


地区コンクールまで、残り二十五日。


放課後ブレーメンの部室には、緊張感が漂っていた。


今日は、コンクールで演奏する自由曲を決める日だった。


⸻


楽譜が机いっぱいに広げられる。


桐谷響子(きりたに きょうこ)が部員たちを見渡した。


⸻


「今日で曲を決めます。」


「一度決めたら、本番までその曲を仕上げることになるわ。」


⸻


全員が真剣な表情でうなずく。


⸻


候補曲


⸻


「この曲なんてどう?」


一年生の女子部員が一冊の楽譜を手にする。


⸻


「明るくて楽しそう!」


⸻


「悪くないね。」


桐谷が微笑む。


⸻


一方で、奏は黙って譜面を眺めていた。


⸻


透も腕を組み、一枚一枚静かに目を通している。


⸻


「やっぱり。」


桐谷が口を開く。


⸻


「コンクールなら、ソロが映える曲がいいと思う。」


⸻


「そうですね。」


奏もうなずく。


⸻


玲央が首をかしげる。


⸻


「ソロって、やっぱり奏のピアノ?」


⸻


美琴も自然とうなずいた。


⸻


「奏君のピアノ、本当にすごいですから。」


⸻


部員たちも口々に賛成する。


⸻


「私もピアノソロがいいと思います!」


「絶対目立つよ!」


⸻


その時だった。


⸻


「……違う。」


⸻


奏が静かに口を開く。


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全員の視線が集まる。


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「俺じゃない。」


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奏は隣に座る透を見る。


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「ソロは、透だ。」


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一瞬、部屋が静まり返る。


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「……は?」


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透が思わず聞き返した。


⸻


奏は一冊の楽譜を机へ置く。


⸻


タイトル。


『夜空のトランペット』


⸻


「この曲しかない。」


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桐谷が楽譜を開く。


⸻


ゆっくりと譜面を追いながら、小さく息をのんだ。


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「……そういうこと。」


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奏は静かに話し始める。


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「この曲は、トランペットが主役。」


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「周りは、その音を支える。」


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「透の音は、人を振り向かせる力がある。」


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「演奏会の日。」


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「あの日、みんなの空気を変えたのは透だった。」


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「だから。」


⸻


「この曲なら勝負できる。」


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「透の才能を、一番活かせる。」


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透は黙って楽譜を見つめていた。


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やがて、小さく首を振る。


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「無理だ。」


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「俺一人が目立つ曲なんて。」


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「失敗したら終わりだ。」


⸻


奏はすぐに言葉を返す。


⸻


「失敗してもいい。」


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「俺たちが支える。」


⸻


透は苦笑する。


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「簡単に言うな。」


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「俺は親父じゃない。」


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「そんな音は出せねぇ。」


⸻


父の背中。


幼い頃に聴いたジャズ。


今でも心の奥に残る音。


その記憶が、透の足を止めていた。


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その時。


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「だったら。」


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玲央が立ち上がる。


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「俺が支える。」


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透が顔を上げる。


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「チューバは土台だろ?」


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「お前が安心して吹けるように、俺が下を支える。」


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美琴も笑顔で続けた。


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「私もいます。」


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「クラリネットで、透君の音を包みます。」


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一年生たちも力強くうなずく。


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「私たちも頑張ります!」


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透は部屋を見渡した。


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みんなが、自分を見ている。


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期待している。


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信じている。


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長い沈黙のあと。


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透は大きく息を吐いた。


⸻


「……分かった。」


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ゆっくりと楽譜を手に取る。


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「やる。」


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「中途半端には吹かねぇ。」


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奏は微笑んだ。


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「それでいい。」


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桐谷は嬉しそうに全員を見渡す。


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「自由曲は――」


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「『夜空のトランペット』に決定します。」


⸻


部員たちから自然と拍手が起こる。


⸻


窓の外では、夕暮れがゆっくりと夜へ変わり始めていた。


⸻


残り二十五日。


⸻


一つの曲。


一つの目標。


そして、一つの想い。


⸻


放課後ブレーメンは、いよいよ地区コンクールへ向けて本当の意味で走り始める。


⸻


第13章


「夜空へ響く音」

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