第12小節 「初めてのライバル」
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地区コンクールまで、あと一か月。
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放課後ブレーメンは毎日のように練習を重ねていた。
一年生二人も基礎練習を繰り返し、
少しずつ吹奏楽部らしい音になってきている。
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「よし、今日はここまで!」
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桐谷響子が笑顔で手を叩く。
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「みんなに知らせがあります。」
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部員たちが顔を上げる。
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「今週末、地区の強豪校との合同練習が決まりました。」
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「えっ!」
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美琴が目を丸くする。
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「強豪校ですか?」
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桐谷は頷いた。
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「コンクール常連校よ。」
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「きっと勉強になる。」
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奏は静かに拳を握る。
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「……お願いします。」
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合同練習
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週末。
市民文化ホール。
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広いリハーサル室には、
数十人規模の吹奏楽部が集まっていた。
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「人数、多いな……。」
玲央が思わず呟く。
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「緊張します……。」
美琴も周囲を見回す。
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その中で透だけは腕を組み、
静かに周囲を観察していた。
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強豪校の演奏が始まる。
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圧倒的だった。
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息の揃い方。
音の厚み。
一糸乱れぬ演奏。
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玲央は思わず息をのむ。
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「すげぇ……。」
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奏も目を離せなかった。
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(これが地区の上位校……。)
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エース奏者
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休憩時間。
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一人の男子生徒が透の前に立った。
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制服の胸には、
強豪校・白鷹学院の校章。
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トランペットケースを肩に掛けた二年生。
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白鷹学院のエース奏者、
朝倉悠真。
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「昨日動画で見たよ。」
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朝倉は笑う。
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「君が途中から出てきたトランペットだろ?」
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透は無言。
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「なかなか良かった。」
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「でも。」
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朝倉は鼻で笑う。
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「所詮、話題になっただけだよな。」
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透の眉が動く。
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「地区コンクールは遊びじゃない。」
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「一曲成功したくらいで勝てるほど甘くない。」
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透は何も言わない。
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朝倉は今度は奏へ視線を向けた。
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「あんたが部長?」
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奏は静かに答える。
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「違う。」
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「へぇ。」
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「でも指揮してるのはあんただろ。」
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朝倉はニヤリと笑う。
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「そういえば。」
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「昔、本番で演奏止まった奴ってあんた?」
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その一言で、
奏の表情が固まる。
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「才能があるって騒がれて。」
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「本番で真っ白になって終わった。」
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「有名だったよな。」
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透の拳が震える。
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「てめぇ……。」
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一歩踏み出そうとした、その瞬間。
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「ふざけるな!!」
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先に声を上げたのは玲央だった。
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「人の過去を笑って楽しいのか!」
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「奏は逃げてない!」
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「今も俺たちを引っ張ってくれてる!」
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玲央は今にも掴みかかりそうな勢いだった。
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美琴が慌てて止める。
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「玲央君!」
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その姿を見て、
透はふっと息を吐いた。
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(……危ねぇ。)
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さっきまで頭に血が上っていた。
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でも。
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玲央が自分以上に怒ってくれた。
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そのおかげで、
透は冷静さを取り戻す。
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透は一歩前へ出る。
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朝倉の目を真っ直ぐ見据える。
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そして、
静かに言った。
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「うちの大将を甘く見るな。」
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その声には怒鳴るような勢いはなかった。
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だからこそ、
重く響いた。
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「今はまだ、お前が上かもしれねぇ。」
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「でも。」
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「その差は、俺たちがひっくり返す。」
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朝倉は鼻で笑う。
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「大口だけは一人前だな。」
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「地区で当たったら教えてやるよ。」
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そう言い残し、
踵を返して歩いていく。
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「せいぜい一回戦敗退しないようにな。」
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その背中を見送りながら、
誰も言葉を発しなかった。
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やがて奏が小さく笑う。
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「ありがとう。」
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玲央は照れくさそうに頭をかく。
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「仲間だからな。」
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透はぶっきらぼうに鼻を鳴らす。
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「……勘違いするな。」
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「大将を馬鹿にされるのが気に食わなかっただけだ。」
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その言葉に、
美琴は思わず笑った。
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地区コンクールまで、
残り一か月。
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放課後ブレーメンは、
初めて「超えるべき相手」と出会った。
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そして四人は、
心の中で同じことを誓う。
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――絶対に負けない。
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第12章
「初めてのライバル」




