第11小節 「決意の朝」
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朝の音楽準備室。
窓から差し込む柔らかな朝日が、譜面台を照らしていた。
神谷奏と黒川透は、まだ静かな部屋で向かい合っている。
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「……そんなことが。」
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奏は透から昨夜の出来事を聞き終え、小さく息をついた。
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「教頭は間違ったことは言ってなかった。」
透は壁にもたれながら言う。
「でも、納得なんてできるか。」
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その時、音楽準備室の扉が開いた。
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「おはようございます!」
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水野美琴が元気よく入ってくる。
その後ろから、白石玲央も姿を見せた。
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「二人とも早いな。」
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玲央は笑いながら言う。
しかし、奏と透の表情を見て笑顔が消えた。
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「……どうした?」
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奏はゆっくりと口を開く。
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「みんなに話しておかなきゃいけないことがある。」
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静かな部屋に、昨夜の出来事が語られていく。
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教頭室での話。
夏までに結果を出さなければ廃部になること。
透が教頭へ直談判したこと。
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話が終わる頃には、
部屋は重い空気に包まれていた。
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「そんな……。」
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美琴の声が震える。
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「やっと部員も増えて……。」
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「これからだと思っていたのに。」
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目には涙が浮かんでいた。
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「また……なくなっちゃうの?」
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誰もすぐには答えられない。
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その沈黙を破ったのは玲央だった。
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「だったら。」
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玲央は立ち上がる。
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「結果を出せばいい。」
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透が顔を上げる。
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「教頭はそう言ったんだろ?」
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「だったら、やるしかねぇじゃん。」
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「俺、サッカーを辞めた時さ。」
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玲央は拳を握る。
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「もう何も頑張れないって思ってた。」
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「でも、この部に入って違った。」
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「また本気になれる場所を見つけた。」
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「だから。」
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「簡単になくされてたまるか。」
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透は小さく笑った。
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「珍しく気が合うな。」
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「俺も同じだ。」
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「絶対になくさせねぇ。」
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美琴は二人を見つめる。
少しずつ、その表情に力が戻っていく。
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一方で。
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奏だけは黙っていた。
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窓の外を見つめながら、何かを考えている。
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「奏?」
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美琴が心配そうに呼びかける。
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奏はゆっくりと振り返った。
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その時。
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コンコン。
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音楽準備室の扉がノックされる。
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「みんな、おはよう。」
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桐谷響子が入ってきた。
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「今日は朝練から頑張ろう……。」
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言いかけた桐谷を、奏が遮る。
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「先生。」
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その声には迷いがなかった。
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「地区コンクールに出場しましょう。」
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部屋が静まり返る。
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「え……?」
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桐谷は思わず聞き返した。
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奏は真っ直ぐ桐谷を見つめる。
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「夏までに結果が必要なんですよね。」
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「だったら、一番分かりやすい結果を目指しましょう。」
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「地区コンクールです。」
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美琴が驚いて奏を見る。
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玲央は口元に笑みを浮かべた。
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「いいじゃん。」
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透は腕を組みながら頷く。
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「面白ぇ。」
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「やってやろうぜ。」
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桐谷は四人を見回した。
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つい昨日まで、
音楽から離れていた子どもたち。
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自分の居場所を探していた子どもたち。
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その全員が、
今は同じ方向を向いている。
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桐谷の目に涙がにじむ。
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「……ありがとう。」
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その一言しか出なかった。
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四人は照れくさそうに笑う。
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朝日が音楽準備室いっぱいに差し込む。
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新しい目標。
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地区コンクール出場。
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放課後ブレーメンは、
初めて同じ夢へ向かって歩き始めた。
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第11章
「決意の朝」




