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放課後ブレーメン  作者: まーサンタ


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11/21

第10小節 「守りたい場所」



⸻


放課後の音楽準備室。


夕陽が窓から差し込み、部屋を茜色に染めていた。


部員たちは帰り、部屋には桐谷響子(きりたに きょうこ)と黒川透(くろかわ とおる)の二人だけが残っている。


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「……実はね。」


桐谷は静かに口を開いた。


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「今日、教頭先生に呼ばれたの。」


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透は黙って聞いている。


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「吹奏楽部は……夏までに何か結果を出せなければ、廃部になる。」


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その一言で、部屋の空気が止まった。


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「……は?」


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透は目を見開く。


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「部員も増えた。」


「昨日の演奏会だって成功した。」


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「それでも?」


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桐谷はゆっくりとうなずく。


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「学校にも事情があるの。」


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「活動予算。」


「部活動の数。」


「限られた設備。」


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「だから、教頭先生も苦しい立場なのよ。」


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透は拳を強く握り締める。


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「ふざけんな……。」


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「黒川君。」


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「やっと……。」


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透の声が震える。


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「やっと見つけたんだ。」


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「俺の居場所を。」


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「黒川君、落ち着いて。」


⸻


しかし。


⸻


透は桐谷の横をすり抜ける。


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「待ちなさい!」


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桐谷の声も届かない。


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透はそのまま職員室へ向かって走り出した。


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教頭室


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勢いよく扉が開く。


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「失礼します!」


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教頭が驚いて顔を上げた。


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「黒川君?」


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透は机の前まで歩き、


その場で深く頭を下げた。


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そして。


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膝をつく。


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「お願いします!」


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突然の土下座。


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教頭は目を見開く。


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「黒川君、立ちなさい。」


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「嫌です。」


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透は頭を下げたまま叫ぶ。


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「吹奏楽部をなくさないでください!」


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「俺……。」


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声が震える。


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「やっと居場所を見つけたんです。」


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「やっと。」


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「初めて。」


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「誰かと音を合わせるのが楽しいって思えたんです!」


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教頭は静かに透を見つめていた。


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しばらく沈黙が続く。


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やがて教頭は口を開く。


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「先日の演奏。」


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透は顔を上げる。


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「あのトランペットは見事だった。」


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「正直、驚いたよ。」


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「君ほど表現力のある演奏を、高校生で聴いたのは久しぶりだった。」


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透は何も言えない。


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褒められても、


今は嬉しくなかった。


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教頭は続ける。


⸻


「だが。」


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その一言で空気が変わる。


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「学校は、一人の才能だけでは運営できない。」


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「部活動には予算が必要だ。」


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「楽器の維持費。」


「施設管理。」


「顧問の配置。」


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「限られた資金を、すべての部活動へ公平に配分しなければならない。」


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「私は感情だけで判断することはできない。」


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透は拳を震わせる。


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「じゃあ……。」


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「どうすればいいんですか。」


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教頭は静かに答えた。


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「結果を示すことだ。」


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「夏までに。」


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「学校が、この部には未来があると判断できる結果を。」


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「それしかない。」


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透は唇を噛み締める。


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悔しい。


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怒りではない。


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何も言い返せない自分が、


悔しかった。


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「……失礼しました。」


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透は立ち上がる。


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深く一礼し、


教頭室を後にした。


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翌朝


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朝日が校舎を照らす。


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まだ人も少ない時間。


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音楽準備室の扉が静かに開く。


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中には、


神谷奏(かみや かなで)が一人。


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いつものようにピアノへ向かっていた。


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「……早いな。」


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振り返ると、


そこには透が立っていた。


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いつもより少しだけ疲れた表情。


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「透?」


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透はゆっくり部屋へ入り、


奏の前に立つ。


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「昨日。」


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短く息を吐く。


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「教頭と話してきた。」


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奏は驚いた表情を浮かべる。


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「全部、話す。」


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「この部が今、どんな状況なのか。」


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透は静かにそう告げた。


⸻


その言葉を聞いた奏の表情が変わる。


⸻


音楽準備室の静かな朝。


⸻


四人の運命を変える話が、


今、始まろうとしていた。


⸻


第10章


「守りたい場所」

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