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第8話 あれだけ足掻いたのに、結局捕まった! ふふ。

巨体のスライムが、

湿って粘つく大きな触手を伸ばしてきた。

それが僕の目の前、頭上からゆっくり近づいてくる。


叫ぼうとしても、声が出ない。

逃げようとしても、足が持ち上がらなかった……。


ああ、さっきの小さなスライムも、こんな気持ちだったのか?


「桃晝、早く逃げて!

小道から逃げるよ!」


アフの悲鳴のような声で、僕は一瞬で我に返った。

僕は右へ飛びのく。


その巨大な触手は、ゆっくりと地面に叩きつけられた。


巨大なスライムが、出口の道を塞いでいる。

僕はすぐアフの後を追った。


そして隣にある、百盞花でできた白い花壇の中へ隠れた。


「アフ!

法術を使えるんだろ?

早くあのスライム王を追い払ってよ!」


さっき「現影」の法術を使った時点で、

かなり体力を削られたような不快感があった。


ここはやはり、アフに任せたほうがいい。


「使えるようになるまで、少し時間が必要なの。」


アフは緊張した様子で僕を見た。

その手には、すでに華やかな法杖が握られている。


法杖の前後には美しい宝石がついていて、

中央には豪華な紋飾りがびっしり刻まれていた。


「さっき石化術を張ったせい?

発動しなくても魔力は減るから、回復待ちってこと?」


「違うよ、あはは。

女神だから魔力はたっぷりあるよ!」


アフが自信満々に答えたので、

僕は意味がわからず彼を睨んだ。


「じゃあ石化術にこだわらなくていいだろ。

他の魔法は?」


「それも無理!」


「なんで?他の魔法を使えないの?」


しまった、さっきの声が大きすぎた。

巨大なスライムが触手を揺らし、ゆっくり動き始める。


僕はアフの手を引いて、

別の花壇へ移動して身を隠した。


「そんなわけないでしょ。

使える魔法なら何千種類もあるよ。

五分あれば、

この花壇一帯を更地にすることだってできるんだから。」


「どうして無理なの?」


「ただね、この世界の法術は、

特定の『精霊』に魔力を食べさせて発動するの。

『精霊』はその代わりに、自分たちの特性を使って、

要求どおりの効果を起こしてくれるんだよ。」


「じゃあ、この辺は精霊が少ないってことか?」


「違うの……。」


アフはそう言って、かわいく微笑んだ。

僕はその顔を見ながら考える。


冒険ゲームを何本もやってきた、

ベテラン玩家としての勘が働いていた。


魔力量でもない。

環境の問題でもない。

なら、僕は何を見落としている?


「さっき、精霊をいっぱい集めて石化術を張ったでしょ?

でもまだ発動してないうちに、カイオスが止めたの。


だから魔力を回収したんだよ。


『この女神、私たちをからかったのか?

一時間も待たせておいて、やっぱり魔力はいらないって?』


『詐欺師なんか相手にするな。

ほかの精霊にも知らせに行くぞ!!』


とにかく、精霊を騙したって噂が、この近く一帯に広まっちゃったの。ふふ!」


アフが靛藍の長い髪を振るたび、

その毛先が僕の顔に触れて、少しくすぐったかった。

草むらの中は暗くて静かだった。

今の僕の心には、ひどく居心地がいい。


このままずっと、

ここに埋まっていたくなるくらいに。


「そんな完敗みたいな顔しないでよ。

プロの隊員として言うけど、あいつらの記憶力は四時間しかもたないから……

わあっ、まぶしい!」




なんで四時間って知ってるんだよ。





そうツッコむ暇もなかった。

僕たちが隠れていた草むらの上が、勢いよくめくり上げられる。


太陽の光が、まっすぐ僕たちに降り注いだ。

けれど、僕の心の闇までは照らしてくれなかった……。


「食べ物、ぷちゅ。」


巨大なスライムが、僕たちを見ていた。

僕の襟は、アフに引っ張られている。


僕はすぐに、アフの手を叩き落とした。


「アフ、もう逃げるのはやめよう。」


「はあ?

桃晝、やめてよ。命を諦めるつもりなら、

この世界のスライムには骨がないから……。」


「違うよ。重構術なんていらない。

僕の能力、忘れたの?」


「不戦之約?」


アフが落ち着いたのを見て、

僕は自信ありげに笑った。


さっき桃星の前では、何度も使えた。

つまり、消耗の激しい魔力ではない。


しかも僕が相手と親しくしたいと願えば、

勝手に発動するようにも見えた。


なら……。


「ふふん、

僕だって本当は使いたくなかったんだから!」


僕は目の前の巨大なスライムを見つめた。

相手に僕を好きになってほしいと、強く願う。


攻撃性さえ下がればいい。

隙を見て、アフを掴んで逃げればいい。


スライムの巨大な顔が、じっと僕を見ていた。

ぴくりとも動かない。


どうやら、技能は成功したらしい。

え?かわいいけど……。





でも脳裏に浮かんだのは、

さっきのスライムの軽蔑した顔だった。





あれだけ頑張って近づこうとしたのに。

ああ、もう関わりたくない……。


「桃晝、技能が切れてるよおお!

私たち食べられる!」


「食べ物!ぷちゅ!」


僕とアフは、一瞬で触手に巻き上げられた。

僕の体は、そのまま巨大な顔に押しつけられる。


どうしてこうなった?

さっき僕、嫌がる気持ちを出したのか?


なんなんだ、このポンコツ技能は。

ああ、もう駄目だ……。


わあ、よく見たら。

スライムの口の中、歯がない。


しかも、あんなに大きく開くんだ。

たぶん、そんなに痛くはないよね。


ふふ。

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