第7話 僕の柔らかい心まで、こわばった
「桃晝、どうして餌をあげないの?
そのクッキーはおいしくないよ。ぱさぱさだし。
お腹が空いたなら、僕があげたおにぎりを食べて!
すごく柔らかいし、癒やされるよ!
あ、もしかして、やり方を教えたほうがいい?」
アフの手の中では、スライムが目を細めていた。
アフに何度も揉まれて、
色も少しずつ白くなっていく。
小学生の頃、ひよこを飼った時は、僕が主に世話をしていた。
地元の動物園のウサギを里親として支援したこともある。
小動物と触れ合って、
世話もしてきた僕に、教わる必要なんてある?
手のひらより少し大きいくらいのスライムが、
立ち止まって僕を見ていた。
さっきのスライムは少し大きかったし、敵意も強かったのかもしれない。
小さいほうが、まだ大丈夫かも?
僕はそっと手を伸ばした。
前に小動物の世話をした時みたいに、
ゆっくり優しく近づけていく。
触角があるなら、匂いを嗅ぐはずだ。
嫌なら、何か反応するはず。
よかった。
スライムはやっぱり動かない。おとなしくその場にいた。
僕は手を開いて、さらにゆっくり近づけた。
そしてついに、柔らかそうなスライムに触れた……。
なんで石みたいに硬いの?
どれだけつまんでも、
さっきアフが揉んだ時みたいに変形しない。
僕は困って、手を引っ込めた。
え?
スライムの顔にある黒い点みたいな目が、ものすごく大きくなっていた。
どうして顔の三分の一も占めてるの?
スライムの目って、そんなふうに変形するの?
僕が軽くつつくと、そいつは石みたいに後ろへ倒れた。
突然、そいつの触角がぴくっと震えた。
そして背を向けて、アフのそばへ滑っていった。
「スライムって魔物だろ?
人を傷つけるやつだろ?」
その反応に、なぜか僕の心は少し痛んだ。
「ここでは魔獣って呼ぶの!
でも、かわいくて無害な魔獣だよ!」
アフはもうスライムたちに囲まれていた。
僕には笑い声だけが聞こえる。
僕がやっていた探索ゲームなら、
こういうやつはとっくに攻撃されている。
「桃晝、コツを教えるね。
手は横から近づけるの。
この子たち、攻撃されるって思うと怖がるんだよ!」
「ふん、魔獣ってことは危険なんだろ?
そのかわいい見た目の裏でさ。
油断したところを襲ってきて、
そのまま溶かされるかもしれないだろ!」
「ははっ!
桃晝は考えすぎだよ!」
さっきまでしゃがみすぎて、足がすごくだるい。
僕は冷たい目で、そのスライムたちを見た。
どこか座れる場所を探そうとした、その時。
「ぷちゅ!」
僕の尻に、柔らかい感触があった。
まるで座布団に座ったみたいだった。
……まさか?
僕は慌てて立ち上がった。
一匹のスライムが、慌てて滑っていく。
僕の尻は少し濡れていた。
ぺしゃんこに潰れて変形したスライムが、
少し離れた場所で顔を上げて僕を見ていた。
「はあ、今度はどんな顔をするんだよ?」
そいつはただ目を細めて、僕の尻のそばにすり寄ってきた。
それから、体全体が白っぽくなっていく。
「何それ?」
僕が位置をずらして座ろうとした時、
また柔らかいものに触れた。
慌てて立ち上がると、
ぺたんこになったスライムが滑っていく。
全身が少し透けた白色になっていた。
さっきまで、近くには一匹もいなかったのに。
「わあ、桃晝。
スライム、すごく僕のこと好きなんだね!」
アフは何匹かのスライムが僕のほうへ来るのを見て、
笑いながら別のスライムを揉み続けている。
僕は隣の白くなったスライムを見て、少し腰を浮かせた。
すると、そいつの柔らかい体が上下に変形し始める。
しかも、一定のリズムでぷるぷる揺れていた。
「どういう意味だよ?
何なんだ、これ?」
僕は手を振って、そいつらを追い払った。
そして慌てて、別の場所に座ろうとした。
「ぷちゅ!」
二回目だ。
今度は二匹の上に座ってしまった……。
気づけば、僕はもう四回も場所を変えていた。
もう怖くて、まともに座ることもできない。
あいつらはそこまで近づいてこない。
なのに、今にも来そうな気配だけはある。
しかも並び始めてるし。
僕は遊具か何かになったのか?
アフは楽しそうに、手でスライムを揉んでいる。
なのに僕は、こんな妙な方法で好かれているらしい……。
すると突然、スライムたちが一斉に散っていった。
僕が動かないから、つまらなくなって去ったのか?
やっぱり、心にくる魔獣だ……。
小さくて柔らかい、癒やし用の玩具でも欲しい……。
僕の頭の中に、いくつかの物が浮かんだ。
しかも作り方まで、なぜか思いついてしまう。
さらに、「現影」という術まで頭の中で形になっていく。
これは魔道具師の師匠の記憶なのか?
「スライムみたいに柔らかくて、等身を縮めたもの。
現影!」
僕は自分の手のひらを見た。
すると案の定、手のひらサイズの物が作られていた。
師匠の記憶がよみがえる。
現影で作った魔道具は試作品で、
だいたい三十分で消えるらしい。
しかも、その物を構成する概念が必要になる。
それでも一回で成功したなら、悪くない。
さっき、色も変えられそうだと思った。
白爪のあのピンク色、けっこう可愛かったし。
手のひらの中のスライムも、光の中で淡いピンクに変わっていく。
でも、触り心地はかなりざらついていた。
僕が肌の感触を思い浮かべると、
手の中の魔道具がまた変わる。
僕は軽く握ってみた。
この弾力、かなりいい。
思わず笑ってしまった。
この術、なかなか便利かもしれない。
その時、アフが目を見開いて僕を見ていた。
「桃晝、君……。」
え?
待て、それスライムだ。
僕は自分の手の中にある物を見て、青ざめた。
形がちょっとまずい気がする。でもスライムだよな?
僕は慌てて、アフに見せようと振り向いた。
その瞬間、柔らかいものにぶつかった。
すぐ横に、一階建てくらいある巨大なスライムがいた。
ぷちゅぷちゅと音を立てている。
「桃晝、君……っ。
後ろにすごく大きいスライムがいる!
え、まさか……スライム王?」
「こんなに大きいの?
へへ、触ったら癒やされそう……?」
「桃晝、違うよ!
あれはすごく攻撃的なんだ、早く逃げて!」




